大将と劉備の決闘は大将が劉備の剣を弾き飛ばし、尻餅を着かせ決着がついた。打つ手がない事と大将に全てを否定された劉備が降参し、大将が戦場に居る兵士達に向けて戦いが終わった事を告げた。魏を大将、蜀を劉備、呉を孫策が治める三国同盟が締結された。
「今、此処に闘いの終結を宣言する!」
「「「「ワアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーッ!!!」」」」
大将による闘いの終結宣言、それは同時に三国同盟の締結宣言でもあった。その宣言に今まで戦っていた者達が戦いを忘れ、戦争が終わった事の歓喜の叫びを上げた。
「やれやれ、やっと終わったか……」
戦いが終わった事実に俺はドッと疲れが押し寄せた。いや、戦いっぱなしで疲れたのも事実だけどさ。
しかし、俺がこの世界に来てから怒涛の日々だったからなぁ。それと同時に疑問も訪れる。俺はこれからどうなるのか……
「華琳様の終戦宣言で戦は終わったのよ。何、難しい顔してるのよ」
「いやぁ……これだけの怪我人を何処に運ぶのかなぁ、と」
桂花が俺の服の袖を引きながらジト目で睨んでる。咄嗟に誤魔化したけど桂花のジト目は治まらない。
「怪我人なら蜀の城に運ぶに決まってるでしょ。それよりも、心配するならこれからの事を……心配しなさいよ」
「桂花……」
不意に桂花は掴んでいた袖を離すと俺の手を握ってきた。指を絡ませる所謂、恋人繋ぎで。
そして『これからの事を』って言葉が意味する物は……
「これからね……さしあたり荀緄さんと顔不さんに挨拶に行かなきゃか」
「っ!……この馬鹿。私が言ったのは魏でのこれからで……」
俺の発言に桂花は顔を真っ赤にしながら俺を睨むが怖くない。と言うか可愛いです。
「おんや?俺は終戦を迎えた事の報告にと思ったんだが……桂花は何を考えた?」
「もう……からかわないでよ、馬鹿」
俺が桂花に何を思ったか問い掛ける。我ながら意地が悪いと思っていると桂花はギュッと繋いだ手の指の力を強めた。その表情は何かを待ち望んでいるけど、不安そうな顔だった。これは……もう覚悟を決めるしかないな。
「……桂花、俺と」
「ふくちょーっ!何、人を差し置いてイチャイチャしてんねん!」
「桂花、抜け駆けは許さんぞ?」
「ちょっ、アンタ達!?空気読みなさいよ!」
俺が一世一代の告白をしようとしたら俺の背中に真桜が抱き付き、桂花の肩に華雄が手を乗せ語り懸ける。くそ、後少しだったのに!
「ご無事で何よりです、秋月さん。怪我をしていたらどうしようかと思いました」
「ふん、ねねは心配なんかしてなかったのですぞ!」
そこへ斗詩とねねが合流する。やれやれ、心配懸けてばかりだったからな。
「気を使った戦いばかりで疲れてはいるけど、大丈夫だ。今回は大きな怪我はないよ」
「良かったのです。これで大怪我をしていたら月も詠も泣いてしまうのですぞ」
「先程、非戦闘員の皆さんも城に入城させて怪我人の手当てと炊き出しが決まりましたから二人とも直ぐに来る筈ですよ」
俺が怪我をしてないアピールをするとねねと斗詩から後方待機していた月や詠達と言った非戦闘員達が物資を運び、戦処理の為に動くのだと言う。流石、指示が早いね大将。
「それに伴い、『夕刻までにそれらを終わらせよ』との指示もあったぞ。キリキリ働かぬか」
「うおっ!祭さん!?」
説明の続きを促すように背後から祭さんが近付き、俺の肩を組んだ。マジでビックリしたわ。
「なんじゃ、戦は終わったのにワシは除け者か?」
「今さっきまで魏との戦いだったのに切り替え早すぎでしょ」
「副長、ご歓談中に失礼します」
ケラケラと笑う祭さんにツッコミを入れると俺の周囲には人だかりが出来ていた。血風連がゾロゾロと現れたのだ。そして、その内の一人がスッと一枚の紙を俺に渡す。
そこには『戦後処理を最優先。刻限、夕刻まで』と大将直筆の一文が書かれていた。
「祭さん、話は後でにしましょうか。このままだと戦が終わった後に大将に斬られかねないので」
「ハハハッ相変わらずの様じゃな。うむ、戦も終わったのだから時間はいくらでもある。後程、ゆっくりと話をするとしよう」
大将のお願い(脅し)に俺が仕事に行こうとすると祭さんは察してくれたのか離れてくれた。
「じゃあ……真桜は血風連の一部を引き連れて工兵隊を結成しろ。壊れた城壁や戦場の道慣らしをしてくれ。華雄は残りの血風連を引き連れて怪我人の移送を」
「ちぇー、副長……後でウチともイチャイチャしてや」
「まずは仕事を片付けなければならないな」
俺の指示に真桜と華雄は素早く動いてくれる。この辺りは警備隊で鍛えられた部分が大きいな。
「斗詩は月と詠と合流して炊き出しの手伝いをした方が良いな。ねねは炊き出し場所の確保。大河は……治療班がいる天幕に行って腕を診てもらえ。多分、折れてるぞ」
「はい。秋月さんは無理しないでくださいね」
「分かったのですぞ!」
「お、押忍……」
次いで斗詩、ねね、大河に指示を出す。大河があのままだと、とんがり帽子を被ったお嬢さんが心配しそうだからな。
「こうして見ておれば見事な手並みじゃな。皖城で会った時は雛鳥ばかりかと思ったが、ワシの見立てが間違っておった様じゃ」
「あれから色々と成長したんですよ。祭さんはこれからどうするんですか?」
祭さんは一時期、魏に居た頃と今を比べているのだろう。あの時は良いようにあしらわれたからなぁ……
「まだ三国同士の諍いがあろう。特に若い将や兵士はな。一先ず、そ奴らを叩いてやるとしよう」
「では、また後で会いましょう」
俺は祭さんとの会話を打ち切ると桂花を連れて移動しようとする。さっきは中断されたが、伝えるべき事は伝えるべきだ。
「ああ、それと聞きたかったんじゃが……思春に何かしたのか?お主の着ていた服を着て顔を赤くしておったぞ」
祭さんの爆弾発言に俺と桂花の動きはピタリと止まる。しまった……その説明と言うか弁明もしなきゃだった。
「その話も後で聞かせてもらうとしよう。後でな二人とも」
「悪い顔してるわぁ……さて」
祭さんはニヤニヤしながら、その場を後にした。確信犯かよ、チクショウ。仕事が余計に一つ増えたな。差し当たり、一番最初にしなきゃならないのは……
膨れっ面になっている猫耳お嬢様のご機嫌回復だろうか。