真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百五十八話

 

 

目を覚ませば見覚えのある……久し振りに見上げている懐かしい天井。魏の城の中にある俺の部屋の天井だ。

視線をズラすと窓から見える空は暗く夜なのだと分かる。

 

 

「痛ててっ……」

 

 

起き上がると恋との戦いで傷付いた体が痛む。そして起き上がると俺の寝ていた寝台の周囲に桂花、月、詠、華雄、真桜、斗詩、ねねが眠っていた。大会の時間から夜になった時間を考えれば、俺は相当長い時間を眠っていたらしい。

 

俺は眠っている皆を起こさない様に寝台から起き上がる。部屋の片隅には俺が持ってきていた荷物がある。多分、荀緄さんか一刀が持ってきてくれたのだろう。俺は荷物の中からワイシャツとスラックスを取り出して着替える。スーツは魏での俺スタイルだ。着替えを終えた俺はタバコを取り出して……この場では吸わずに、いつもの場所で吸おうと部屋を出た。

 

 

 

 

俺がタバコを吸う時に、いつもの場所と決めていた城壁の上。街を一望出来て、風の流れが良い、俺のお気に入りの場所だった。

 

 

「………フゥー」

 

 

タバコに火を灯して、肺に煙を入れる。此処で久々に吸うタバコは妙に美味く感じた。

城壁の上だと城の騒ぎが耳に入る。宴はまだまだ続いているみたいだ。そりゃそうか。待ちに待った一刀が帰ってきたんだから。俺はあんな形で帰還を告げたが、一刀は大将と共に感動的な再会を果たしたのだ。これで良かったんだ。

 

多分、宴の中心で一刀は様々な人達にもみくちゃにされているのだろう。楽しそうな笑い声が何よりもの証拠だ。考え事をしていたらタバコは短くなっており、一度、火を消した。

 

 

「帰って来たって感じだよなぁ……無茶して医務室か、自室に運ばれて夜に起きて……こうして城壁でタバコ吸ってると、本当に帰ってきたんだなって……っと?」

 

 

もう少し、物思いに浸りたかった俺は再び、新しいタバコに火を灯そうかと思ったらコツンと後頭部に何かが投げられ当たる感覚。その当たった何かが地面に落ちる前に受け止めると、それは俺が魏で吸っていた銀の装飾が施された煙管だった。

 

 

「忘れ物よ」

「怒ってて……口も利いてくれないと思ってたよ」

 

 

振り返らなくても……誰か分かった。この煙管を持っていてくれる人物に一人しか心当たりが無かったから。

 

 

「怒ってるわよ。勝手に居なくなった事も。帰って来たのに母様の所で一月も過ごして会いに来なかった事も」

「あの時は強制送還だったよ。会いに行けなかったのも……色々と思う所があってな」

 

 

その人物は少しずつ俺に歩み寄ってくる。一歩一歩近付いてくる足音に俺は胸が踊っていた。

 

 

「何よ、思う所って」

「荀緄さんから魏の現状は聞いていたけど、個人の事は殆んど聞かなかったんだよ。聞くのも怖かったし」

 

 

その人物は俺のすぐ後ろに立った。少し声が苛立っている様に思える。

 

 

「四年も……帰ってくるのに四年も掛かったんだ。その間に心変わりしていても可笑しくはない。そして帰って来てから三国の発展も聞いたよ。その時に思ってしまったんだ『皆は俺と一刀が居なくても前を向いて歩いているんだ』ってな。そう考えたら……会うのが怖くなった。だからこそ荀緄さんの意見にそのまま従った。他に……考えが思い付かなかったからな」

「馬鹿ね……本当に馬鹿よ」

 

 

俺の心情を話すと、その人物は……桂花は俺の背中にコツンと頭を乗せる様な仕草を見せた。

 

 

「私は……ううん、他の皆もアンタ達、馬鹿兄弟を待つと決めたの。どんなにツラい事になろうとも、どれほど傷付いてもね」

「大将は北郷警備隊の解散を考えていたみたいだかな」

 

 

俺の発言に桂花は俺の背中をつねる。地味に痛い。

 

 

「華琳様も望んだ事じゃないわよ。あの事だって、華琳様は私達や民の事を思ったからこそよ。あの方が本心から望んだ結果じゃないわよ。そもそもアンタ達がさっさっと帰ってきてれば、こんな事にならなかったわよ」

「そーだよな……でも、俺も一刀も苦労したんだぜ?」

 

 

振り返りたい。今すぐにでも。

 

 

「母様や祭も言っていたのよね。ツラいのは私達だけじゃないって。なんやかんやで何でもこなすアンタ達が帰るのが遅かったんだから、よっぽどだったんでしょ?だから……ううん、こんな事を言いたいんじゃないの」

「え、桂……ふぁっ!?」

 

 

振り返ろうとした俺よりも先に桂花は俺の前に回ってきて抱き付いてきた。

 

 

「怖かったの……何度も夢に見たわ。アンタが帰ってくる夢を。そしてアンタに触れようとすると夢から目が覚めて……絶望するの。この四年間で何度も見た悪夢……でも、今は違う。触れられる……あの時、最後に触れられなかったのを何度も後悔したわ。素直になれていれば何か違ったのかって何度も思ったわ」

 

 

震えながら俺に抱き付く桂花。俺が居なくなった事が重度のトラウマになっていたみたいだ。因みに素直じゃなかったのは大将も同じなんだろうなと思ってしまった。

 

 

「俺も同じだよ。この世界で過ごした事が胡蝶の夢なんじゃないかって何度も思った。怖くて怖くてさ、でも俺は……帰って来た。それを確かめる事が出来る感触もあるしな」

「きゃっ!?」

 

 

俺は桂花を抱き返す。可愛い悲鳴と共に待ち焦がれた柔らかな感触が伝わる。ああ……感動してるわ、俺。

 

 

「も、もう……種馬なのは相変わらずなんだから……」

「でも無いさ。未……天の国に帰ってからは女は抱いていない。お前達以外は抱く気は無いからな。俺が種馬になるのは、お前達だけだよ」

 

 

抱いた体から熱が伝わる。おおー、体温が上がって来たな。顔は見えないが真っ赤なのは確実だな。

 

 

「そ、そんな事を言って、女の子を増やす気?知ってるわよ、祭とか思春とか……袁術も手込めにし始めてるみたいじゃない」

「その辺りの説明は後にしたいな。今は……お前を独占したい」

 

 

密着して抱き付いていた体を離す。離れると桂花は少し……いや、凄く寂しそうな顔になっていた。久し振りに見る顔がそれじゃ俺も悲しいな。

 

 

「ど、独占って……この……」

「種馬って言われても良いよ。悪態を突かれても構わない。今は……桂花と過ごせる時間が何よりも貴重なんだから」

 

 

俺がスッと顔を近付けると意図を察したのか桂花は顔を更に赤くした。でも顔は嬉しそうなのと恥ずかしそうなのが半々だ。

 

 

「ただいま、桂花」

「お帰りなさい、秋月」

 

 

俺がキスすると桂花は「お帰り」って言葉と共に俺を受け入れてくれた。

 


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