真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百三十七話

 

 

 

 

荀緄さんと顔不さんは俺の謝罪を受け入れてくれた。寧ろ、荀緄さんは「良く頑張りましたね」と頭を撫でてくれた。この心優しき聖母から何故、桂花の様な天の邪鬼が生まれたのか不思議で仕方ない。

 

 

「さて、小僧。これからどうする気だ?」

「どう、って……魏に行こうと思ってます」

「それは少々、考え直して頂きましょう」

 

 

顔不さんの疑問に答えると荀緄さんが待ったを掛けた。

 

 

「今の純一さんは三年半不在でした。魏に戻り、いきなり以前の様に復職……とはならないでしょう」

「そうですね。寧ろ、クビにされているので一兵卒から……警備隊の新人からって可能性大です」

 

 

大将の性格を考えると帰って来た事は歓迎されても、復職の事に関しては融通を効かせてくれない可能性の方が高い。

 

 

「でも、俺と一刀が帰還した事は早く伝えたいんですが……それにこの場に居ない、北郷一刀も魏に向かってる筈です。この国に戻って別々に到着したら、一先ず、魏を目指すと決めていたので」

「あら、別々に来たんですか?」

 

 

銅鏡の力でこの世界に帰って来たとは言えないしなぁ……

 

 

「あー、ちょっと戻る時に一悶着ありまして、到着が別々になってしまいまして。今、一刀が何処に居るのか分からない次第でして」

「でしたら、極秘に北郷一刀さんを探しましょう。私の伝手で人探しをしてもらいますから。大丈夫、商人の伝手は幅広いんです」

「奥様の伝手は以前に比べると広くなったからな。小僧、お主が言っていた酒の作り方が上手くいってな。ほれ、飲め」

 

 

俺の一言に荀緄さんがニコニコと笑みを浮かべながら一刀の捜索を申し出てくれた。更に顔不さんが酒を出しながら荀緄さんの作った酒を出す。一口飲むと……日本酒みたいな味だった。あの朧気な記憶と知識で教えた日本酒を此処まで再現するとは恐るべし。

 

 

「『天の酒』と名付けた、この酒は高級酒として三国に広まったぞ。故に荀家の伝手は凄まじく広まったのだ」

 

 

顔不さんの話になんか技術革命を起こしてしまった気分になる。いや、今まで散々色んな物を作ってきたから今更か。

 

 

「でも、一刀を見付けたとして……どの間で魏に戻れば良いんでしょうか?早く戻るのが先決だと思ってたので」

「ふむ……それなら良い案があるぞ。そろそろ平和祭が開催される。それに合わせて魏に戻ったらどうだ?」

「なるほど、運命的な再会を作り上げるのですね」

 

 

俺の悩みに顔不さんと荀緄さんが酒を飲みながら提案する。再会を劇的にプロデュース……と言えば聞こえは良いが面白がっている様にも思える。特に酒を飲みながらの提案だから不安が募るわ。

 

 

「それにこの案にはお主の経歴を上乗せ出来る良い機会だ。お主が天下一品武道会に出て好成績を残せば、警備隊の副長として戻っても異論は減るだろう」

「あら、良い案ですね。私も観に行きたいわ」

 

 

酒が回っているのか顔不さんと荀緄さんは凄い提案をしてきた。

 

 

「いや、いきなりハードルを……いや困難を増やさないでください。大体、大会に出たら其の時点で再会しちゃいますよね」

「変装をし、戦い方を変えれば良いだろう。好成績を残すにしても、予選で負けても劇的な再会には違いあるまい」

「あらあら、楽しくなりそうね」

 

 

俺の発言にも豪快に笑う顔不さんとほわほわと笑みを浮かべる荀緄さん。酔っ払いの悪ノリにしか思えん。それに天下一品武道会に出る。しかも正体隠して戦い方を変えて出場って……ハンデが大きすぎる。早めに訂正をした方が良いな。

 

 

「うにゅぅ……うっ!」

「え、うわっ!?え、袁術?」

 

 

そんな事を思っていたら寝間着の袁術が突然、抱き付いてきた。

 

 

「す、すいません。眠っていたのですが目覚めたと同時に秋月さんを探して走り出したので……」

「そうでしたか。後は此方で面倒を見ますから大丈夫です。ありがとうございます」

 

 

袁術の後を追って侍女さんが部屋に入ってきたので礼を言って袁術の頭を撫でる。それを見た侍女さんは微笑んだ後、「失礼します」と下がってくれた。

 

 

「どうしたんだ、袁術?」

「わ、妾を一人にしないと言ったではないか!」

 

 

俺の問い掛けに袁術はギュッと俺の服を掴みながら泣きそうになっている。目覚めて俺が居なくて寂しさと不安が押し寄せたのか。やれやれ、袁術にはまだ俺の名前も教えてすらいないのに懐かれたもんだな。

 

 

「此処に滞在する理由も増えましたね。その子を放置して魏に向かいますか?」

「連れていくにしても曹操殿を説き伏せる材料が今の小僧にあるとは思えんな」

「………暫くお世話になります」

 

 

俺と袁術を見比べてトドメとばかりに荀緄さんと顔不さんが提案してきた。確かにこのまま袁術を放置ってのは心が痛む。

 

 

「でも、先に一刀の行方を探してください。俺が此処に居ても一刀が先に魏に行ったら意味が無くなってしまうでしょう」

「うむ、では指示を出してくるとしよう」

「そうですね。北郷一刀さんにも教える事が多いでしょうから」

 

 

俺の言葉に立ち上がり、屋敷の誰かに指示を出しに行く顔不さん。荀緄さんは杯を口にしながらニコニコとしている。あ、ダメだ。この人の中じゃ俺も一刀も指導する対象なんだ。まあ、でも確かに……

 

 

「……放っておく訳にはいかんわな」

「………うにゅう……」

 

 

俺の膝の上に座り、体を預けてくる袁術の髪を撫でながら俺はこれからの事に頭を悩ませる。なんか、警備隊に居た頃に色々と案を出していた頃の感覚だ。大将の驚く顔を見られるならやる価値はあるのかもな。

 

 

その後、桂花や詠にめっちゃ怒られるんだろうけど。


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