真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百七十話

 

 

 

◆◇side華雄◆◇

 

 

 

秋月が今の警備隊の状況を憂いて開催した北郷警備隊・喧嘩解禁日。この様に無茶苦茶な案を切り出すのは相変わらずなんだな、と私は笑みを溢してしまう。こんな馬鹿馬鹿しい事をしているのを見ていると……ああ、アイツが帰って来たのだと更なる実感を感じるからだ。秋月と街の警邏を回った時も思ったが秋月や北郷が居るだけで街の雰囲気も違うと感じてしまう。昔から秋月を知っている民も、この四年間で魏に移り住んだ者達も秋月と北郷の帰還を喜んでいた。

 

だが、それを望まなかったのは警備隊の半数を締める若者達だ。この四年間で増員された彼等は秋月と北郷の事を知らない。女を侍らせた種馬が良い気になっている、と言うのが彼等の認識……いや、そう思いたいのだろう。でなければ今までの自分達の行いが馬鹿にされた様な気持ちになるのだろう。その思いもわからんでもない……だが、街を守っていると言う誇りも思い違いをすれば傲慢に成り下がる。

彼等は嘗ての私と華雄隊だ。誇りだけが高く、強さだけを求めていた愚かな頃……秋月と出会っていなければ私もあのままだったかも知れないな。

 

そんな事を思いながら秋月と若手兵士との喧嘩を見学する。警備隊若手の中でも特に強く傲慢になっている奴が秋月に戦いを挑んだがアッサリと敗北していた。

ふむ、秋月も強くなった……いや、以前よりも冷静に物事を見ていると言うべきか?一人倒した事で複数の兵士が同時に襲いかかって行ったが秋月は冷静に気弾を放ち迎撃していく。気の扱いも以前よりも研ぎ澄まされている。天の国での四年間と桂花の実家で修行をしていたと言う一月でここまで強くなったのか。

以前は気の扱い一つでも苦労していた印象だったが、今は巧みに操っている。以前の状態でも他国の将軍を翻弄する程の強さを持っていたんだ。今の秋月を相手にするなら警備隊の兵士程度では不可能だな。

 

 

「華雄隊長。怪我人は退がらせます」

「そうしてくれ。秋月が懸念していた事態になった場合、ゴロゴロと怪我人を放置しておくのは危険だからな」

 

 

警備隊古参の兵士の数人が秋月に倒された若手を訓練場の端に連れて行く。

 

 

「ぐっ……くそ……」

「デカい口を叩いておきながら……と言いたいが秋月を相手にしたのだ。まあ、仕方あるまい」

 

 

私のすぐ側に運ばれてきたのは最初に秋月に倒された若手だった。奴は悔しそうに秋月を睨みつけている。

 

 

「まだ秋月の実力を疑うか?戦乱の世の戦いも先日の恋との戦いも何かの間違いだ……自分達の方が優れているとまだ甘い考えに縋りたいのか?」

 

 

私の発言に悔しそうに顔を背ける若手。血気盛んな若者に有りがちな話だ。自分はなんでも出来る。自分の力を過信して格上に挑む。己の力が認められぬのは他の誰かの所為だと……だが、そんな考えでは秋月を越えられん。寧ろ、未熟さを露呈させるだけだ。

 

 

「噂だけで秋月と北郷を見過ぎていたな。そして自分達の力を過信していた。どうだ、甘く見ていた相手にアッサリと敗北する気分は?」

「秋月……副長は名ばかりではなかったのですか?街の民も……他国の将からも馬鹿にされていた……なのに……」

 

 

私の問いかけに若手はギリっと拳を握る。悔しそうにして、目の前の光景が信じられないと言いたそうに。

 

 

「秋月や北郷の強さは単純に力がどうこう言う物ではない。その本質は臆病で……どちらかと言えば守られる民の側の考えを持つ者だ。だから民に慕われ、助けられて来た」

「民に慕われ……それが警備隊の仕事だと?」

 

 

私の発言に怪訝な顔付きになっていく。最近、私は血風連にかかりきりで警備隊の指導には参加していなかったが、そんな事も教えていないのか。

 

 

「警備隊の仕事は街の治安……だが、秋月はそれと同時に民の笑顔を守って来た。秋月はその身を犠牲にしてでも民の笑顔の為にと戦い続けたぞ。お前達に出来るか?戦乱の世で街の治安を維持しながら、民を笑顔にして他国の将と互角に渡り合う……なんて馬鹿げた事を」

「そんな事、出来る訳……いえ、秋月副長はやってのけたのですね」

 

 

私の問いかけに若手は、ふざけるなと言おうとしたのだろうが口を閉ざした。それをやってのける人物なのが秋月だ。自分で言っておきながら、とんだ話だとは思うがな。

 

 

「アイツが怪我をするのは新しい技の開発もそうだが、民を守る為や他国の将との戦いが主な所だ。その為になら秋月は平然と無茶を仕出かす。それでいて奴は笑みを絶やさない。本当に……アイツは人たらしだよ。厄介な奴に皆が惚れてしまう」

「警備隊の先輩方から……色々と常識の無い人だと聞いていました。だが……」

 

 

私は秋月の人柄を改めて口にしたが、無茶苦茶だな。そして古参の兵士達から秋月の話を聞いていたのだろうが、信じられないなかったのだろう。無理もないな。

 

 

「ふざけるな!」

「今更、帰ってきて副長面すんな!」

「そうだ!平和を守って来たのは俺達なんだ!」

「そうだな。俺と一刀は魏の一員として大陸の平和に手を貸した。だが、その後の平和ん守って来たのは、お前達だ。その誇りを持つ事は良い事だ。その辺りは謝罪と感謝をする……だがな」

 

 

私が若手と話してる間に、秋月は何人かを倒した段階で他の残った若手兵士達は秋月を取り囲んでいた。若手兵士達の発言に秋月は体に気を溜め始めている。これは少々、不味いな……

 

 

「秋月が大技を放つぞ。お前等、離れろ」

「「はっ!」」

 

 

秋月が何をしようとしているかは分からんが、大技を放つのは間違いないだろう。私は気絶している若手を回収していた古参の兵士達に指示を出す。流石に秋月の技の破壊力と無茶加減を理解しているから判断が早いな。素早く離れ始めた。

 

 

「俺と一刀を馬鹿にして……舐めた態度を取って……華雄や凪達の悲しむ顔を見たか?魏に帰って来た時に凪の表情が優れなかったのも……街の人達の活気が薄いのも……お前達が傲慢な態度を取り続けたからだ。お前達は平和を守っていたかも知れないが……笑顔は守れなかったみたいだな。喰らえ、新必殺……ギガクラッシュ!」

 

 

秋月の発言は自分への不甲斐なさと無責任に居なくなってしまった自分自身への怒りと今の警備隊の不満が見えていた。やはり秋月としては街の治安を守る事以上に民の笑顔を守れなかった事に憤りを感じているのだな。そう思っていたら、秋月が両手を広げた瞬間に秋月が溜め込んだ気が全身から爆発した。私の位置まで爆発は届かなかったが、流石の威力だな。私の周囲では若手連中は呆然としているし、古参連中は「流石、副長……」「相変わらず、凄いお方だ……」「若手も馬鹿だな。俺なら絶対に副長と喧嘩したくねぇ……」と口々に言っている。

 

 

「ま、こんなもんか……気のコントロールも上手くなったな、俺も」

 

 

すると舞い上がった土埃の中から秋月が現れる。パンパンと、いつもの道着の土埃を払う仕草に以前と違って平然としている姿に私は安堵してしまう。以前なら、あの手の技を使用すれば地面に寝転んでいたが技の扱いが巧みになったのだな。

 

 

「さて……もう相手は居ないのか?」

「副長、ならば私がお相手を!」

「いや、俺だ!」

「この際だ、自分も!」

 

 

秋月が周囲を見渡しながら聞いているが、若手の兵士達は完全に戦意喪失している。すると古参の兵士達が次々に手を上げ始めた。

 

 

「おいおい、お前達も俺に不満があったのか?」

「不満?ええ、ありますとも…… 李典小隊長とイチャイチャしやがってっ!」

「そうだ!俺達だって……俺達だって……小隊長達とイチャイチャしたいんだー!」

「それにお付きの侍女さん達も可愛いし、羨ましいぞチクショー!」

 

 

秋月の疑問に古参の兵士達は叫び始める。

 

 

「 李典小隊長のお胸を好き勝手にして!羨ましいぞ!」

「猫耳軍師様を雌猫に仕立てた張本人、許すまじ!」

「可憐なメイド長さんに甘えたい!」

「メイド副長さんに踏まれてぇ!」

「華雄様の乙女な顔を独占している!」

「顔良様の優しさに包まれて、妬ましい!」

「大河きゅん、ハァハァ!」

「ヤベェ……アイツ、大河の尻を狙ってるぞ!?」

 

「だったら、掛かって来いや!兵隊さんならぬ、変態さん達めっ……クロスファイヤーハリケーン!」

 

 

次々に不満を口にする古参の兵士達。だが不満と言う割には皆が笑っている。それを察した秋月も笑いながら叫んで古参の兵士達との乱闘が始まった。秋月は手を十字に構えて気を放つ。放たれた十字の気弾に数人が吹っ飛ばされている。

 

 

「お前達に出来るか?十数人を相手にして、気の大技を繰り出した後に古参の猛者共と乱戦を」

「無理です……と言うか、なんであの規模の気を放って平然としているんですか、あの人」

「それに我々と戦っている時もほぼ無傷でしたし」

「先輩方も笑ってますね。なんか僕達も笑ってしまいます」

 

 

私の言葉に秋月に不満を持っていた若手兵士達は既にその思いが四散していた。本当に人たらしな奴だ。既に若手兵士達の心を掴み始めている。強いだけの将は幾らでもいる。だが、人を惹きつける人柄は強さの垣根を超えた何かだ。

しかし、自爆技を使ったのに今回は無事なのは何故だ?あんな技を使えば、いつもなら大怪我をするのだが……それを予想して、医務室に連絡をして既に治療の準備まで済ませたのだが……杞憂で終わったか?

 

 

「秋月、私も混ぜろ!勝負だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「やっぱり来たか、春蘭!?消耗した状態で勝てる訳ねーだ……危っぶねぇ!?」

 

 

すると古参兵士達に混ざって春蘭が乱入して来た。秋月が「多分、春蘭か恋……後は霞辺りかな。喧嘩に乱入してくるだろうから来たら止めてくれ。流石に将軍相手に手加減無しの喧嘩なんか出来ねーよ」と言っていたが予想通り、春蘭が乱入してきたな。

 

 

「どうした、喧嘩解禁日では無いのか!?」

「だから警備隊内部での話って言っただろ!魏の筆頭将軍と喧嘩なんか出来るかー!」

「さて、そろそろ助けに行くか」

「凄い、夏侯惇将軍の剣を避けている……」

「俺達……副長の力を見誤っていた……やはり、先日の武術大会は間違いじゃ無かったんだ」

 

 

私は立て掛けていた愛用の武器を手に取り、秋月を助けに向かった。若手連中は春蘭に襲われて攻撃を避け続ける秋月に驚愕していた。

こんな馬鹿みたいなやり取りが懐かしく……私は自然と笑みを浮かべていた。

 

 




『クロスファイヤーハリケーン』

『ジョジョの奇妙な冒険』モハメド・アヴドゥルのスタンド『マジシャンズレッド』の必殺技。十字に組んだ腕から十字架の炎を放つ技。

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