真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百十九話

 

 

怪我人を運んだり、炊き出しをしたりと忙しかったが、戦に関わった者達全員が協力したから作業が早い事、早い事。

 

 

そして今は同盟を祝う宴で皆、盛り上がっている。大将は酔っ払った劉備と孫策に絡まれている。春蘭、華雄、霞は関羽と飲み比べ、秋蘭は周瑜や陸遜と何やら話をしている。

 

凪は孫権、甘寧、趙雲と戦いについて語り合い、真桜は孔明、呂蒙と発明について意見を交わし、沙和、栄華は馬岱、孫尚香とお洒落トークに盛り上がっている。

 

天和、地和、人和は宴の余興として歌を歌い、風、稟、ねねは田豊と将棋をしていた。

 

 

流琉、月、詠は料理を振るまい、給仕としてバタバタと慌ただしくして季衣、恋、香風、華侖は張飛、魏延、孟獲達とフードファイトをしていた。

 

祭さんと黄忠と厳顔の大人の女性達は酒に溺れていた。

 

斗詩は袁紹、文醜に迫られていた。多分、未だに斗詩に依存しようとしてるんだろうけど今の斗詩は『魏の顔良』なのだ。関係をリセットしないと昔みたいには笑い合えないだろうな。

 

 

しかし、不思議なもんだな……半日前まで戦争して殺し合いをしてたのに今は笑って酒を飲んで騒いでるんだから。

 

 

「俺達の世界じゃ考えられないですよね」

「ああ……戦争が終わった、その日に敵国の人間と笑い合うなんて出来ないだろうな」

 

 

俺の隣で同じく宴の様子を見ていた一刀が呟く。一刀も同じ事を考えていたみたいだ。天の国……現代じゃ有り得ない話だ。単なる喧嘩程度なら有り得る話だが国同士の争いで、ここまで相互理解を得られるのは不可能だろう。だからこそ、俺も一刀も摩訶不思議な今の状況に現実感を得られず、何処か他人事の様に宴を見ていた。

 

 

「ま、俺達は戦に参加していたとは言っても、この世界の人間じゃあない。過去と未来で価値観は違うだろうよ……フゥー」

「でも……充足感はあります。俺も……戦いが終わった瞬間に居たんだって」

 

 

俺が煙管に火を灯して煙を肺に入れると一刀が呟く。俺だってそうだよ。

 

 

「無気力に生きる現代社会の人間と全力で生き足掻く三國志の人間じゃ生き方も価値観も違う。だからこそ、命懸けの戦いで分かり合えたんだろ。だが、充足感があるなら、俺達もこの世界の人間になったのかもな」

「かもしれませんね」

 

 

俺の言葉に満足したのか、一刀も笑みを溢す。なんて思っていたら劉備と孫策に絡まれていた大将が俺達の方に来た。

 

 

「おや、お疲れですな大将」

「桃香があんなに酒癖が悪かったなんて思わなかったわ」

 

 

疲れた様子で来た大将。劉備や孫策に散々絡まれて疲れたらしい。

 

 

「なら、大将。少し酔いを覚ましに行ってきたらどうだい?」

「あら、悪くないわね。一刀、付き合いなさい」

「あ、ああ……分かった」

 

 

俺の言葉に頷いた大将が一刀を連れて外へと行く。然り気無く手を繋いで行く辺り、酔って大胆になってるな大将。

 

 

「その……ありがとね、純一」

「大将が素直に礼を言うなんざ、明日は雨でも『バキィ!』ありがとうございます!」

 

 

大将は一刀と手を繋いでいるので反対の拳が俺の顔面を捉えた。ある意味、いつもの光景に俺も一刀も笑い合い、大将は溜め息をついた。

 

 

「まったく……」

「まあまあ、大将……二人きりになるなら今の内ですよ」

「じゃあ、ちょっと行ってきます」

 

 

俺は二人を見送り、ごゆっくりと手を振った。それと入れ替わる様に桂花が俺の隣に座る。

 

 

「華琳様と北郷を連れ出したの?」

「国に返ったら忙しいのと、周囲に邪魔されるのが目に見えてるから二人きりにさせるなら今しかないだろ」

 

 

桂花がジト目を向けてきたので思った事を口にする。俺は桂花のジト目から逃れるように視線を宴に戻し、笑みを溢した。

 

 

「何、黄昏てるのよ」

「ああ……不思議なもんだと思っていたのと、幸せなもんだと思ってな。さっき一刀とも話してたんだけど……天の国じゃこんな思いは簡単には得られないからさ」

 

 

煙管の灰を落とし、酒を飲む俺に桂花はジト目を戻そうとはしない。先程の誤解は解いたもののまだ機嫌が悪いらしい。

 

 

「さて、俺も飲み過ぎたから少し酔いを覚ましたいし、タバコも吸いたいから城壁にでも行こうと思うんだが……」

「仕方ないわね。一緒に行ってあげるわよ」

 

 

俺が二人きりにならないかと提案すると桂花は即座に乗ってきた。さっきの大将もだけど素直になったよなぁ。

俺と桂花が城壁に行こうとすると大河は鳳統と話をしていた。頬染めながら恥ずかしそうに話をしているのを見ると、ほっこりする。

 

 

城壁に着くと夜風が酔って火照った体には心地よくズッとこうしていたいと思ってしまう。桂花は俺の腕に抱き付いている。

 

 

「こんなにゆっくり出来るのは今だけよね」

「あー……やっぱりこれから忙しくなるか」

 

 

桂花が呟いた一言に俺は苦笑いになる。戦争してる時よりも後の方が大変だとは聞いてはいたけど。

 

 

「当然でしょ。三国の平定をしたんだから今度は平和の維持と発展が必要になってくるのよ。三国の交流と技術交換。そうなったら警備隊の仕事は増えるでしょうね」

 

 

告げられた今後の事に俺は苦笑いになった。

 

 

「これ以上仕事が増えたら対処しきれないかも」

「アンタが自爆するのを止めれば、仕事が滞る事は無いと思うんだけど?」

 

 

ですよねー、と返そうと思った所で俺の腕に抱き付く桂花の力が増していた。

 

 

「ねぇ……私に言う事があるんじゃないの?」

「そうだな……うん、言いたい事がある」

 

 

桂花に促される前に告げたかった事。桂花と一緒に居たいという決意。

 

 

「桂花……これからも俺と一緒に居……っ」

「う、うん……秋月?なによ、これ……」

 

 

桂花の両肩に手を添えて告白しようとした瞬間。俺は自分の手が光っている異常事態に驚いた。俺の動きが止まった事に不振に思った桂花が俺の手を見て驚愕していた。

 

 

俺と桂花が驚いて何も言えなくなった時。俺は何故か、この国に来たばかりの頃に占い師に言われた事を思い出した。

 

『川の流れは変えられぬ、変えてはならぬ。石を投じれば波紋が広がる。塞き止めれば川は朽ちる。道を増やせば枝分かれをして大河となる。されど大筋は残る、その道を変えてはならぬ。……大局には逆らうな。逆らえば身の破滅となろう』

 

 

「大局に逆らった結果……か」

「何よ、アンタ……この症状に覚えがあるの?」

 

 

俺の言葉に何処か不安そうな桂花。説明しない訳にはいかないな。

 

 

「俺も詳しくは分からないけど……大局、天の知識にある歴史と今が違うと俺は身の破滅を迎えるらしい」

「何よそれ……歴史を変えたのアンタが?」

 

 

俺の説明に訳が分からないと言った表情の桂花。まあ、そりゃそうだよな。そんな事を思っていると手の光が少しずつ腕の方に伝達していく。

 

 

「アンタの言う事が正しかったとして……秋月や北郷は以前から倒れる事があったわね。それも決まって魏にとっての大事な局面で。秋月や北郷には天の国の知識がある、その知識で歴史を変えた結果、曹魏は勝利を得る事が出来た。だけど……もしも、その事に『代償』があるのだとしたら……」

「流石、王佐の才。一を知って十を知るってか」

 

 

ガタガタと震えながら考察を述べた桂花に俺は感心する。やっぱ俺とは頭の出来が違うんだろう。って言うか何で俺はこんなに冷静でいられるんだろう。自分の体が消えていくならもっと恐怖があると思うのに。仮面ライダー龍騎でミラーワールドで消えてしまった人みたいに取り乱しても可笑しくないのにな。

 

 

「……何で?……ねえ、何で?………何でなのよっ!」

「………すまん」

 

 

桂花は俺を睨み付けた。こんな風に本気で怒ってるのは久し振りに見たかも。俺は思わず謝ったのだが桂花は俺から一歩離れた。

 

 

「嘘つき……一緒に居たいって言ったくせに……」

「桂花、俺は……」

 

 

俺が伸ばした手を桂花は叩き落とした。地味に痛い。

 

 

「触らないでよ、汚らわしい!愛してるだの何だの言って結局私の体だけが目的だったんでしょ!アンタを信じた私が馬鹿だったわよ、この変態!女の敵!種馬兄弟!馬鹿!嘘つき!」

 

 

桂花は俺の腹を何度も殴る。体は痛くないが心が痛む。ああ、俺はこの娘を泣かせているんだ……

 

 

「……ごめん」

「謝るくらいなら消えないでよ!居なくならないでよ!」

 

 

俺の謝罪に尚も殴り続ける桂花の手を捉えた俺は桂花を抱き寄せた。俺の腕の中に収まった桂花の柔らかさに俺は安堵を感じた。

 

 

「離して、離してよ!アンタなんか……アンタなんか大っ嫌いよ!」

「嫌い……か。会ったばかりの頃は良く言われたっけな」

 

 

腕の中で暴れる桂花の一言に俺は出会った頃を思い出す。野盗に襲われていた桂花を助けたのが始まり。

 

 

 

「桂花は初対面の時は野盗から助けたのに罵倒されて……俺が勉強してるのを見て爆笑して、大将の所に行ったかと思えば直ぐに再会して、馬鹿にされて……一緒に働く様になったのにこき使われて」

「……止めなさいよ」

 

 

俺の腕の中で暴れていた桂花が動きを止める。

 

 

「両想いになってからは素直になった時の威力は凄まじかったな。華雄や真桜とかに嫉妬する姿も可愛くて……」

「……止めてよ」

 

 

桂花が止めるように言うが俺は止まらない。

 

 

「月と詠に世話されてる俺を馬鹿にしてる時も意識してるのはバレバレだったし、大河を弟子にした時も桂花が切欠だったな」

「……止めて」

 

 

桂花の体が震えてるのが分かる。多分、泣きそうになってるんだろう。でも、俺も止まらない。止めちゃいけないんだ。

 

 

「斗詩を助けたのに睨まれてさ、祭さんも命を助けた筈なのに『またか、コイツ』みたいに言われてさ。俺の評価って何処までいっても低い……」

「止めてよ!思い出させないで!ツラくなるだけじゃない!い、逝くなら早く逝きなさいよ!…皆には私から説明して……やるわよ。最低な種馬兄は面倒事全部押しつけてさっさと……天に帰ったって……」

 

 

桂花は俺の腕の中から逃げ出すと叫んだ。最後は声が出なくなっていた。桂花は俺から背を向けて、もう俺を見ようともしない。

 

 

「一刀も……多分、似たような状態だと思う。大将が一緒だろうな」

「本当に……無責任な最低兄弟ね……好き勝手して……勝手に居なくなるなんて……」

 

 

俺の体が光の粒子になって消えていく。段々意識も薄くなっていくのが分かる。もう、直ぐ消えるなこれは。心残りが山のようにある。でも、一番の心残りは……

 

 

「最後くらい……名前で呼んで欲しかったな」

 

 

そう、桂花は一度も俺の事を『純一』とは呼ばなかったのだ。色んな未練があるのにコレが一番の未練ってのは俺らしいよな。

 

俺は最後に一服しようと懐のタバコの箱に手を伸ばし、苦笑いになった。吸おうと思ったタバコの箱には一本も残っていなかったのだから。

 

 

 

 

「残念……タバコも品切れだ」

 

 

 

クシャっとタバコの箱を握りつぶし、その言葉を最後に俺の意識は途絶えた。


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