「あー……死ぬかと思った……」
「冗談でも、言わないでよ……またアンタを失う事になると僕は立ち直れなくなるわよ」
最早、口癖となっている一言が出る。即座に詠からツッコミが入る。上体を起こすと其処は見覚えのある医務室のだった。
「副長が此処に運ばれてくると帰ってきたんだと実感しますね」
「アッハッハッ……また世話になるよ」
「先生から秋月副長は医務室の常連って伺っていましたけど本当だったんですね」
俺の担当医の先生には弟子がいるらしく、俺の話をしていたのだろう。だが内容的にも信じていなかったのだろうが、これが現実だよ弟子よ。おっと、俺の弟子の方はどうなったかな?
「大河ならまだ訓練場にいるわよ。アンタを待ってんじゃない?」
「そっか……なら行ってやらないとな」
詠が俺の考えを予測して大河の居場所を教えてくれたので俺は寝台から起き上がり行こうとするが、まだダメージがあるのか膝から崩れ落ちそうになるが詠が咄嗟に支えてくれた。
「まったく……無茶するんだから。それを間近で見なきゃいけない僕の身にもなってよね」
そう言って詠は俺の腕を自分の肩に回してオレが歩きやすい様に側に寄り添って歩いてくれた。
「ありがとう詠。嬉しいし、柔らかいよ」
「揉むな、種馬!」
高さ的に丁度良い位置に手が当たっていたので詠の胸を揉みながら礼を言ったら手をつねられた。なんか懐かしいやりとりだな、と思いながら俺と詠は医務室を後にした。
「なんで呂布将軍の技を食らって歩けるんですか、あの人……」
「この程度で驚いていたら、副長の治療の担当は出来ないぞ」
なんか担当医と研修医が俺と詠が出た後に話し合っているが、その辺りは今度話し合うとしよう。
◆◇◆◇
訓練場に辿り着くと大河と龐統と真桜が居た。周囲には警備隊の連中もいる。
「なんや副長の鍛錬の後始末してると懐かしいわー」
「そうですね。あの頃はこれが当たり前でした」
「ある意味、警備隊の仕事の一環でしたね」
「こ、これが警備隊の仕事ですか?」
「噂は本当だったんだ……」
真桜の言葉に警備隊の古参が頷き、新参は驚いていた。なんかスマないね、後始末させちゃって。後、俺の噂が流れてるようだが確認しておこう。碌な噂はじゃなさそうだし。
「悪いな、後始末させちゃってよ」
「ふ、副長!?」
「ご無事だったんですか!?」
「呂布将軍の一撃食らって死んで無い時点で異常だ……」
「お帰りなさい、副長。修繕は進んでますよ」
「特別報酬期待しときます。副長が帰ってきたお祝いも含めて騒ぎましょう」
「なんか懐かしいですね、この空気」
俺が声を掛けると新参の警備隊の連中は驚いていた。逆に古参連中は慣れきってるなぁ。
「副長、聞いたけど無茶が過ぎるで。今の大河は凪や華雄の姐さんとも互角の戦いをする程なんやで」
「ああ、そりゃ身を持って体験したよ。それで……大河」
「……押忍」
真桜に呆れられながらも大河と向き合う。俺は詠に支えてもらっていたが離れて自分で立つ。フラフラになりながらも大河を見れば大河の道着は汚れていない。完璧に俺の攻撃を捌き切ったんだな。
「大河……お前はもうとっくに俺よりも強くなっている。師匠超えは弟子の務めだが……」
「師匠、自分は!」
俺の言葉を遮って大河が叫ぶ。
「自分はまだまだ師匠に届いてないッス!だから……だから!」
「ったく……まだ師匠離れが出来ないらしいな。じゃあ……まずは泣き虫な所を直さなきゃな」
大河は泣いていた。ボロボロと泣きながら弟子は辞めたくないと叫ぶ姿にもう俺を師匠と呼ぶなと言おうと思ったが言葉を飲み込む。ポンと頭に手を置いて撫でてやると更に泣き出した。
「抱えてる問題が幾つか解決したら、また技を教えてやる。覚悟しておけよ」
「押忍!」
俺の発言に元気よく返事を返した大河。大河はもう大丈夫そうだな。よし、秋月副長はクールに去るぜ。
と思ったらニコニコと笑みを浮かべた桂花が来ていた。迎えに来てくれたのか?
「ねえ、秋月……袁術が『主様と共に寝た時の温もりが忘れられないのじゃ』なんて言ってたんだけど……どういう事かしら?」
「ちゃうねん」
とてもクールになれなかった。取り敢えず目の前で怒りのメーターが振り切れてる、お猫様の誤解を解かねば。
『クールに去るぜ』
ジョジョの奇妙な冒険第1部でのロバート・E・O・スピードワゴンの発した台詞。DIOとの激戦の後、エリナの看病を受けるジョナサン。その一部始終を病室の外で目撃していたスピードワゴンは、ジョナサンの心身の回復に安堵すると同時に、今は自分の出る幕ではないと察し「スピードワゴンはクールに去るぜ」という台詞を残し病院を去った。