真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百三十九話

 

 

数日後、一刀は荀家に招かれた。商隊の馬車に乗って来たので早馬と違ってゆっくりと来たのだ。でも、以前と比べればかなり早く到着したと思う。先日の山賊は兎も角、平和になったから安全な移動が出来るようになった証なのだろう。

 

 

「よう、一刀。待ってたぞ」

「………なんか、懐かしい光景ですね」

 

 

荀家の庭で鍛練をしていた俺は顔不さんに打ちのめされて地面に寝転んでいた。顔不さんから「少し、休憩にするか」と言われて休んでいた所に一刀が到着したと連絡が来た。起きようかと思ったけど、休む意味も含めて寝転がっていたのだ。

 

 

「しかも、その道着ですか」

「凄いだろ?三国で『天の御遣い』が着ていた道着として売られていたらしい」

 

 

俺が着ていたのは亀仙流の道着だ。まさか、町の服屋に普通に置いてあるとは思わなかった。背中には魏の文字が刻まれている仕様である。

 

 

「よっと……お互いに無事にこの世界に戻れたな」

「別々の場所に到着するとは思いませんでしたけどね。純一さんが居なくて焦りましたよ」

 

 

俺は起き上がり、一刀は俺の隣に腰かけた。

 

 

「可能性の一つとしては考えられた事だったけどな。一刀は蜀に降り立ったんだって?」

「はい……華琳と別れた森の中に居ました」

 

 

俺の質問に答えた一刀の答えに俺は疑問と言うか、不思議な気分になった。

 

 

「俺は桂花と出会った荒野に降り立った……と言うか落下した。俺が出会いの場所に降り立って、一刀は別れの場所に降り立つとは皮肉にしか思えんな」

「そうですね……それで、俺は近くの蜀の城の城下町で商隊の場所の相乗りを頼んで乗せて貰いました。その途中で荀家の使いの人が来て……道中で今の三国の話も聞きました」

 

 

成る程、荀緄さんが言っていた通り、商人のネットワークで一刀を即座に探し当てたらしい。それと今の三国の話を聞いたなら話も早いな。

 

 

「なら、一刀。俺が降り立ってからの話と荀緄さんと顔不さんで話し合った事を話そうか」

 

 

 

俺はこの世界に来てからの事を話した。何故か、流星ライダーの様に上空から落下した事。無事に着地した後に山賊に襲われていた袁術を助けた事。距離も近かったので以前世話になった荀家のある町に来た。荀緄さんと顔不さんとの相談で魏に戻るのは平和祭の開催時期に決めた事。正体を隠して天下一品武道会に出場し、好成績を残し、警備隊の復帰の足掛かりとする。間違いなく大将以下、関係者全員に怒られるであろうから土下座の覚悟を決めておく事。

 

 

「と、まあ……こんな所だな」

「謝罪と土下座がワンセットなのは仕方無いとして……天下一品武道会に参加とか無理すぎませんか?」

 

 

うん、自分でも無理を言ってる自覚はある。

 

 

「俺としては世話になった荀緄さんや顔不さんへの義理もある。俺には桂花を泣かせた罪があるからな。無茶な話にも付き合うさ」

「桂花が……泣いたんですか?」

 

 

うん、俺は泣いた顔を見た訳じゃないが荀緄さんが桂花から話を聞いたらしい。あの意地っ張りで天の邪鬼の桂花が荀緄さんに話すとか余程冷静じゃなかったと見える。

 

 

「それを考えれば大将も泣いたのかもな。良かったな、一刀。曹操孟徳を泣かせたとか歴史に名を刻んだぞ」

「凄まじく、不名誉だと思います。それに華琳が俺の事で……その泣くとは……」

 

 

思えないってか?俺はそうは思わないよ、一刀。あれで大将はお前にベタ惚れだった。ま、言わないけどね。答え合わせは魏に行ってからだな。

 

 

「ま、その辺りも含めて魏に行くのは平和祭……後一ヶ月後だ。それまでにやる事はいくらでもあるぞ……差し当たり……」

「休憩は終わりだ、小僧。鍛練再開だ」

 

 

俺の話を遮り、顔不さんが戻ってきた。

 

 

「つーか、顔不さん。俺もう、30手前よ?小僧って呼び方どうよ?」

「ワシから見れば小僧よ。いや、若造か。小僧は今後、種馬弟の呼び方にするとしよう」

 

 

顔不さんは笑いながらそんな事を言う。今後、俺は『若造』で一刀が『小僧』かよ。

 

 

「嬢ちゃん、小僧を部屋に案内してやんな」

「う、うむ。こっちなのじゃ!」

「顔不さん……袁術に何させてんですか?」

「え……この娘、袁術!?」

 

 

一刀を部屋に案内させる為に出てきたのは侍女の格好をした袁術だった。最近、荀緄さんの授業で姿を見ないと思ってたけど何してるんだか。

 

 

「奥様の考えだ。全てを話すのは暫し待て」

「それは良いんですが……」

「純一さん、袁術にメイド服とか考えてますか?」

 

 

顔不さんの言葉に頷く。何か、考えがあるんだろう。そして一刀よ。ナチュラルに俺の考えを先読みするな。まあ、当たってるんだけどさ。

 

 


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