真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百十話

 

 

俺のかめはめ波で敵の陣営を強襲した後に春蘭の突撃で突破した。見てる分には簡単に突破出来たように見えるが、春蘭の突進力によるものが大きいだろう。何故、そんな事が分かるかって?俺も絶賛、突撃中だからだよ。

 

 

「春蘭、何故俺も一緒に突撃させるんだ!?」

「私がお前を守ると言っただろう!私の目の届く範囲にいれば守れるだろうが馬鹿者が!」

 

 

俺の疑問に戦闘中故に怒号で答えた春蘭。いや、馬鹿はお前だと言い返したい。

 

 

「よし、前線は崩壊したな。ならば馬超か甘寧を探すぞ!」

「既に俺を守るって事忘れてないか!?あの二人に遭遇したら不味いんだよ!」

 

 

主に俺の命が!俺はあの二人から超恨み買ってるんだから!俺の意思を無視して春蘭は俺を無理矢理つれて戦場を駆ける。

 

 

「だったら馬超と甘寧を討ち取れば問題あるまい!」

「問題しかねーよ!っと……あれは」

 

 

春蘭に引っ張られたまま進行方向を見ると、真桜と対峙してるのは馬超と馬垈だった。

しかし、馬超達は俺達を見るなり、即座に撤退していった。

 

 

「逃がすか!追撃するぞ!」

「ちょ、無茶言わんで下さい!馬に乗った馬超に追い付けるんは春蘭様だけやで!それに副長も一緒に行く気でっか!?」

「そうだぞ、落ち着け春蘭!」

 

 

馬超を追撃しようとする春蘭を真桜と俺は止める。

 

 

「ならば追跡隊を組織する!霞か季衣でも呼んでこい。秋月はこのまま私と来い。貴様には気弾が有るのだろう?敵陣で放てば効果もあるだろう!」

「人間爆弾か!兎に角、追跡は無理だって」

 

 

コイツ、マジで俺を便利な気弾生産機だとでも思ってんじゃないだろうな!?

この後、霞が俺達に追い付いて「追撃は無し」との大将や軍師達の伝言を持ってきた為になんとか春蘭を大人しくさせた。

本陣に戻った後、春蘭は一刀に怒鳴っていたが、大将の無理な追撃は厳禁とお達しを受けて春蘭沈黙。

 

煮え切らない春蘭の思いに大将は近隣から食料調達に行ってこいと命を下した。春蘭の他にも割り切れないのが居たらしい。本当にグラップラーの集まりである。

 

 

「春蘭様、一緒に行きましょうよ。この時期なら猪や鹿も沢山いますよ!」

「……クマや虎はいるか?」

 

 

狩りに誘う季衣に春蘭は物騒な事を言い始める。

 

 

「多分、いると思いますけど……」

「ならば、そやつらをぶちのめして、このウサを晴らしてくれる!行くぞ季衣!」

 

 

少し、不安そうな季衣に春蘭は熊狩りをする気満々らしい。季衣のテンションが明らかに下がったが……ああ、なるほど。

 

 

「季衣、三日月の熊が現れたら真っ先に逃げろよ」

「……はーい」

 

 

俺の発言に季衣はテンション低めに返事を返した。やっぱりその事を気にしていたのか。

そんなテンションが若干下がった季衣や他の将を引き連れて春蘭は狩りへと向かっていく。まさか……居ないよね、三日月熊。

しかし、ヤバイかと思ったけど何とか乗り切った。

 

 

「おかえりなさい純一さん。よく無事でしたね」

 

 

俺がそんな事を思っていると一刀が帰って来た俺を迎えてくれた。俺自身無事な事にビックリだ。

 

 

「ああ……凪や大河に取って置きの修行を考えていたからな。こんな所でヤられる訳にはいかん」

「どんな修行を考えてたんですか……嫌な予感しかしませんけど」

 

 

俺の発言に一刀がジト目で俺を見ている。そんなに期待するなら教えてやろう。

 

 

「ズバリ……足でピアノを弾かせる修行だ」

「その世代限定な特訓方法を思い付かないで下さい」

 

 

俺の考えた修行方法に、一刀は深く深く溜め息を吐いていた。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

先程の地点に今夜は夜営する事となり、陣営を設置した後に軍議となった。

しかし、その会議は現状の戦力や次の作戦が不安になるものばかりだった。保有する戦力の差や地形を知り尽くしているのは相手側。更に彼方は城を構えていて此方は攻めなければならない側。等と心配や不安な事ばかりが口に出される。軍議が進むにつれて弱音や溜め息が増えていた。そんな中、俺は大将に視線が行った。あ、相当怒ってると直感する。将や軍師の殆どが弱音を吐いている現状に飽きれと怒りが出ているようだが……大将からは焦りが感じられた。やれやれ……こんな時は俺の出番か。話し合う、皆を尻目に俺は席を立ち、更に大河と香風を連れて大将の席の後ろに回った。

意外なことにそれに気付かない大将は絶を手にして立ち上がる。俺が背後に立ってるのも気付かないなんてよっぽどだな。さて、俺は俺で始めるか。

 

 

「今、溜め息をついたり、弱音を吐いたりした者」

「……はい?」

 

 

大将の凛とした声が小さく響く。その中で俺は手足でリズムを取り始めた。

 

 

「前に出なさい。ここで私自ら首を飛ばしてあげるから」

「っ!」

 

 

絶を手にした大将にその場の全員が息を飲んだ。大将の雰囲気が本気だと感じたからだ。

俺はそれを無視しつつ上体を反らしながら腰を落とし、左腕を上げて前方を指さす。

 

 

「城を発つ時に言った筈よ。この先は厳しい戦いの連続になると……苦戦する状況を認めるのは将てして必要な事。けれど諦めの溜め息を吐くことは許さない」

 

大将の演説を聞きながら、膝を曲げたまま左足を前に出し、両手両足をクロス。両腕を肩の高さまで「グイン!」と上げ、同時に右足も上げて片足でのつま先立ちに。

 

 

「まして、兵の前で将がそれをすれば……どうなるか分からない皆ではないでしょう?」

 

 

高圧的な大将に全員が怯えた様な表情になっているが、俺は素早く腰を「バッ!」と落とし、いわゆるコマネチの体勢に。この時、手で太ももを叩きながらつま先は外側にひねる。これらを数回繰り返す。

 

 

「……純一は純一で私の背後で何をしてるのかしら?大河や香風まで巻き込んで」

「そりゃ大将が焦っていたからだ。だったら俺がふざけて冷静にさせないとな」

 

 

大将は自身の発言に真面目に対応しない俺に絶を突き付けるが、俺は最後に腕をクロスさせた状態で決めポーズ。大河や香風も完璧に踊れていたみたいだ。教えた甲斐もある。

 

 

「私が……焦ってるですって?」

「いつもの大将ならツッコミの一つでも入れてから俺を咎めてるよ。真っ先に絶なんざ余裕がない証拠だ」

 

 

大将に睨まれるが俺は絶を指先で挟みながら反論する。それと同時に良い匂いと元気そうな声が軍議の場に響く。

 

 

「失礼しまーす!流琉特製、猪の丸焼きができましたよー!」

「みんな、お腹すきましたよねっ!けど、流琉の料理はとっても美味しいですから、元気出ますよ!」

「お待たせしました。皆さんが食材を捕ってきて下さったので時間が掛かりましたけど沢山、ご用意しました」

 

 

料理を抱えた流琉、季衣、月に皆がポカンとした表情をしていた。

 

 

「……あれ?皆さん、どうかしましたか?」

「……アナタ達、見ないと思ったら料理?」

「はい!腹が減っては戦はできぬと前に春蘭様から教わりました!」

「純一さんから天の国のお料理を教えて頂いたので色々と試してみました。お口に合えば良いのですが」

 

 

軍議に参加していなかった流琉や季衣に今頃気づく辺り、相当にキテたな大将。月はメイドとしてお付きで来てるから軍議に参加してないのは当然だが。

 

 

「ぷ、くく……あはははははっ!」

「か、華琳様!?」

 

 

先程までの殺伐とした空気は既に四散していた。今のなんとも言えない空気に遂に大将が笑い始めた。

 

 

「ごめんなさい。今の報告で余裕を無くしていたのは、どうやら私のようね。まったく……自分じゃ気付けないものだわ」

「何かあったんですか?」

「いんや、何もなかった……いや、大将に前に教えた躍りをしたかな?」

「えー、前に練習した踊り?ズルいよー!」

 

 

自身に余裕が無かった事を認めた大将は自分に冷静さを取り戻してくれた流琉や季衣、月に礼を言っていたが季衣は以前、俺が教えたギャングダンスを自身が知らないところで披露された事に不満を感じていた様だ。

 

 

「じゃあ、戦いが終わったら教えた皆で大将に披露だな」

「はーい!」

 

 

俺が季衣の頭を撫でると季衣は嬉しそうに返事を返してくれた。因みに俺がギャングダンスを教えたのは大河、季衣、流琉、香風、ねねの五人だ。前に気まぐれに教えたら、珍しい踊りだからと気に入ったチビッ子達。すっかりとギャングダンスをマスターしていた。

 

 

「それはまた別の機会にお願いするわ。では、折角の流琉と月の料理よ。皆で頂きましょう。桂花、この後の策は流琉の料理で腹ごしらえを済ませてから、もう一度考えなさい。余裕を持たずに考えた策ではこの戦いは乗り切れないわ」

「御意。最上の作戦を提示させていただきます」

 

 

いつもの調子を取り戻した大将に皆が安堵し、料理に手をつけ始める。そんな賑わいの中、大将がキョロキョロと辺りを見回して小首を傾げた。

 

 

「あら、季衣。一刀は?」

「見てませんよ?兄ちゃん、軍議に出てたんじゃ?」

 

 

そして此処に来て漸く、一刀の存在に気付く大将。今頃の辺り、遅いっての。

 

 

「変ね……純一、なにか知らない?」

「小川の辺りに行ってみな……そこで休んでる筈だ」

 

 

大将から一刀の事を聞かれて一刀が居るであろう場所を教える。さっき、川で顔を洗ってくるとか言ってたからな。その場所を聞いた大将はすぐに移動し始めて……俺もその場を後にした。

 

 

「ちょっと、食べないと無くなるわよ?」

「先に一服したくてな。俺と大将と一刀の分は分けといてくれよ?」

 

 

離れようとした俺を桂花が呼び止めるが俺は振り返らずにタバコを見せて、その場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か……は……」

 

 

先程の軍議の場から離れた俺は、周囲に誰も居ない事を確認してから岩を背にしながら息を吐いた。軍議の途中から猛烈に体調が悪くなったが、周囲に気付かれない為と大将を冷静にさせる為にふざけた。けど流石に限界だった。

俺は胸ポケットからラスト数本となったタバコを取り出して火を灯すと煙を肺に入れた。いつもならリラックス出来る筈のタバコだが、今は体調の事もあるのかリラックスは出来なかった。

 

 

「ったく……大事な局面ほど体調が悪くなるな俺は……」

 

 

俺は吸っていたタバコを地面に落とした後、踏んで火を消すと桂花達が待っている軍議の場所へと戻った。

戻ると大将と一刀も戻ってきていて並んで料理を食べていた。うんうん、微笑ましい……と思ったら顔を赤くした大将は食べ終わった皿を投げつけ俺にクリティカルヒット!いつもの調子に戻った様で何よりです。

 

 

 




『ピアノを足で弾く』

『柔道一直線』の登場人物の一人がピアノの鍵盤の上に跳びあがって、足で「ねこふんじゃった」を演奏した。このシーンは有名で作品を知らない人でもネタで知る機会が多く有名になった。


『ギャングダンス』

ジョジョの奇妙な冒険 第5部で主人公達を襲いに来た敵ズッケェロを退けた後に捕らえたズッケェロに拷問をした際に何故か、ナランチャが唐突に踊りだしたのが、このギャングダンスである。更にこのダンスの中、ナランチャ、ミスタ、フーゴが真面目な表情で踊る為、かなりシュールな絵面となっている。

拷問に悶え苦しむズッケェロの背後で行われるダンスはシリアスな展開の中のギャグシーンとして有名。

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