真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百五十六話

 

 

 

会場はシンと静まり返っている。突如舞台に現れた完全武装の恋が方天戟を地面に突き刺して俺を見ていたのだから。

 

 

「えーっと恋?」

「…………」

 

 

俺が話し掛けると恋は方天戟を引き抜くと切っ先を俺に向ける。おいおい、何でここまで敵意を持たれて……いや、当然か。四年も不在で月達を悲しませたんだ。以前、月達を悲しませたと華雄と一緒に懲らしめに来たくらいなんだ。四年分ともなれば……

 

 

「約束」

「……ん、約束?」

 

 

恋の発言に俺は思わずオウム返しをしてしまう。落ち着け、恋の会話に主語が無いのは、いつもの事だ。落ち着いて会話から情報を集めよう。

まず、恋は『約束』と言った。だが、俺は四年前も恋と戦う約束なんかしてない筈だ。

 

 

「うん、約束。恋が大会で戦うのは純一とだけ」

「…………あー」

 

 

恋の発言に僅かながらに思い出した。以前、魏で行われた武道大会で俺は特別枠で恋と戦った。恋の強さが別次元で大会の意味が無さそうだからと言うのが理由で恋は大会の参加枠から外されたのだが、それでは可哀想だと栄華発案で俺が相手になる事となり、しかも恋も俺と戦いたいと言った為に戦った経緯がある。しかも、その後に『今後、恋が大会で戦う際は相手を純一に限定する』と言った旨を大将から告げられた。まさか、恋はそれを律儀に守っていたのか?

 

 

「恋……恋が天下一品武道会に出なかったのは大将に言われたからか?」

「…………」

 

 

俺の問い掛けに恋はコクリと頷く。ああ、もう……可愛いな、この小動物は。じゃなくて……

 

 

「それで四年間も大会に出なかったのか。皆と遊びたかっただろうに」

「………純一と一刀なら帰ってくると思ってた。少しだけ寂しかった」

 

 

俺が恋に歩み寄り、頭を撫でると恋は方天戟を下ろし、猫みたいに目を細めて受け入れてくれた。純粋だよな……本当にさ。俺と一刀を咎める訳でもなく、過度に喜んだりもしない。ただ、俺と一刀の帰還を信じていてくれた。

 

 

「桂花……本当なら交わしたい言葉が沢山ある。今すぐにでもしたい事がある。でも……もう少しだけ待っていてくれないか?」

「恋を言葉で制する事が出来るなら、それが出来る人物に教えを乞いたいわよ。さっさと行ってきなさいよ」

 

 

俺が桂花に振り返ると桂花は呆れた様に手を振る。だが、その犬を追い払う様な仕草は止めてくれ泣きたくなるから。

 

 

「やれやれ、待たされていたのは私達も同じなのだがな」

「秋月さんらしいですよね。後で利息付で構って下さいね」

「とーさま!恋殿ーっ!」

 

 

華雄が呆れ、斗詩が困った様に呟き、ねねが泣いている。

 

 

「秋月さん……」

「全く……帰って早々に心配ばかりさせるんだから、あの馬鹿!」

 

 

月が心配そうに俺を見ていて、詠が怒っていた。

 

 

「ふくちょー、ほら!これ、着てや!」

「これ……シルバースキンじゃないか」

 

 

息切れをしながら真桜が持ってきたのは、四年前に俺が着ていた、なんちゃってシルバースキンだった。デザインは完全に当時のままである。

 

 

「改良したから以前のよりも強度が上がって軽くなったんやで!」

「ありがとう、でも良かったのか?俺は……」

 

 

真桜が嬉しそうにしていたのだが、俺には四年間もの引け目があった。その言葉を出そうとしたら真桜は俺の頭に乱暴に帽子を被せる。

 

 

「その辺りは全部後や!今は……褒めて欲しいんや」

「…………ありがとう、真桜。今、持っただけでも分かるくらいに軽くなってるから驚いてる。俺と一刀が居なかった四年間も頑張ってたんだな。凄いよ」

 

 

真桜の発言に言い訳は無粋だと感じた俺は頭を撫でながら褒める。すると真桜は目を閉じてスッと身を委ねる様に前屈みになった。俺はその行動にドキッとして……

 

 

「ほら、渡す物を渡したなら行くわよ真桜!」

「下がりましょうねー、真桜ちゃん」

「ああ、ちょっと待ってーなー」

 

 

詠と斗詩に引き摺られて退場する真桜。しかし、真桜め……四年間で成長したな色んな意味で。

 

 

「他の者は舞台上から降りろ!これから特別試合だ!」

「とーさまと恋殿の特別試合ですぞ!」

 

 

華雄とねねが他の選手や将達を舞台上から下がるように誘導する。

 

 

「お二人とも……怪我をしないようにしてくださいね」

「天下の飛将軍が相手じゃ。無理をせねば生き残れまいよ」

 

 

月が俺と恋を気遣いながら下がっていく。祭さんは既に観戦モードなのか酒瓶を兵士から受け取りながら笑っていた。

 

俺はそんな光景を見ながら、なんちゃってシルバースキンを着ていく。久し振りに着るなんちゃってシルバースキンは以前の物よりも軽く動き易くなっていた。なんちゃってシルバースキンはオーバーコートみたいなもんだから、その場で着れるのも利点の一つだな。

 

そういや、大河の姿が見えないが何してんだアイツは?

そんな事を思いながらも、なんちゃってシルバースキンを着た俺は恋と向かい合う。

 

 

「ったく……帰ってくるのも、再会も……こんな筈じゃなかったんだがな」

「アンタが予定通りに事を運べる方が希でしょ。最低無責任男」

 

 

おっと俺の背後の猫耳娘は辛辣なままだぞー。振り返ろうとしたらケツを蹴られた。地味に痛いから止めなさいっての。

 

 

「こっち見るんじゃないわよ。恋にボコボコにやられてきなさいよ。そうしたら言い訳くらいは聞いてやっても良いわよ」

「……へいへいっと」

 

 

素直じゃない言い分に俺は桂花に振り返らずに恋の待つ舞台上に歩く。

 

 

「俺の戦いは……これからだ」

 

 

一級品のフラグを立てながら帽子を被り、恋の下へ。ツッコミが無いと寂しいなぁ、おい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇side桂花◆◇

 

 

秋月を追い払った私は舞台の下に降りる。そんな私の所に母様が寄り添う様に立っていた。

 

 

「母様ですね……秋月をこんな風に天下一品武道会に参加させたのは……」

「ええ、勿論。先程の話の通り……純一さんは自分でも気付いていなかったけど寂しがっていたのよ。貴女達と同じ様にね。遺された者は悲しく辛い……でもね、遺した方も同じなの」

 

 

辛いのは私達だけだと言った認識を改めさせる為にこんな大掛かりな事を計画した。それは私達だけではなく、秋月と北郷にも同様にだ。だから、私は秋月を振り返させたくなかった。

 

 

「アイツが帰ってきたら……笑顔で迎えてやりたかったのに……」

 

 

一方的に悪いなんて言いたくなかった。国を挙げて迎え入れて上げたかった。

 

 

「こんな顔じゃ……おかえりなんて……言えないわよ……」

「やっと泣いたわね……桂花ちゃん。純一さんが天の国に帰ってから一度も泣いてなかったじゃない。良かったわ、後は純一さんの方ね」

 

 

私はもう涙でぐちゃぐちゃだった。秋月が天の国に帰ってから一度も流す事がなかった涙は溢れ出して止まってくれなかった。

 

 


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