真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百二十七話

 

 

 

 

◆◇side一刀◆◇

 

 

 

純一さんが競馬に行くと言っていたので後を尾行し、現場に行き、馬券を買おうとしたところを取り押さえようと思っていたら、純一さんは隣街の喫茶店に入っていった。

競馬場に行く前にコーヒーでも飲むのかと思って、バレない様に他のお客さんに紛れて中に入り、様子を伺ってると純一さんの座ったテーブル席に女の人が座る。俺の座るカウンター席では顔は見えなかったけど、後ろ姿でも美人だと分かる雰囲気を持っていた。

 

二人は何かを話し合っていたのだが、女性の方が立ち上がって叫んだ。

 

 

「そっか……ツラかったな」

「なんで……そんなに優しいんですか!?私は私の都合で別れを切り出したのに!先輩を捨てたのに!」

 

 

純一さんの発言に怒った女性は肩を震わせて叫んでいた。店中の視線を集めていたが純一さんが落ち着かせ座らせた。

 

その後、元カノさんが結婚する話や元カノさんと純一さんが別れた原因の話をしていた。その話を聞いていたら俺は少しだけ……チクリと胸が痛んだ気がした。

純一さんと元カノさんは互いに分かりあっていたのか、別れ話や過去の恋愛の話も普通にしていた。それどころか純一さんは元カノさんにアドバイスすら送っていた。

 

 

「あ、あの……先輩は誰かと……良い人と出会ったんですか?」

「ああ……ひねくれて天の邪鬼で口が悪くて甘え下手で厄介な最高の娘に出会ったよ。そいつの為にも終わりにしたいんだ」

 

 

桂花の事を話す純一さん。物凄く的確な言いように俺は笑いを堪えるのに必死になっていた。

元カノさんも一瞬、呆気に取られた様な反応をした後に静かに笑っていた様に見えた。しかし、こっちからじゃ顔が見えないな。純一さんは関羽に似てるって言ってたけど……

 

そんな事を思っていたら元カノさんが先に席を立ち、純一さんも伝票を持って会計に向かっていた。ヤバい、そう思って顔が見えないようにしていたのだが、頭を叩かれる。俺が顔を上げると純一さんはニヤリと笑みを浮かべていた。どのタイミングでバレたのか分からなかったけど、純一さんにはバレていたらしい。

純一さんが店を出たので俺は慌てて会計を済ませた後を追った。

 

 

「純一さん!」

 

 

純一さんは俺が後を追ってくるのも想定していたのか不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

「ったく……俺を出し抜こうなんざ九年と三ヶ月と十日程早かったな」

「なんで、そんな微妙な日数なんですか?」

 

 

純一さんの発言に自然と笑ってしまう。

 

 

「すいません……尾行なんかしちゃって。でも、競馬に行くんじゃないかと心配に……」

「尾行させない為に適当な事を言ったんだが、逆効果になったな。ま、アレが俺の元カノだよ」

 

 

俺の謝罪に純一さんは達観した様な言い方で元カノさんの事を話し始めた。

 

 

「俺から顔は見えなかったんですけど……関羽に似ている彼女さんなんですよね?」

「俺からしてみれば愛実に関羽が似ているんだがな」

 

 

純一さんの物言いに本当に美人さんなのだと感じる。それと気になっていた事があった。

 

 

「その……別れた原因の話って……前に話してくれた夢の話ですよね?」

「ああ……今の俺達には笑えない話だがな」

 

 

純一さんから以前、聞いた事があった。元カノさんと別れた理由は元カノさんが夢の中で運命の人ともう一度会おうと約束をした。その為に元カノさんは運命の人を探し、純一さんとの決別を決意した。

 

 

「愛実が夢の中での運命の相手と再会しようとした事は今の俺達と状況は同じだ。案外、愛実も夢の中では関羽だったのかもな」

「はは、まさか……」

 

 

純一さんの発言に俺は乾いた笑みを浮かべてしまう。まさかとは思うけど純一さんの予想って本人も意図しない所で的中する事があるから。

 

 

「一刀……俺達はあの世界に帰ろうと躍起になってるけど、帰れない可能性もある事を忘れるなよ?愛実が夢で出会った運命の人と再会出来なかった様にな」

「そ、れは……」

 

 

純一さんの重い一言に俺は口の中が一瞬で乾いた様な感覚に陥る。

 

 

「それに帰れたとしてもだ……あれから三年。三年も経過したんだ……警備隊をクビになってる可能性も高いな。大将が三年も居ない者の為に席を残しているとは考えにくいしな」

「純一さん……」

 

 

純一さんは俺が思いもしなかった……いや、考えないようにしていた事を口にする。そうだ、華琳があんな別れをして三年も音沙汰がない連中の為にわざわざ隊長と副長の役職を残してる保証なんか何処にもない。むしろ、クビになってる可能性の方が高い。

 

 

「それに仮に帰れたとして……平和になった大陸で三年も経過してれば、世継ぎとか……跡取りとか……」

「止めてください……マジで考えたくない……」

 

 

純一さんは俺達にとって最悪の結果を口にする。必死の思いで帰ったら惚れた女の子達が他の男との子供を授かって……うぐっ、想像していたら胃から込み上げてくる物が……

 

 

「全てが無駄になる可能性も考えておけ。俺が今日、愛実と会ったのも、その覚悟を新たにする為でもあるんだからな」

 

 

その一言で分かった気がする。純一さんは愛実さんが長年思っていた人と再会出来たか確認したかったんだ。再会出来ていれば、俺と純一さんがあの世界に帰れる可能性があると言う事。逆に再会出来ていなかったら……最悪、華琳達との再会も叶わないし、彼女達も俺達の事を振り切っている可能性もあると言う事。

 

 

「考えたくも……なかったです」

「隊長が考えたくなかったり、想定してない事をフォローするのが副長の役目だからな」

 

 

俺は泣きそうになっていた。純一さんはそんな俺の肩を叩いて先に事務所の方へと歩いて行ってしまう。本当に純一さんが居なかったら俺は只ひたすらに悩んでいただけか何も考えずに中国へと渡航していたと思う。

 

俺は涙を袖で拭って純一さんの後を追った。早く、純一さんに追い付かなくちゃ。純一さんの……その背中を追うのではなく隣に並び立つ為に。

 


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