真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百五十四話

 

 

 

舞台上に上がってきた大将に一刀の居場所を教えると顔を赤くした。あ、もしかして……

 

 

「あ、貴方……」

「いや、俺は一刀から伝言を頼まれただけだ。その場所が何処にあって、どんな思いがあるかまでは知らんよ」

 

 

言い淀む大将にそう告げるとあからさまにホッとした。これは余程知られたくないか……誰にも言っていない二人だけの秘密だとか……その分類だな。まあ、おおよその予想は見当が付くけどな。

 

 

「ま、そんな訳だ。行くと良い……俺はこの場をどうにかするからよ」

「下手したら殺されるわよ」

 

 

大将の発言に納得する。だって周囲の武将の皆様方が殺気だってるんだもの。その怒りのあり方は様々。

『何故、此処に居る?』『何故、すぐに帰らずに遊んでた?』『あの時の恨み』『大会をめちゃくちゃにしやがって』

 

うん、集団リンチが始まりそうな雰囲気だわ。

 

 

「怒りの拳は俺が受け止めないと一刀じゃ本当に死んじまうぞ?多少は怒りの矛先を変えとかないと」

「四年分だもの……重いわよ」

 

 

客席で待機していた荀緄さんと美羽も舞台の近くまで来ていた。俺は紺色のノースリーブの上着と赤い帯を受け取り着た。流石に上半身裸のままじゃマズいからね。上下紺の胴着だからイメージとしては孫悟飯、青年期の感じだな。

 

 

「受け止めるさ……いや、受け止めなきゃならない。なんせ、無責任って怒られて大嫌いって言われたままじゃ嫌なんでな」

「………なるほどね」

 

 

俺の視線がチラリと桂花に向けられ、その視線の意味を察したのか大将はニヤリと笑みを浮かべた。おいおい、久し振りなのに嫌な予感がしたよ。

 

 

「そ、なら命じるわ。この場に留まり、彼女達の足止めをしなさい。逃げる事も失敗も許さないわ。それが出来たら……その娘の事も聞いてあげるから」

「帰ってから早々にハードな命令です事……ま、ロマンチックな再会は一刀に譲るか。俺は……」

 

 

大将はチラリと美羽を見てから俺に命令を下した後、走って会場を後にした。春蘭が護衛として連れ添おうとしたが俺が前に立ち、阻む。

 

 

「退け、秋月!」

「生憎だが大将からの命令でね。足留めさせて貰うわ。それに……大将は今、会いたい奴が居る。邪魔はさせないぜ」

「………やはりか」

 

 

春蘭の叫びに拒否を示すと秋蘭は納得がいった様な表情になる。あるぇー、バレてるぞ?

 

 

「御遣い兄弟の兄が帰ってきているのだ。弟も帰ってきているとは思っていたさ。私も今すぐに追い掛けたいが互いに一番を望んでいるのは華琳様と北郷だろう?ならば私が邪魔をする訳にはいかないさ」

「気遣い痛み入るね。その鬱憤は此処で晴らしたらどうだ?」

 

 

俺が気を開放して挑発的な言葉を発したが、秋蘭は首を横に振った。

 

 

「お前のその仕草も態度も理由があるのだろう?私は後で構わないから先に相手をしてやったらどうだ?」

「そうしたいのは山々なんだがな……」

「………」

 

 

秋蘭の発言に俺は視線を桂花に向けるが桂花はプイッと顔を背けた。おいおい、怒ってますピーアールなんだろうけど、それは可愛いだけだぞ。

 

 

「貴様……華琳様が何処に行ったか吐け!そして北郷の事も説明しろ!さもなくば叩き斬るぞ!」

「帰った早々に天の国に送り帰らせられそうになるのは、ご勘弁。抵抗させてもらうわ」

「ちょ、ちょっと……話は私の方が先なのよ!」

「待て、姉者!」

 

 

春蘭は愛刀を俺に突き付ける。その様子に桂花が慌てた様子で叫ぶが春蘭は既に振りかぶっていた。それには流石に焦った様子の秋蘭。

 

 

「最早、問答無用!くたばれぇぇぇぇぇぇっ!!」

「桂花、こっち」

「え、きゃっ!?」

 

 

『くたばれ』とか完全に殺す気じゃん。避難の為にも桂花の手を取りながらエスコートする。桂花の右手を俺の手で優しく握りながら左腕を桂花の腰に回す。進行方向に桂花の手を引きながら体勢を素早く入れ換える。

 

 

「な、避けただと!?おのれっ!」

「よ、ほ、と、上手い上手い。桂花、ダンスの才能あるかもな」

「ば、馬鹿!この状況、じゃ、怖いだけよ!」

 

 

手を引いたり、俺が足を払って体勢を崩しながら避けたりすると一瞬前の自分が居た地点に春蘭の刃が通過するから怖いらしい。ワルツを舞うように避けていたけど怖いなら止めておこう。

 

 

「秋蘭、荀緄さん。桂花を頼む」

「うむ、任されたぞ」

「ええ、頑張ってね」

 

 

春蘭から距離を取り、桂花を秋蘭と荀緄さんに任せる。もう少し、手を繋いでいたいが……めちゃくちゃ名残惜しいけど離さなきゃ。

 

 

「あ……」

 

 

俺が手を離した瞬間、桂花が寂しそうな表情に。止めて、俺もツラいんだから。

 

 

「ぬ、主様!頑張るのじゃ!」

「ああ……行ってくるわ」

 

 

俺を励まそうとする美羽の頭を一撫でしてから春蘭と向かい合う。大将の言葉通りなら俺がこの場を何とかすれば美羽の事への嘆願に繋がるのならばやらねばならない。

 

 

「ほぅ……随分と見覚えのある奴が居るな……」

「あら、秋月がソイツを庇う理由が知りたいわね」

「そうか……帰ってから早々に私達以外の娘に手を出したか。しかもソイツは月様や我々と因縁があると貴様も知っているだろう?」

 

 

春蘭、孫策、華雄が完全武装状態で俺と美羽を睨んでいた。うん、美羽の事は段階を置いて説明するつもりだったから今の状態では話すら聞いてもらえそうに無いね。

 

 

「言いたい事は沢山あるのは分かるが……ついさっき大将と約束もしたんでな。文句がある奴は纏めて……じゃなくて一人ずつ掛かってこい!」

「ちっ……」

「土壇場で冷静になったわね」

 

 

俺の発言にその場に居た将の半分くらいが襲い掛かろうとしたよ。危なかった。華雄や孫策は武器を握りしめながら舌打ちしたよ。シルバースキンも無い状態でこれだけの数将と乱戦なんかしたら数秒で殺られるわ。

 

 

「戦場でそんな言い訳をする気か?相変わらず、軟弱な奴だ」

「うん、俺の話聞いてなかったな春蘭」

 

 

春蘭の背後には魏の将から兵士までがズラリと並んでいた。しかも蜀や呉の皆さんも参加されている。

 

 

「おや、四年も音沙汰が無かったのが無罪で済まされるとお思いですかな?」

「女の敵は皆で懲らしめなきゃね」

「うむ、女をほったらかしにして四年も消えておったのだ。少しは痛い目を見て貰わねばな」

 

 

ニヤニヤしながら歩み寄る将の皆さん。うーん、やる気十分ね。ならばやるだけやってみるさ。

 

 

「確かに俺も一刀も四年も居なかった。寂しい思いをさせちまったもんな……だが」

「待って皆!お兄さんも北郷さんも望んで居なくなった訳じゃないんだよ!」

 

 

俺が右手に気を込めてあの技を試そうとしたら劉備が俺の前に出て弁明してくれた。意外な増援が来てくれたよ。

 

 

「しかし、桃香様!そやつは過去に女の敵と揶揄された者です!今の内に始末しておかねば桃香様にもどんな悪影響を及ぼすか分かりません!」

 

 

誰かは知らんが蜀の将かな?めちゃくちゃ目の敵にされてる。馬超みたいに恨みを買ってしまった部類の子かな?

 

 

「お退き下さい桃香様!」

「待って、焔耶ちゃん!?」

「庇ってくれてありがとう劉備。嬉しかったよ。でも下がってな。この手の人間は話を聞かないから、通じるのは肉体言語のみ!」

 

 

巨大な金棒を振りかぶる子を止めようとした劉備だが止まりそうにないので迎え撃つ事に。俺は右手に気を最大限に込めて構えた。

 

 

「行くぞ……ハリケーンアッパー!」

「な、何!?」

「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」

「「「「おおおおおおおおおっ!」」」」

 

 

俺が渾身の力を込めて放ったハリケーンアッパーは気の力で竜巻を巻き上げた。技は上手くいったのだが、風が舞い上がった事で裾の短いスカートを履いていた女の子達のスカートが舞い上がり、悲鳴と共に様々なパンツが目に入る。周囲に居た兵士や観客の男達からは歓喜の声が上がった。

さっきまで俺のフォローをしてくれていた劉備ですら顔を赤くしながら涙目で俺を睨んでいた。

 

 

「見たんですか……私の下着?」

「下着?ああ、この国で使用されているという、下半身用防寒衣類の事か?」

「違う文化圏の人の振りをしないで下さいー」

「本当に相変わらずですね、純一殿」

 

 

劉備の問いに答えた俺だが、いち早く復活した風と稟のツッコミが入った。俺がボケて風と稟のツッコミが入るのも久し振りだ。

 

チラリと視線を移したら桂花はめちゃくちゃ睨んでるし、月は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにいて、詠は顔を真っ赤にしたまま睨んでいて、真桜とねねはショートパンツだから下着は見えなかったけど、俺を睨んでいて、華雄は顔を赤くしたまま斧を握りしめていて、斗詩は顔を赤くしながらも「しょうがないなぁ」って感じて俺を見ていて、祭さんはカラカラと笑っていた。

 

なんつーか、魏に帰ってきたばかりなのに、やっちまったなぁ……

 

 




『孫悟飯の胴着』
ドラゴンボールで魔神ブウ編の初期に着ていた胴着。過去にピッコロから貰った胴着がイメージになっているのか亀仙流の胴着とは違う。


『ハリケーンアッパー』
峨狼伝説シリーズの登場キャラ、ジョー・ヒガシの必殺技。拳を振り上げて起こした竜巻を、地を這うようにして飛ばす飛び道具。

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