真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百八十ニ話

 

 

 

ブラックジャック並みに全身に切り傷を刻まれた俺だったが翌日には意識が戻っていた。

俺の担当医師の話では気の力で無意識に体を治そうとしていたらしく、意識が戻ったのもそれが理由なのだとか……俺も段々、自分自身がわからなくなってきたな。でも波紋の呼吸の使い手みたいに自然治癒のレベルが変わってきたのかも。

因みにまだ本格的な事情聴取は行われておらず一先ず体を休めろとの大将の仰せだ。

 

 

「だが……流石に今回のは堪えたな……」

 

 

意識は戻ったが体を起き上がらせる事も叶わん。流石の俺でも今は安静にしないと……桂花、月、詠なんかは卒倒したって聞いたし。

 

 

「ぬ、主様……大丈夫かえ?」

「ああ、ありがとう美羽。大分、楽になってきたよ」

 

 

そんな中、メイド服姿の美羽は孫策達が席を外すと同時に医務室に駆け込むや否や気の力による治療を即座に始めていた。顔不さんが言っていた通り、美羽には気の才能があるみたいだ。

美羽は死にかけていた俺を見るなり、気の治療をしたらしい。そして自分が倒れるのも構わないと言わんばかりに治療を続けて最後には眠る様に気絶したらしい。

 

 

「ありがとな美羽。でも今はこれくらいで良い。あんまり頑張りすぎると、また美羽が倒れちまうぞ」

「う、うむ……じゃあ、明日また頑張るのじゃ!」

 

 

痛む右腕を動かして美羽の頭を撫でる。撫でられた美羽は俺に注いでいた気の力を止めて治療を中断した。以前はワガママの化身と言われていたらしいが聞き分け良くなったよなぁ。呉の人達からすれば、あり得ない光景らしいが。

 

 

「おう、入るぞ秋月」

「ぴぃ!?」

「祭さん……落ち着け美羽」

 

 

そんな事を思っていたら祭さんが医務室へと来た。相手の了承を得る前に入って来た事をツッコミたいが美羽がガチ怯えになり、俺の右側に位置立っていたのだが祭さんからは隠れる様に反対側に隠れてしまった。

 

 

「袁術か……貴様、秋月に何をしておった?」

「ああ、待って祭さん……美羽は……」

「わ、妾は……主様の治療をしておった……」

 

 

祭さんにギロっと睨まれて萎縮する俺と美羽。しまった……こっちの問題もすっかり忘れてたな。月とか詠は美羽の事をメイド見習いとして可愛がってるし、霞や華雄なんかに揶揄われて涙目になって皆に笑われて平和な光景の一部になってたから忘れていたが美羽……袁術は呉の人達にしてみれば怨敵。孫策の先代である孫堅さんの跡を継いだ呉を我が物顔で好き勝手にした人物。

マズい……兎に角、美羽を庇わなきゃ。そう思って起き上がろうと……

 

 

「秋月に害をなさぬのなら良い。それに袁術がおるならば丁度良いとも言えるな」

「へ……痛ててっ」

「ぬ、主様!」

 

 

起き上がろうとした俺を祭さんは肩を押して寝台へと無理矢理寝かされた。痛がる俺を見て美羽は慌てているが……丁度良いって?

 

 

「我等、孫呉の者が貴様に受けた仕打ち……決して安い物ではないし、簡単に水に流せる物でもなかろう。だが、秋月が貴様に信を置くならばワシが個人的に斬る訳にもいかん。今は話を聞くだけじゃ」

「今は……って所が気になるけど……んじゃ、俺と美羽に聞きたい事ってのは?」

 

 

祭さんはドカッと先程まで美羽が座っていた椅子に座ると脚を組む。長いスリットの入った服からガーダーベルトに包まれた足が俺の目の前で組まれ、寝台の高さ的に素晴らしい光景が映っていた。

 

 

「うむ……秋月よ。下手人の顔は見えなかったとの事じゃが声は聞いたと言っておったな。そして凄まじい強さであったとも聞いてある」

「ああ……凄く強かった。はっきり言って恋に匹敵するんじゃないかと思うくらいに。けど……なんて言うか強さと言うか圧の違いがあった。恋とは違って殺気の塊と言うか」

 

 

祭さんの質問に俺は俺を此処までの状態にした犯人の事を思い浮かべる。夜中で月明かりが少ししかなかった事から顔は見えなかったが声からして女性であったのは間違いない。

 

 

「声からして犯人は間違いなく女性だったよ。やたらと口が悪くて、男勝りって印象かな。それと獲物は剣だった。ああ、それと……最後に僅かに月明かりに照らされて見えた髪は桃色だったな。それこそ孫策や孫権みたいな……ってどうした二人とも?」

「「…………」」

 

 

大将達にもまだ話してない犯人の特徴を告げる。後で大将達が来て事情聴取をする予定だったが祭さんも同席予定だったので問題は無いだろう……と思って話したのだが俺の言葉を聞くにつれて祭さんと美羽の顔色が悪くなっていき、最終的に頭を抱えてしまった。

 

 

「もしかして犯人に心当たりがあるのか、二人とも」

「そこまで聞けば呉の者であれば気付かぬ方が可笑しいと言うもんじゃ。あの場で問いたださなくて正解じゃった」

「ガクガク……ブルブル……」

 

 

祭さんは片手で自身の顔を覆う様に悩み始め、美羽に至っては小刻みに震えていた。間違いなく犯人を知ってるなこりゃ。

 

 

「秋月よ。この事は華琳に伝え……いや、いずれは分かる事か。まだ断定は出来ぬが、下手人は確かにワシや袁術の知る人物の可能性が高い。策殿の先代である大殿……孫堅様だと思うんじゃ」

「先代の孫堅!?あ、でも……言われてみれば……」

 

 

戦ってる最中に誰かに似ているとは思ってはいたが……そうか、孫策に似ていたんだ。纏う雰囲気とか印象はまるで違うが戦っている時の雰囲気が似ていたし、髪色も似ていた。でも、それとは別に疑問も湧き上がる。

 

 

「なんで、俺は先代の孫堅さんに殺されかけたんだ?」

「分からぬ……だが秋月が強そうだから喧嘩を売りに来たと言われても大殿ならやりかねないと思うての」

「うむ……孫堅ならやりかねんのじゃ。前にも戦が無くて暇じゃから虎や熊を狩っていたと聞いたしのう」

 

 

聞けば聞くほど孫堅さんの行動に頭が痛くなる。バーサーカーみたいな人だな、おい。暇潰しで殺されかけたのか、俺は。

 

 

「そもそも大殿は、ある日突然姿を消したんじゃ。策殿に跡目を譲ってな」

「あまりに突然の出来事に妾も呉の豪族達も驚いておったわ」

「英傑と言うか、豪傑と言うか……その血筋は間違いなく孫策に引き継がれてる気がするけど」

 

 

フリーダム過ぎんだろ。奔放な所は孫策に引き継がれたけど、それで隠居して姿を消すって普通じゃなさすぎる。

 

 

「俺が襲われた根本的な理由が不明なんですが」

「大殿の事じゃからな。気まぐれと言われても不思議はないのう」

 

 

つまりは謎のままか。まあ、本人と断定した訳じゃないから本人から聞かなきゃだよなぁ……そんな事を思っていたら桂花と一刀と大将と孫策が医務室に顔を出した。桂花は卒倒したって聞いたけど見舞いに来てくれるのは嬉し……あ、美羽の震えが頂点に達してる。祭さんは先程のやり取りで多少マシになったけど孫策は無理か。

 

 

「はぁい、純一。意識が戻ったみたいで良かったわ」

「あれだけの状態から目覚めるまで時間が掛からない辺り、貴方も強くなったわね」

「良かったです。純一さん」

「もう生きた心地がしなかったわよ」

「まだ体は動かせそうにないけどな。暫くは寝たきりかもな」

 

 

孫策、大将、一刀、桂花の順に俺に話し掛ける。心配かけちまったな。祭さんは目で「ワシが後で話すから今は黙っておけ」と言っていたので当たり障りのない返答をしておいた。

 

 

「あら、純一が望むならアタシが看病してあげようかしら?」

「ちょっ……私の役目よ、それは!」

 

 

孫策がケラケラと笑いながら俺の看病を申し出たが桂花が速攻でブロックした。美羽は俺の布団の端っこをちょこんと摘んでる。

その光景を見ながら大将と祭さんは笑っており、一刀は苦笑いだ。

 

 

「あら、私なら色んな意味で純一を満足させられると思うけど?」

「む、閨での色事なら黙ってはおれんな」

「わ、私だって……」

 

 

孫策が自分の胸を持ち上げて俺……と言うか桂花を挑発し、祭さんも乗ってきた。孫策も祭さんも明らかに、からかう状態になってる。桂花は動揺して気付いてないみたいだし。

 

 

「落ち着け、桂花。孫策と祭さんのペースに巻き込まれて……」

「う、うぅ……秋月のバカァ!」

 

 

俺の一言に桂花は自身の胸や背を孫策と祭さんと見比べる。圧倒的な戦闘力の差に絶望しながら桂花は涙を流しながら部屋を出ていた。そして何故か俺が罵倒を受けた。

 

 

「釈然としないなぁ……どの結果になっても同じエンディングを迎えた気分だ。ビルからの落下イラストは飽きた」

「一部の人にしか分からないネタはやめてください」

 

 

爆笑してる大将、孫策、祭さんは兎も角、後でフォローしないと碌な目に会わないな。主に俺が。





『勝っても負けてもビルから落下』
初代餓狼伝説のエンディング。
ストーリーモードでラスボスのギース・ハワードに勝利するとプレイヤーキャラがトドメの一撃を与えてギースをビルから叩き落とし勝利するエンディングとなる。逆にギースに負けるとプレイヤーキャラがビルから落とされる敗北エンディングになる。

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