真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百三十四話

 

 

予想通り、近くに川があったので俺は土や埃を川で洗い流す。ついでに袁術の着ていた服も。豪華な服なだけに嵩張るわ、洗いにくいわで大変だったが、洗い終えてから焚き火の近くに干して乾かす。時間が掛かりそうだ。

 

 

「………うにゅ」

 

 

その焚き火の近くでは怯えた視線を俺に送る袁術。今の袁術は着ていた服や下着も脱いで裸なのだ。取り敢えず俺のワイシャツを着させているが、この状態を見られたら色々と終わる気がする。せめて、袁術の下着だけでも速く乾いて欲しい。因みに俺は上半身裸で下はスラックスのみだ。

 

 

「さて、袁術……だよな?なんで、あんな所に一人で居たんだ?」

「ぴぃ!?」

 

 

俺の記憶が確かなら袁術は常に付き人の張勲が居た筈だが……そう思って袁術に話し掛けたが袁術は怯えて近くの岩に身を隠してしまった。やれやれ、事情を聞くのは時間が掛かりそうだな。

 

 

「袁術、落ち着いてからで良いから後で話してくれ……っと?」

「ど、何処に行くのじゃ!?妾を一人にしないで欲しいのじゃ!」

 

 

離れてタバコを吸いに行こうとしたら袁術が足に抱き付いてきた。今にも泣き出しそうな様な表情と震える手で俺の足にしがみついている。

 

 

「袁術が怯えている様だから離れた場所でタバコを吸うつもりだったんだよ。大丈夫、何処かに行ったりしないから」

「ほ、本当かえ?妾を一人にしないのじゃな?」

 

 

ガタガタと震える袁術に俺は頭を撫でながら、なるべく優しく言う。相当怖かったんだな、さっきの。トラウマになってるわ。

 

 

「ああ、袁術を一人にしないから安心しな。臭いが嫌かもだけどタバコは此処で吸うぞ?」

「う、うむ!妾は寛大じゃからな!我慢してやるぞ!」

 

 

俺がこの場でタバコを吸う事を告げると袁術は精一杯の強がりを見せた。まあ、足元が震えてるからマジで強がりなのだろう。焚き火の前に揃って座り、俺がタバコを吸ってる間、袁術は無言だったがチラチラと俺の方を見ている。そしてタバコを吸い終わりそうな頃に口を開き始めた。

 

袁術の長い自慢話と誇張表現を抜きにした話の内容は以下の通りである。

 

『三年程前に二人の天の御遣いが、この世を去った』

『魏と蜀と呉で彼等の犠牲で成り立った平和を守ると条約が出来た』

『御遣いが去った事で一部の悪党が奮起し始めたが即座に鎮圧された』

『袁術と張勲はその悪党共を纏めて自分の国を再度打ち立てようとしたが失敗した』

『三国、特に魏の面々が非常に怒っていて凄く怖かった』

『張勲と共に姿を隠しながら三年近く逃げ切った』

『今回は慌ただしく、逃げていた為に商人の馬車に忍び込んだが気付けば張勲が居なかった』

『その商人の馬車は実は山賊が偽装した馬車で見付かってしまって逃げ出したのだが、捕まってしまった』

 

 

とまあ、中々凄いストーリーだった。そういや、大将も前に袁術は悪知恵が働く奴だと言ってたっけ。大将達から三年近くも逃げるとは普通に凄いと思う。

話を聞いてわかったが、やはり俺と一刀がこの世界から現代に戻ってから三年近くが経過していた。となると、過ごした時間はほぼ同じくらいだな。良かった……これで此方では一年間しか経過してなかったとか、逆に十年後とか時間の差違があったらどうしようかと思ってたんだ。

 

 

「それで袁術は一人だったのか」

「うぅ……七乃ぉ……」

 

 

いつも張勲と一緒だったのに一人だったのは、そう言う事か。これは困ったな。何が困ったって俺がこれから向かうのは魏だ。今の袁術は一人きりで何も出来ない。放り出す訳にはいかないし、かと言って魏に連れて行けば大将の餌食だ。どうしようかと、悩んでいたら膝の上に重みを感じた。視線を落とすと袁術が俺の膝を枕に眠ってしまっていた。一人で心細くて、山賊に襲われて、知らない男と二人きり。疲れちまったんだろう。もう少し、寝かせてやるか。でも、どうするかな。

 

袁術を魏に連れていくにしても、張勲を探すにも暫くは袁術と共に行動しなきゃなんだよな。

 

 

「魏に戻ってから怒られる案件が増えたな、こりゃ」

 

 

俺は焚き火にくべていた薪の一つを手に取り、新たに咥えたタバコに押し付けて火を灯す。既に俺は袁術の事をどうやって大将達の許しを得るか頭を悩ませていた。

 

 

「……ま、成るようにしかならんわな」

 

 

半ば諦めた心境で俺は紫煙を空に向かって吐き、煙は夕焼けに溶けるように消えていった。

 

 


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