真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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お待たせしました。今回は少々悩みながら執筆。


第二百七十一話

 

 

 

「あー……死ぬかと思った」

「副長のその言葉も聞くのは久しぶりになりますね」

「夏侯惇将軍から逃げ切れる方がおかしいかと思いますが……」

 

 

春蘭から逃げ切った俺だが無傷とはいかず、いつもの医務室に来ていた。我ながら春蘭の斬撃を避けれるようになるとか見事な進歩だと思う。だが、流石に無傷での生還は叶わずこうして医務室にお世話になりに来たのだ。相変わらず先生の助手は信じられない物を見る目で俺を見るなぁ。

 

 

「しかし……野戦病院みたいになったな」

「その半分以上は副長がした事ですよ。戦を知らない……ましてや、副長の無茶苦茶さを知らぬ者達には酷でしょう」

 

 

そう医務室には怪我人が大量に寝かされている。それは俺の技でぶっ飛ばされた警備隊の若者達と春蘭の暴走を止めようとした連中だ。

 

 

「こうして見ると最近の若者は軟弱だな。俺や一刀は春蘭に斬られても次の日には復活してたぞ」

「それはお二人が異常なだけですと言いたいですが……大きな戦が無いと言う事は戦や荒事への対処の仕方や対応に慣れてないと言う事です。警備隊のゴタゴタが減ったのも理由の一つでしょうが」

 

 

やれやれと着替えをしながら怪我人で溢れ返る医務室を見ながらため息を溢す。昔はドタバタとしていた日常が無くなっていたんだなと考えさせられてしまう。暫くは警備隊の若者達を鍛える事から始めなきゃかもしれないな……本当なら一刀と大将の恋愛事に首を突っ込んで行きたかったんだがな。他にも大河と龐統の事もあるし。

 

 

「じゃあ俺は行くから問題無い様に頼むわ」

「ええ、いつもの様に対応しておきます」

「え、いつもの様に?まさか昔はこれが当たり前だったんですか?」

 

 

俺と先生の会話に引き気味な助手。うん、昔はこれが当たり前だったのよ。

 

 

「オメー等も。今後は俺や華雄が鍛え直してやるし、仕事の見直しもしていくから覚悟しておけよ」

「ううぅ……」

「化け物か、あの人……」

「なんで夏侯惇将軍に斬られかけて平然としてられるんだ……」

 

 

医務室で寝てる連中に声を掛けてから出る。うん、苦しんだ返事しか聞こえなかったけど気にせず行こう。

俺は上着のポケットに入れていたタバコを口に咥えてから屋上を目指した。

 

 

「しかし、我ながら頑丈と言うか……タフになったよなぁ。体内の気の発動具合も明らかに上昇してるし」

 

 

歩きながら手を開いて閉じる。前にこの世界に居た時と比べると力が溢れてる感じなんだよな。だからこそ恋や春蘭と戦った後でも平然としてられる訳だし。それを考えると以前の気の発動は不自然と言うか、不具合があったかの様だ……疑問が増えるけどその辺りは、貂蝉や卑弥呼に聞くべきだな。この世界に戻る切っ掛けを教えてくれたのは、あの二人だし何かを知っているかの様な雰囲気だったからな。

そんな事を思い、考え事をしていると屋上に辿り着いた。咥えていたタバコに火を灯す。

 

 

「フゥー……」

 

 

紫煙を吐き、気持ちをリラックスさせる。さっきの先生の言葉が俺の中で響いていた。以前の様に、いつもの様に……あの頃の様に振る舞うのも良い。いや、むしろ嬉しかったけど……若者達の言い分も分かる。この四年間は俺にとっても努力を重ねた日々だった。彼等にとってもそうなんだ。それをいきなり無かった事にしようなんて虫が良い話過ぎる。それに、この四年間で空いた俺と桂花達との心の距離感もある。惚れた女の子達との距離もあるってのに、他の連中との距離が……

 

 

「何を沈んでおるか、馬鹿者!」

「うわっと……熱っ!」

 

 

いきなり背中を叩かれ驚く。しかも背を押された衝撃で咥えていたタバコの灰が頬に落ちて、超熱い!

 

 

「熱ちちちちっ!?って祭さん?」

「久しいの。まったく……せっかく魏に来たのに挨拶もないから少々寂しかったぞ」

 

 

頬の熱さに戸惑いながら振り返ると祭さんが仁王立ちしていた。そう言えば大将が祭さんが魏に籍を移そうとしていると言っていたな。バタバタしてたから忘れてた。

 

 

「す、すいません。バタバタしてて……それに祭さんが魏の所属になったのを知ったのも後の事だった上に俺は警備隊の所属だったので……」

「まあ、その事は後で埋め合わせをしてもらうが……何を悩んでおる」

 

 

祭さんに言い訳をしようとしたらペシっとデコピンを額に食らう。流石、呉の宿老……人を見る目が俺とは違う。年の功って……

 

 

「何を考えた?」

「いえ……自分では及ばない部分があるなぁっと思ってまして」

 

 

凄まじい速度でアイアンクローで顔を掴まれる。ギリギリと締められる力に握力が凄まじい……いや、思考が定まらないんですが。

 

 

「なんて言うか……四年間分の距離間が測りきれないと思ってまして。四年前みたいに振る舞おうとしてるけど、四年前を知らない連中とは溝があるな、と。なんか、お互いに気を使って妙な雰囲気になると言いますか……ええっと……」

「お主が何を考えているのか、なんとなく分かったが……それは悩みすぎじゃ。この国の者達も素直にお主等が帰ってきた事を喜んでおる。無理に悟った様に大人を演じなくても良いじゃろ。以前のお主は大人でありながら童の様に楽しそうにしていたからワシも惹かれたのじゃぞ」

 

 

祭さんは、やっぱり年の功なのか俺の悩みを察してくれた。俺は帰るまでの四年間に出来た魏の皆との溝を感じていた。皆は俺と一刀と『あの頃』

の様に振る舞おうとする。対する俺達も『あの頃』を思い出しながらそう接しようとする。だが、ふとした瞬間に会わなかった四年間のすれ違いが生じるのだ。大河の一件がそうであった様に、今回の喧嘩解禁日もある意味では、その延長とも言えるだろうな。

その悩みをいの一番に打ち明けたのが他国所属の祭さんになったのは四年前に少しだけ交流があったからなのはなんとも皮肉なもんだ。

なんて思っていたらアイアンクローは解かれ、そのまま祭さんは指先で俺の眉間をなぞる。

 

 

「確かにお主は他の者よりも年上じゃ。北郷も年上のお主を頼りにしているのも分かる……じゃがのう。ワシから見ればお主は年下なんじゃ、ワシの前で大人ぶらんでも良い。そのままのお主でおれ。眉間に皺なぞ寄せよって」

「三十手前の大人に言いますか、それ」

 

 

祭さんの言葉に俺は一刀と居た四年間の事を。この世界に帰って来てから袁術を助けた事とか。魏に戻ってから大将の事や桂花のご機嫌を取りに行った事とか。警備隊の事とか。色々な事を思い出して……四年前と違って大人として振る舞わなきゃと思う事が多かった。悩む事や考える事が増えたのも事実だが、眉間に皺が寄ってる自覚は無かったな。

しかし、三十手前で子供扱いされるとは思わなかった。

 

 

「呉の王族に未だに子供も変わらん者がおるが、どう思う?」

「ああ、なるほど……」

 

 

王で大人だが、子供と変わらん考えの奴が居た事を思い出す。確かに子供だわな、アレは。

 

 

「だが、自分らしく生きると言う意味では正しいとも言えるじゃろ。彼処までしろとは言わんが、無理に自分を飾ろうとせんでも良かろう。それに……ほれ、お主の悩みを察してか様子を見に来ておるぞ」

「え……あ」

 

 

祭さんの言葉に俺は振り返って入り口の方に視線を向ける。すると、そこには桂花を筆頭に詠や月達が慌てて姿を隠すのが見えた。ああ、心配掛けてたんだな。寧ろ俺自身が気付いてなかった悩みに、あの子達は気付いていたんだ。心配掛けちゃったな……

 

 

「ワシも四年前に女である事を呼び起こされてから待たされておったのだがな。今は取り敢えず……コレで我慢しておこう」

「え、祭さ……んむっ!?」

 

 

桂花達に心配を掛けさせたんだと思い、祭さんにも見抜かれていたんだと考えていると祭さんに襟を掴まれてグイッと引き寄せられてキスをされた。一瞬、赤壁での事を思い出して……と考える暇も無く祭さんの舌が侵入。あの時と同じ様に俺はされるがままになってしまう。体から力が抜け、両膝から崩れ落ちた。

 

 

「ふふっ……種馬と呼ばれておる様だが口吸いの時は生娘の様じゃの」

「祭さんに掛かると種馬も……負けちゃう」

「なんで乙女の顔になってるのよ!」

 

 

膝から崩れ落ちた俺に祭さんは指先で俺の顎をクイッと上にあげる。やだ……男前。

なんて小芝居をしていたら背中を蹴られた。声からして桂花だな。でも、まあ……少し肩肘を張り過ぎていたのかもな。自分じゃ案外気付かないもんだ。

 

この世界に帰って来てから焦っていたのかも知れない。警備隊の問題もそうだけど……もう少しゆっくり生きても良いのかもな。

 

 

「言い忘れておったが……三国の交流訓練の時期じゃのう。思春や翠が随分やる気を出してあったぞ」

 

 

訂正。俺はゆっくり生きる事が許されないらしい。現状で俺を恨んでいるであろうツートップが俺を狙っているのを聞いて俺は覚悟を決めた。




ボケるのは次回に纏めていきます!

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