真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二十八話

 

 

 

 

 

『起きてください先輩』

「ん……もう後、五時間寝かせて……」

 

 

微睡みの中、俺を起こす声が聞こえる。懐かしい声だ。

 

 

『講義の全てをサボる気ですか。いい加減にしないと単位落としますよ』

「昨日は大学のサークル仲間と朝まで呑んでたから……単位は代返お願い」 

 

 

ああ、これは夢だ……

 

 

『まったくもう……起きなさい!』

「ごふぁっ!?」

 

 

だって……アイツとは……

 

 

「寝てる人間の腹を踏みつけるって鬼か!?」

『先輩が起きてくれないからです。さ、私と共に大学に行くか、私の一撃で眠りにつくか二択です』

 

 

『』とは……

 

 

「通学か気絶の二択かよ!?」

『だって……そうでもしないと先輩、大学サボってばかりだから……』

 

 

もう……

 

 

「ああ……もう、わかったから泣きそうな顔になるなよ」

『はい!さ、行きましょう先輩!』

 

 

別れたんだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………俺の部屋か」

 

 

夢から覚めて目を開ければ見慣れた天井。体がダルい……今は何時だ……?

頭がボンヤリして思考が定まらない。

 

 

「っ……いてて……」

 

 

体を起こそうとしたが身体中に痛みが走り上手く起き上がれない。この感覚は覚えがある。初めてかめはめ波を撃った時に気が枯渇して動けなくなった時と同じなのだ。

 

 

「っか……駄目だ」

 

 

なんとか上体を起こしたが立ち上がれそうにない。再び寝台にボフッと体を寝かせた。体を動かすことが叶わない。

思い出すのは熊を相手に自爆紛いの技を使った事だ。

まあ……自爆と言うか体の外側に俺の気をすべて放出しただけなのだが。顔不さんから気を用いた自爆技を聞いてはいたが流石にそれをする気にはなれなかった。ならば気を自分の内側で爆発させるのではなく外側で爆破したらどうなるか。結果は大成功だった。ウルトラダイナマイトみたいな形になったが熊の背中に張り付いていたから至近距離での自爆。というか至近距離じゃなきゃ威力が極端に低くなるんだろうけど。

 

それは兎も角……窓から見える空は暗い。となれば今は夜か?と言うか……アレからどうなったんだ?荀彧や一刀達は無事なのか?

誰かから話を聞かなきゃ状況もわからん。

 

 

「あ、あんた……」

「ん……」

 

 

ボケッと窓から空を見ていたが部屋の入り口付近から声が聞こえて首を動かしてそちらを見ると荀彧が驚愕の表情で俺を見ていた。手には竹簡が……仕事中だったのかな?

 

 

「おはよう……って言うべきか?」

「…………馬鹿」

 

 

俺の言葉に毒舌を吐きながら寝台近くの椅子に座る荀彧。

 

 

「どこまで覚えてるの?」

「んー……自爆技を使って体力ギリギリの所に荀彧の一撃を食らって……荀彧の方に倒れた所までは」

 

 

荀彧の質問に答える俺。先程よりも思考がクリアになったからなのか鮮明に思い出してきた。

 

 

「その後、アンタは私を押し倒すように倒れてきたわ……汚れちゃったじゃない」

「そりゃ……悪かった」

 

 

荀彧は椅子に座ったまま俯いていて表情を伺う事が出来ない。やっぱ怒ってるかな?

 

 

「アンタは……三日も寝てたのよ」

「え……マジかよ」

 

 

荀彧は俯いたまま口を開く。前回は一日寝てたが今回は三日。余程の状態だったのか?

 

 

「あの後、大変だったんだからね。熊はあの状態から起き上がって逃げるわ、アンタを運びたかったのに凪は腰を抜かしたままだったし、真桜は泣き続けて使い物になら無かったから」

「あー……そう」

 

 

え……あの熊、アレで仕留められなかったのかよ。それに真桜も泣き続けてって……

 

 

「アンタが呑気に寝てる間に色々と動きがあったわ……」

「いや、少なくとも呑気では無かったんだが……」

 

 

嫌な夢も見ちまったからな……

その後、荀彧から聞いた話では黄巾は更に勢力拡大をしていたらしいのだが突如、勢いが落ち始めた。

なんでも呂布が出陣して黄巾の本隊を叩いたらしい。曰く呂布一人に対して三万の軍勢だと。ホンマかいな。しかも呂布が勝ったらしい。

流石はこの世界だ。色々とぶっとんでやがる。

他にも春蘭が孫策に借りを作ったとか……この三日間で色々起こりすぎだろ。

本来はもっと時間を掛けた話の筈だけど……

 

 

「華琳様からのお達しよ。『秋月純一はそのまま傷を癒す事に集中する事。五右衛門風呂みたいな物の案があるなら随時、設計図を書き上げて提出なさい。』以上よ」

「え……傷を癒す事に……って警備隊の仕事が……」

 

 

荀彧の言葉に起き上がろうとしたが肩を押されて寝台に戻される。

 

 

「私に押さえつけられる位に弱ってる奴が何言ってんのよ。とにかく寝てなさい馬鹿」

「………わかったよ」

 

 

確かに荀彧に押さえつけられる程度で大した抵抗が出来ない状態で警備隊の仕事は無理か。

 

 

 

「じゃ……私は行くから」

「ありゃま……行っちゃうんだ」

 

 

荀彧は竹簡を持つと扉の方へと行ってしまう。

 

 

「仕事の途中で少し様子を見に来ただけだもの……」

「そっか……呼び止めて悪かったな」

 

 

思えば荀彧は大将の言葉を伝えに来ただけなんだろうな。じゃなきゃ俺の見舞いに荀彧が来るとは思えないし。

 

 

「……………」

「荀彧?」

 

 

 

荀彧は扉に手を掛けただけで部屋から出ていこうとはしていない。どうしたんだ?

 

 

「………なんでも……ないわよ」

「え、あ……荀彧!?」

 

 

 

不安気で……それでいて何かを聞きたそうにしている荀彧の表情。どうしたのか聞こうとしたら荀彧は部屋を出ていってしまう。あの顔は気にかかるな……

 

俺が目覚めたと聞いた一刀達が見舞いに来てくれた。

真桜は俺を見るなり抱き付いてきた。見舞いに来てくれた事は嬉しかった。そして真桜が抱き付いてきた際に押し付けられた胸が超柔らかかった。

因みに一刀達の話だと荀彧が一番見舞いに来てくれていたらしい。荀彧は俺に仕事を回す為だと言っていたらしいが。

それを教えてくれた大将や秋蘭のニヤニヤした顔が印象的だった。




『ウルトラダイナマイト』
ウルトラマンタロウの必殺技の一つ。自身のパワーを高めた後に相手に抱きついて自爆する技。威力が高すぎる故に一度の使用で自身の寿命を削る荒業。
因みに破壊力はウルトラマンタロウの持つ技の中でも二番目に高い。

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