真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百七十四話

 

 

 

◆◇side思春◆◇

 

 

森の中に潜んで私と明命は隠密訓練の相手を待った。今までは呉の内部だけでやっていた隠密訓練も今では三国の将や兵士を交えての訓練となっている。私と明命は呉の時代からでも獲物を逃した事もないし、捕まった事もない。今回の訓練も同様の結果になる自信があった。だが、今回はあの種馬兄が新たな規約を申し入れてきた。曰く『隠密訓練で捕らわれず逆に私達を捕らえた場合、その捕らえた者を好きに出来る権利を与える』この話を聞いて明命は顔を真っ赤にして、私も蓮華様も怒りを覚えた。訓練に託けて我々を好き勝手にしようとする判断なのだと憤った。やはり屑か……そう思っていたが祭様や雪蓮様は違った考えをしていた。

 

 

「思春……貴女は秋月と何度か戦ったんでしょ?これは秋月の策だと思うわよ」

「儂も策殿と同じ考えじゃな。不利な条件を提示して相手を揺さぶる。ほれ、既に明命も思春も冷静じゃなくなっておるじゃろう?そうすれば突き入る隙が生まれるって寸法じゃろ」

 

 

雪蓮様と祭様のお言葉に私も明命も蓮華様もハッとなる。そうだ……相手をおちょくり、隙を突くのが秋月の得意とする戦法だ。雪蓮様に指摘されなければ、まんまと奴の掌で踊らされてしまう所だった。

 

そして冷静になって獲物を待ってみればギラギラと目を血走らせて森に入ってくる愚か者共の群れ。コイツ等もまた秋月の策に踊らされている馬鹿共なのだと感じる。秋月は私の心を乱すだけではなく味方の士気を上げ、勝率を上げる為に動いていた。雪蓮様や祭様の助言がなければ私は頭に血が上り、秋月の策に呑まれていたに違いない。明命も同じだったのだろう。乱れていた気配が落ち着くのを感じる。頭を冷やせ、仕事を成せ。心を消し、獲物を見据える。隠密を侮るなよ秋月。貴様の策などお見通しだ。

私と明命は森に入って来た者達を順次仕留め始める。欲に駆られた兵士共は楽々仕留めていけるが、警戒してる将や種馬兄弟は迂闊に動かん様だな。一塊になって陣形を組んでいる。だが、無駄だ……意識が逸れた者から仕留めていけば良い。怯えて視線が逸れた者、意識が他に向いた者、緊張で体が強張った者……私と明命はそれを見逃さない。極力、音を出さずに仕留めていく。秋蘭や翠は直接の戦闘においては私と同格だが、隠密としてなら私の方が有利だ。一瞬の隙を突いて、彼女達も仕留める。

 

 

「お前達……かくれんぼの極意を教えてやろう……」

「え……なんか、嫌な予感がするんですけど……」

 

 

残ったのは種馬兄弟と蒲公英のみ。するとあの妙な鎧を纏った秋月は両手に気を込め始めた。まさか私や明命の位置を把握して攻勢に出る気か?

 

 

「猛虎高飛車!ビッグバン・アタック!キン肉フラッシュ!アタック光線!」

「だぁぁぁぁっ!?当てずっぽうで技を放たないで下さい!」

「危なっ!?危ないよ、純一さん!」

 

 

秋月は様々な方向に気弾を放ち始める。私と明命は距離を取って様子を伺っていたから危なげなく観察していたが、身近に居た種馬弟や蒲公英は危なげに気弾を避けて必死になっていた。

 

 

「潜む場所が無くなれば甘寧達も見つかるだろう!コイツで仕上げだ、だいばくはつ!」

「最後はいつもの爆発オチですか!?」

「もう、やだぁ!」

 

 

秋月の叫びに種馬弟と蒲公英が叫ぶ。嫌な予感がした私と明命は即座に距離を空けた。それと同時に森の中に爆音が鳴り響いた。粉塵が舞い上がり視界が奪われる。

 

 

「まったく……成長しないな、この馬鹿は」

「でも破壊力が増していましたね。あの距離で私達に余波が飛んできましたから」

 

 

私と明命は粉塵が収まった後の場へと降り立つ。其処には気を使い果たしてうつ伏せに倒れている秋月と爆発の余波で吹き飛ばされた種馬弟と蒲公英が並んで倒れていた。味方すら巻き込んで技を繰り出すとは愚か者と言う言葉しか思い付かんな。私と明命は並んで倒れている秋月に歩み寄る。そして徐に筆を取り出す。

 

 

「何を書きますか?」

「決まっているだろう。『女垂らし』だ」

 

 

明命からの問いに私は以前から決めていた事を書こうと思った。コイツには、この程度の文字では足りぬが取り敢えずコレを書いておこう。そう思って秋月の前に座ろうとした……その時だった。

 

 

「え……きゃあ!?」

「ひゃあ!?なんですか!?」

「捕〜まえた〜」

 

 

私と明命の足が急に引っ張られる。振り返ると地面から手が延びており、右手が私の足を。左手が明命の足を掴んでいた。妖の類かと思ったと同時に地面から秋月がゆっくりと姿を現した。なんで地中から出て来たんだコイツは!?

 

 

 

 

 

◆◇side思春・end◆◇

 

 

 

ふぅ……上手くいって良かった。正直にそう思う。隠密機動訓練だとすれば甘寧の土俵だ。そんな不利な条件下で俺が勝てる道筋があるとすれば意表を突く以外には無いだろう。だから俺は兵達の士気を上げ、甘寧達の怒りを買う条件を突き付けた。だが、この事は俺を知る人物からはお見通しだろう。特に祭さんが甘寧達に何か指摘するかも知れん。そこで俺は更なる作戦を考えた。

俺はこの世界に戻って来てから体が頑丈になりつつある。気の力も増して来ている。その証拠に天下一品武道会で自爆技を放っても意識が残っていたのだから。今回はそれを利用しようと画策した。俺が自爆技を放てば恐らく甘寧達も油断するだろう。自爆技の後は気を使い果たす事が多かったから。油断を誘い、そこを突かせて貰おうか。

 

俺の考えたプランは以下の通りだ。

①様々な技を放ち自暴自棄になったと思わせる。

②自爆技を放ち広範囲を吹き飛ばす。

③粉塵で視界を奪ったら、なんちゃってシルバースキンを脱いで予め用意しておいた身代わり人形に着させてうつ伏せに倒れている様に見せかける。

④自身は自爆技で倒れたと見せ掛けて自爆技で掘った、地面に潜り待ち構える。

⑤自爆技で倒れて動けないと油断した甘寧と周泰を捕らえる。

 

と言ったものだ。案の定、甘寧と周泰は俺が自爆技で自滅したと思い込んで迂闊に近づいて来た。過去の俺なら自爆技の後は動けなかったからな。

そして完璧に油断した甘寧と周泰を捕まえる。甘寧からは非常に乙女な悲鳴が聞こえた。うん、驚愕と……先程の自身の声に驚いたからなのか、虚を突かれた事に対する羞恥なのか甘寧はみるみる顔が赤くなっていく。

 

 

「ふ……俺の勝ちだ……へぶっ!?」

「相変わらず、ふざけた奴だ……」

 

 

勝ち誇ろうとしたら掴んだ足とは逆の足で蹴り飛ばされた。両手で甘寧と周泰の片足ずつ掴んでいたから防御も出来ずに蹴り飛ばされる。なんだろう勝ったのに凄い惨めになった気がする。

 

 

「勝敗の条件に照らし合わせれば貴様の勝ちだ……忌々しいが認めてやる」

「……なんで負けた側の方が威圧感があるんだろう?」

 

 

甘寧は俺が掴んでいた足を振り払うと立ち上がり俺から顔を背けながら告げる。うーむ、先程の悲鳴を無かった事にしようとしている節があるな。

 

 

「ま、ともあれ……俺の勝ちだったんだから、言う事は聞いてもらうぜ」

「……良いだろう。勝敗の報酬は既に取り決めていたのだからな。好きにしろ」

「はい……従います」

 

 

俺がニヤリと笑みを浮かべると甘寧と周泰は悔しそうにしていた。なんか「くっ、殺せ」と言わんばかりの状態だよ。まあでも……これから甘寧と周泰にさせる事を思えばそうなるかもな。

そう言えば俺のだいばくはつの巻き添えにした連中を助けなきゃ。正直、一刀のリアクションが甘寧と周泰の油断を誘うための一助になったんだし。

 

 




『猛虎高飛車』
らんま1/2で主人公乱馬が使用した技。『暗い気持ちになり、気を重くする』獅子咆哮弾とは逆のベクトルで『強気になれば、強い気が放てる』技となっている。弱点があるとするなら弱気になると威力が分かりやすく落ちる事で良牙が完成版獅子咆哮弾を放った際には乱馬は弱気になり、威力が落ちていた。

『ビッグバン・アタック』
ドラゴンボールでベジータが使用した技。片手を標的に向けて掲げて球状の光弾を放ち、着弾すると大爆発を起こす。 威力が桁違いに高く人造人間19号を一撃で吹き飛ばし、劇場版ではメタルクウラ相手にも使用している。

『キン肉フラッシュ』
キン肉マンが初期の頃に使用した技。腕を交差して放つ光線技だが威力が低い。

『アタック光線』
初代ウルトラマンが使用した技。突き出した右手からスプリング状の光線を放つ。

『だいばくはつ』
ポケモン初期から存在する技。己のHPと引き換えに相手に大ダメージを与える技。技を使用したポケモンは戦闘不能になる。

『微塵隠れの術』
爆薬などで自身を爆死させた様に見せかけて地面や池の中に潜む忍術。

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