真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百三十一話

 

 

あれから数日。俺は事務所の閉鎖を……即ち、探偵を辞める旨を関係者各位に伝えていた。なんせ、後一月程しか時間がないのだ。夜逃げみたいに成らないようにしっかりと辞める事を伝えねばならない。電話で引退する事を告げたり、挨拶回りに行って直接話していた。

 

 

「しかし、急な引退だね。何かあったのかい?」

「以前から……行ってみたい、そしてやりたい事がありました。その話に目処が付いたので行こうかと思いました。急な話でスミマセン」

 

 

それで現在、知り合いの探偵事務所にお邪魔していた。別れの挨拶をと来たは良いのだが捕まってしまって探偵を辞める事を追及されていた。

 

 

「ふむ……と言う事は海外とかなんだろうね。国内なら事務所を閉鎖する意味が無い。有るとするなら直ぐに帰れない距離。または移住と考えれば国外の可能性が高いだろう」

「まあ……そんなところです。詳細は話せませんが」

 

 

はい、国外です。1800年程前のですが。

 

 

「だが、残念だよ。キミは探偵業界でも新星だったからね。キミに世話になった人も多いから惜しまれつつの引退になるんじゃないかい?」

「電話口でめっちゃ怒られましたよ。明日から暫くは怒られる日々が続きそうです」

 

 

 

同業者の発言に苦笑いが起きそうになる。実際、引退する旨を伝えたら怒鳴られたもの。急すぎるって。

 

 

「ま、他者との繋がりが多いキミだからこその悩みだろう。私もキミの引退には異を唱えたいんだからな」

「そっちはご勘弁ください。アンタにまで怒られたら、それこそ立ち直れなくなりそうだ」

 

 

俺は出されたコーヒーを飲み干すと立ち上がる。このままだと本当に引き留めの話になりかねん。

 

 

「そうか……その、やりたい事に失敗したら、ウチの事務所に来なさい。キミなら即戦力になるから大歓迎だ」

「失業したら改めてお伺いしますね。では、これで失礼させていただきます」

 

 

何気なく再就職の斡旋までしてもらっちゃった。あの世界に行けなかったら雇って貰おう。捕まらなかったらね。

つーか、失敗イコール失恋って感じなんだよな。泣けるわ。

 

同業者の事務所を後にして帰路に着く。

因みに一刀は大学の自主退学の手続きをしている。それが済んだら大学の仲間や高校時代の友人達との別れをするそうだ。

 

俺も一刀もまだ親類には別れを告げていない。告げるとすれば満月が近付いてからだ。あまり、時間の猶予を与えてしまうと決心が鈍りそうだからだ。ギリギリまで引き付けて告げる。そして決意が揺らがない間に、あの世界へ行く……行けたら良いなぁ。駄目だな……決意したのに失敗した時の事ばかり考えてしまう。

 

 

「ぷっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……」

「飲み過ぎですよ、霞みたいな飲み方しないでくださいよ。体に悪いですよ」

 

 

事務所に戻ったらビールを飲んで喉を潤してからアルコールで頭の凝りを解す。逃避とも言えるが、酒とタバコが俺の今の悩みとストレス軽減の手助けをしてくれている。一刀は大学の友達と遊んだ後に事務所に顔を出していた。

 

 

「体に悪い物は心に良いんだよ」

「酔っぱらいとヘビースモーカーの言い訳を同時にしないでください」

 

 

俺がタバコに火を灯すと一刀からのツッコミが入る。苦労を掛けるね隊長。

 

 

「それで純一さんの方はどうなんですか?」

「取り敢えず同業者への挨拶は終わったよ。後は事務所の解約とか馴染みの店にもお別れを告げなきゃだな。まあ、仕事でこの街を離れる程度の説明だ」

 

 

一刀の疑問に紫煙を吐きながら答える。そんなに細かく説明は出来ないから、仕事で他所に行く程度の説明で十分だ。

 

 

「一刀も準備や別れの挨拶を怠るなよ?やる事はこの一月で幾らでもあるんだからな?」

「だったら、酒に溺れないでくださいよ……」

 

 

俺の発言に呆れ気味の一刀。もう、諦めてきてるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆一ヶ月後◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

あっと言う間に一ヶ月が過ぎて本日は満月の日。俺と一刀は荷物を詰め込んだボストンバックを抱えて歴史資料博物館へと向かっていた。

 

 

「遂に……ですね」

「ああ……だが油断はするなよ?これなら色んな意味で洒落にならん事をするんだからな」

 

 

俺と一刀はこの一ヶ月で様々なものに別れを告げた。親や親戚に別れを告げ、仕事で海外に行くと嘘を付いた。嘘じゃないけど嘘。本当の事を言うわけにはいかないから。

 

 

「もう……後戻りは出来ないぞ」

「………はい」

 

 

肩に担いだボストンバックが重い。中には現代の日用品や本などが大量に入ってる。この重みは単純な物の重量じゃない。この世界に別れを告げる重みだと思う。一刀も同じ気持ちなのか、複雑な表情になっている。そんな事を思っていたら歴史資料博物館に到着した。

 

 

「さて……」

「……忍び込むんですね?」

 

 

俺は吸っていたタバコを地面に落とし踏んで火を消す。隣では一刀がゴクリと息を飲んだ。現在の時刻は深夜。誰も居ない深夜の歴史資料博物館を前に妙な緊張感が漂う。しり込みしそうになっていたら忍び込む筈の歴史資料博物館の窓から人が飛び出してきた。

 

 

「な、貴様等!?」

「何故、このタイミングで貴方達が!?」

「中から人が!?」

「おいおい、泥棒かよ……って、その銅鏡をどうするつもりか教えて貰おうか?」

 

 

窓から飛び出してきた男二人が俺達の前に飛び降りてきた。片方の男は目付きが悪く好戦的な感じで、もう片方が眼鏡を掛けた理知的な雰囲気を出している。だが俺が見過ごせないのはコイツ等が抱えてる物だ。歴史資料博物館から盗んできたのか、それは俺と一刀がこれから触れに行こうとしていた銅鏡だったのだから。

 

 

 

 


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