真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百四十四話

 

 

 

街中で喧嘩をしている連中が居たので現在の警備隊の仕事振りを見学しようと思ったのだが……まあ、今の警備隊の状態が悪い事、悪い事。

 

現場の到着が遅い。トラブル解決の為の動きが悪い。喧嘩している連中を取り押さえようとして返り討ちにされている。これが今の警備隊か?俺と一刀が居た頃と比べても相当に酷い。

 

 

「俺達が居なくなってから……こんな状態になっていたんですね」

「やれやれだ……」

 

 

一刀の信じられない、っと言った呟きに俺は猪マスクが落ちないようにしっかりと装着する。そして未だに喧嘩をしている連中の所へ歩み寄る。

 

 

「戦いたいなら天下一品武道会でやるんだな。街中で迷惑を掛けるんじゃねぇ」

「ああん?なんだテメェは?」

「ふざけた被り物しやがって!」

 

 

俺の一言に喧嘩をしていた連中は手を止めて俺の方に視線を移す。警備隊の連中も驚いた様子で俺を見ていた。つうか、警備隊の連中見覚えない奴ばかりだわ。

 

 

「俺様の名は……伊之助。天下一品武道会の参加者の名よ」

「だったら……テメェは此処で不参加が決定だ!」

 

 

自己紹介をしたら喧嘩していた連中の一人が俺に歩み寄る。成る程ね、喧嘩していたのも大会の参加者を減らす工作をしていたのか。

 

 

「セコセコしたやり方だな。だが、乗った!テメェは失格だ!」

「ぐばぁっ!?」

 

 

殴りかかって来た奴の拳を避けて、顎目掛けてアッパーを放つ。俺のアッパーは見事に相手の顎を捉えて、相手を宙に舞わした。

 

 

「………雑魚が」

「や、やっちまえ!」

「「おおおおおぉぉぉぉぉっ!」」

 

 

俺の呟きに喧嘩していた連中が団結して、襲ってきた。おいおい、さっきまで喧嘩してたよねキミ達。

 

 

「ふっ!ほっ!」

「がぶっ!?」

「げはっ!」

 

 

正面の相手を前蹴りで蹴り飛ばし、上げた脚をそのまま隣の奴に踵を落とす。更にその脚を相手の肩に掛けて飛び上がり、回し蹴りをその後ろにいた奴の顔に叩き込む。

 

 

「強いぞ、こいつ!」

「囲め、囲め!」

「雑魚共が……猪突猛進!」

 

 

漸く俺の強さを把握した連中は俺を取り囲む様に襲ってきたが俺は素早く、突進をした。一番手前の奴の服を掴み、投げ飛ばす。動揺して動きが止まった奴の手首を掴んで此方に引き寄せ鳩尾に拳を叩き込む。背後から襲って来た奴に鳩尾を殴った奴の背を叩いてそちらに誘導する。互いの行動が邪魔になった二人を纏めて蹴り飛ばす。倒れた内の一人が意識が残っていたので胸の辺りを踏みつけてトドメを刺す。

 

 

「ふはははははっ、俺様最強!」

「なんだ、こいつ!?」

「超強いぞ!」

 

 

コイツ等、素人だな。集団戦をする時は互いの距離の確認と適した戦い方ってのがある。血風連の指導をしていた身としてはコイツ等の戦い方は怖くない訳で。と言うか顔不さん以下の強さの奴には負ける気しないっての。こちとら何度死にかけたと思ってんだ。

 

 

「き、貴様……我々警備隊の仕事を……」

「取り押さえる事も出来なかった奴等が何をほざいてやがる。文句は強くなってからにしな」

 

 

警備隊の一人が俺の行動を非難しようとしたが、何も出来なかった奴が何言ってんだか。そっちは人数いたのに結局、一人で倒しちゃったよ。

 

 

「兎に角……お前も騒動の現行犯だ。来て貰うぞ」

「自分の仕事の出来無さを棚に上げて何言ってやがる」

 

 

俺の事を連行しようとした警備隊の手を振り払う。一応、協力者であり、喧嘩の鎮圧に助力した人間を逮捕しようとするな。今の警備隊はどんな指導をしてるんだ?

 

 

「貴様、抵抗するか!?」

「取り押さえろ!」

「止めろ、お前達!」

 

 

先程まで喧嘩していた連中を取り押さえられなかった警備隊が俺を囲む。なんか、酷いな本当に。これが一刀と俺で設立した警備隊で凪達はこの状態で指導すらしていないのか。俺が落胆していると警備隊の兵士達を止める声。振り返ると銀髪のおさげ髪を揺らした女の子。警備隊の分隊長である凪が兵士達を掻き分けて姿を表した。

 

 

「話は他の兵士から聞きました。喧嘩の仲裁……と言うか鎮圧をしていただき、ありがとうございます」

「ほう……上司はマトモの様だな」

 

 

凪が頭を下げた事に周囲はザワザワと驚いていた。俺は正体がバレない様に声を低くして話す。猪マスクで声もくぐもっているからバレない……筈。

 

 

「返す言葉もありません。私の指導不足です。ですが、アナタの素性が知れないのも事実。お話を聞かせて頂けませんか?」

「その必要は無いわよ。お久し振りね凪ちゃん」

 

 

事情を話したら正体がバレる。どうしようかと、思ったら同じく騒動を見学していた荀緄さんが俺に歩み寄り、凪に挨拶する。

 

 

「荀緄さん、いらしてたんですか!?」

「ええ。折角、魏で開催される平和祭ですもの。お祭りを楽しみに来たのよ。この子なら大丈夫。私がこの子の身元を保証するわ。この子は私の推薦で天下一品武道会に参加するの」

 

 

凪の疑問に荀緄さんは俺の腕にスルッと腕を絡ませてくる。ドキドキするから止めてください。若干、ホワホワしているとチラリと俺を見る荀緄さん。あ、何か喋れって事ね。

 

 

「魏の警備隊は強いって聞いていたが、この様だ。噂だけだった様だな」

「………っ。返す言葉もありません」

 

 

俺の一言に泣きそうな表情になる凪。いや、顔はポーカーフェイスを貫いていたが何となくそう感じた。

 

 

「凪ちゃん。この子は天下一品武道会に私の推薦で参加するから凪ちゃんとも戦うと思うわ。私達は宿に行くから後はヨロシクね」

「はい……お相手願います」

 

 

荀緄さんが締めの言葉を出した事で話は終わった。凪も荀緄さんと知り合いだったのか。まあ、桂花に会いに行っていたと言ってたから、その時に顔見せはしていたのだろう。俺は荀緄さんに腕を引かれながらそんな事を思っていた。

 

しかし、本当に警備隊に何があったんだろう?天下一品武道会が終わったら話を聞かなきゃだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇side凪◆◇

 

 

 

喧嘩していた天下一品武道会の参加者を鎮圧した猪頭を何故か、警備隊の者が取り囲んでいた。その光景に私も私の長年の部下も溜め息を溢したくなる。彼等は四年前の乱世を経験せずに警備隊に入隊した若者達だ。故に隊長と副長の事を知らずに警備隊の仕事を勘違いしてる節がある。横柄な態度を取ったり、勘違いから誤認逮捕をした事もあった。本来なら指導しなければならないのだが私も沙和も忙しく本格的な指導が出来なかった。真桜は副長が残した資料からカラクリの開発をしており、警備隊の仕事から離れていた。華雄さんは血風連の指南役で警備隊の新兵の指導まで手が回っていない。斗詩さんは現在、蜀に出向している。大河は分隊長ではあるが、子供であるが故に威厳がなく指導役には力不足だった。

 

隊長と副長が普段からどれだけ仕事をしていて、私達が助けられたのか実感してしまう。あの人達が居ないだけで私達は平和を維持するだけで精一杯なのだから。それに警備隊のみならず国の中枢に居る方々はピリピリしていた。平和祭と言えば聞こえは良いが私達にしてみれば愛しい人が逝ってしまった日の事なのだから。

 

そして案の定、警備隊の新兵は的はずれな事を仕出かしていた。事情聴取は必要だが高圧的な態度は必要ない。無駄に敵を生み出すだけだ。私は隊長と副長がしていた様に言葉を選びながら猪頭の人に謝罪した。そして穏便に事を進めようと考えていたのだが、その人の声に驚かされる。被り物の影響で声が良く聞こえないが副長の声に似ていた。だが、別人じゃないのかと思ってしまう。副長の戦い方は基本的に『気』を用いた物だ。あんな肉弾戦で相手を制圧出来る強さじゃなかった筈だ。

 

だが、もしかしたら……と思い話を聞こうとしたら、そこに現れたのは桂花様の母君である荀緄さんが説明に現れた。荀緄さんは平和祭に遊びに来ていたらしく、彼は荀緄さんの推薦で天下一品武道会の参加者なのだと言う。

身元の保証が出来てしまった為に彼を問い詰める事が出来なくなってしまった。私は去っていく二人を見つめる事しか出来ない。

 

 

 

もっと話を聞きたかった。副長ならなんで正体を隠しているんですか?強くなったんですか?なんで、猪頭を被っているんですか?今の警備隊に失望したんですか?何時、帰ってきたんですか?

 

 

「貴方が副長なら……隊長も一緒なんですか?」

 

 

私は姿が見えなくなった猪頭の人に一番、投げ掛けたかった言葉を呟く。乱世が終わった、あの日に逝ってしまった私の愛しい人。隊長としても人としても尊敬し愛した隊長。私は隊長に会いたい。

 

彼が副長である確信なんてない。なんとなく副長なのでは?と私が勝手に想像しただけだ。隊長に会いたい私の焦った心が勝手にあの人と姿を重ねてしまったんだ。

 

あんな風にドタバタでごちゃごちゃでイザコザが絶えない事を仕出かす人は早々居ないから早とちりをしてしまったのだと私は気持ちを切り替える。指導不足が目立った新兵達の指導も改めてしなければならないしな。

 

私は拳を握りしめ、決意を新たにしたが……天下一品武道会に参加すると言う猪頭の人が忘れられなかった。

 




『嘴平伊之助』
主人公・炭治郎の同期に当たる鬼殺隊の剣士。

分かりやすく言うと野生児。常時上半身を露出して、頭には猪から剥いだ頭皮を被った二刀流の剣士。
猪マスクの下は女と見間違える程の美男子の顔がある。


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