真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百二十三話

 

 

 

 

俺と一刀は喫茶店に入り、店の片隅のテーブル席に座ると向い合わせで無言だった。注文したコーヒーが二つ席に置かれた後、俺から話を切り出す事にした。

 

 

「久し振りのコーヒーだ……今まで毎日飲んでたのに……懐かしいな」

「純一さんは……やっぱり俺の知ってる純一さんなんですよね?」

 

 

コーヒーに口を付けてからの一言。やはり、この反応は間違いなく、俺の知る一刀だ。

 

 

「それはお互い様だ。ぶっちゃけ、半信半疑だったからな……俺は体から傷跡が全部消えていた……まるで全てが夢だったと言わんばかりにな」

「っ!……俺もですよ。ボロボロになった制服は綺麗になってるし、学生寮で目覚めて……及川に会って、混乱しちゃいました。あ、及川ってのは仲の良い友達で……」

 

 

俺が掌を見せると一刀は驚き一瞬言葉に詰まる。そりゃそうだろう。俺の右手には刃跡が有ったのに綺麗に無くなってるんだから。全身の傷も綺麗に消えていたから尚更だ。

一方の一刀も学生寮で目覚めたり、学友に会ったりで現実感が掴めなかったみたいだ。

 

 

「証明出来るのは記憶のみ……不安にもなるわな」

「純一さん……俺は……俺達は、あの時代に居たんですよね?」

 

 

一刀はすがる様に、俺に問い掛ける。その気持ちは痛い程、解るよ。

 

 

「そう思いたいな。だが、証明する手立てがない。と、なれば調べる物は調べないとな」

「あ、それって……」

 

 

俺は到着前に購入した歴史の本を開く。三国志の歴史を記した歴史書のあるページを開いた。

 

 

「読んでみ」

「…………俺達の知る正しい歴史ですね」

 

 

そう、歴史書は正しい歴史を記していた。劉備や曹操が女の子なんて馬鹿げた事など、一切書かれていない。

 

 

「純一さん……これじゃあ!」

「正しく、胡蝶の夢だな」

 

 

絶望している一刀はもう泣きそうになっていた。俺はタバコに火を灯して肺に煙を入れる。

 

 

「だが、俺達が同時に同じ夢を見たってのも不可思議な話だ。と、なれば何か理由がある筈」

「……それって」

 

 

俺はトントンと灰皿に灰を落とす。加えタバコをしながら歴史書に再び視線を移す。

 

 

「俺達が経験したのは、こんな当然の歴史なんかじゃない。何か別の物だと俺は思ってる。じゃなけりゃ気なんて力が発動するもんかよ」

「でも、他に確かめる方法なんて……まさか中国まで行く気ですか!?」

 

 

俺の発言に驚きながらも目を輝かせる一刀だが、それは違う。

 

 

「無茶を言うな。一週間の滞在旅行とかならまだしも、調査の為に中国に渡る金もツテもねーよ」

「だったら、どうするんですか!?」

 

 

落ち着け、若者よ。と言いつつも俺も冷静を装ってはいるけど、内心叫びたいくらいなんだから。

 

 

「まず、一刀はフランチェスカ学園を卒業しろ。そんで大学に行け。大学は歴史を専攻にしてる所を目指すんだな」

「純一さん、それは……」

 

 

俺の考えたプラン。それを告げると一刀は何かを察した様だ。

 

 

「いきなり中国に渡って何か手がかりを得られるとは正直思えないからな。まずは一刀がフランチェスカ学園を卒業して大学に行く事、そんで歴史を専攻にしてる所に進学すれば調べられる物の幅も増えるだろう。教授に付いていって遺跡の発掘とかも出来るかもな」

「……でも、それなら純一さんはどうするんですか?仕事があるんじゃ自由に動けないんじゃ……」

 

 

俺の提案したプランはあくまで一刀の物だ。俺は俺で別に動かなければならない。

 

 

「俺は仕事を辞めるつもりだ。辞めてから暫くは習い事に集中する。主に中国語を学ぶのと体を鍛える事だな。ああ、そうだ。一刀も剣道で良いから体をしっかり鍛えておけよ」

「し、仕事を辞める!?習い事は良いんですけど、その後はどうするんですか?」

 

 

俺の今後のプランを聞いた一刀はもう動揺が隠せなくなっていた。

 

 

「その後は……調べものに事欠かない仕事をしようと思ってる。探偵とか万事屋とか」

「なんででしょう……凄く似合う気がする」

 

 

俺の今後の考えを伝えると俺の探偵の姿を想像したのか苦笑いの一刀。

 

 

「パーマのヅラと丸眼鏡のサングラスを用意して……」

「なんで探偵物語なんですか。やるにしても、もっと最近の探偵にしてくださいよ」

 

 

俺が悩みながら探偵スタイルを考えていると一刀からツッコミが入る。キレのあるツッコミが戻ってきた辺り、少し心に余裕が出来てきたかな?

 

 

「ま、当面はそうするしかないだろ。焦る気持ちは分かるけど、急いては事を仕損じるってな」

「純一さん……俺達、戻れるんですよね?また、皆に……華琳に会えるんですよね?」

 

 

今後の方針を決めた後に一刀はコーヒーを飲み干すと不安そうに聞いてきた。俺だって解らねーよ。

 

 

「そりゃ俺だって知りたいよ。だけどよ……何もしないで諦めたくは無いだろ?」

 

 

俺はタバコを灰皿に押し付けて火を消す。一刀は大将に会いたいと強く願い、俺は桂花に会いたい。その思いは同じだ。

 

 

「純一さん……純一さんが居てくれて本当に良かった。俺一人だったら何も考えずに中国に行ってたと思う……」

「隊長を支えるのが副長の役目だからな」

 

 

バーカ、礼を言いたいのは俺もだよ。一刀が居なかったら俺は此処までしっかりとしていられなかった。大人の意地ってのがあるから俺は立っていられるんだよ。

俺と一刀は再び魏の皆に会いたいと願い、行動した。全ては愛した女の子の為にってね。

 

 

 

 

取り敢えず帰ったら会社に出す辞表を書くとしよう。

 

 




『探偵物語』

私立探偵の工藤俊作が、様々な事件を捜査していく様を描いたドラマ。

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