真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百八十六話

 

 

俺は痛む体に鞭を打ち、いつもの場所でタバコを吸っていた。城壁の上の見晴らしの良い所で吸うタバコは格別と言えるが今は気分が微妙に晴れない。

 

 

「なんつーか……どうにも上手くいかないな。いや、相手の強さが異常ってのもあるんだけど」

 

 

正直、ちょっと自信があった激烈光弾ですら、あの程度の効果しか無かったのだ。マジで泣ける。

 

 

「あの肌の色と言い、実はビスケット・オリバの先祖ってオチじゃねーだろうな。あの体に天にまで届く筋肉が凝縮されているとしか思えん」

 

 

そうじゃなきゃ気弾の直撃を受けて無傷とかあり得ねーよ。いや、俺の悩みはそっちがメインではなく……

 

 

「はぁ……結局、桂花は見舞いに来なかったなぁ……」

 

 

今、俺の頬を伝う涙は目にタバコの煙が染みたからだと思いたい。と、まあ此処で桂花が来てくれたら飛び上がる程、嬉しいのだが……

 

 

「久しぶりだな、龐統。マトモに話すのは赤壁以来か?」

「はい、お久しぶりです御使い様。再びお会い出来て光栄です」

 

 

城壁に来たのは龐統だった。四年前と変わらぬ姿ではあるが、あの頃よりも堂々とした姿で俺に挨拶をしてくれた。一刀も言っていたが何故この世界の女の子は姿が変わらないんだろう?

 

 

「それで?俺は怪我やら気が枯渇してるやらでボロボロなんだが、何の相談だ?」

「はい……その、大河さんの事で……」

 

 

俺が龐統に話を促すと龐統はモジモジしながら視線を下に向けて口が開き辛くなっていた。何があったのかな?

 

 

「た、大河さんともっと深い仲になるのはどうしたら良いでしょうか!?御使い様の手練手管をご教授下さい!」

「ぶふっ!?」

 

 

意を決して口を開いたが発言にインパクトがあり過ぎた。先程までモジモジとしていた純情そうな娘が何を言ってくれてんの!?

 

 

「先ずは落ち着いて龐統。大河と仲良くなりたいと思う気持ちは正しいが段階を飛ばし過ぎだ。それと男と仲良くなる手練手管は大人の女性に聞きなさい」

「はうっ!ま、間違えたました……あわわ……」

 

 

俺の指摘で龐統が顔が真っ赤になる。うん、仮に俺が教えられる事があるとすれば『男が女を喜ばせる』であり『女の方から男との仲を深める』事はアドバイス出来ない事もないが専門では無いから。

 

 

「まあ、そっち方面は蜀や呉の歳上のお姉さん方に聞きなさいな。それでなんでまた急に大河との仲を深めようと思ったんだ?聞いた話だと大河とは付き合ってるそうじゃないか?」

 

 

俺がタバコに火を灯して心を落ち着けながら聞く事にした。聞いた話であるが大河と龐統は恋愛関係にあり付き合ってると聞いている。奥手な大河にしては俺や一刀が居なかった四年間の間に進展があったんだと嬉しかったもんだが……

 

 

「その……大河さんとはお付き合いさせて貰っては嬉しいんです。一時期は御使い様が天の国に帰ってしまって沈んでいた時期もありましたけど私の事を凄く大事にしてくれていて……」

「ほほぅ……」

 

 

龐統のから大河との付き合いを聞くとニヤニヤしてしまう。純愛だねぇ。

 

 

「でも、御使い様が天に帰ってから二年近くお付き合いしない状態が続いて告白されたのも二年前の話なんです。もっと早くに告白して欲しかったですし、付き合い始めてからも手を握るのが精々でした……釣り上げた魚に餌をあげないと言うか、肩透かしと言うか、私一人放置されたみたいで悲しいと言うか…-」

 

 

大河も真面目だし、自立心が強いから恋愛方面は心配してたけど龐統の方は相当鬱憤が溜まってるな。実質四年も焦らされてれば、当然とも言えるが。

 

 

「大切にしてくれてるのは分かってはいるんですけど、正直な所は大事にされすぎと言うか……もうちょっと手を出してくる素振りはくらいは見せてほしいといいますか……」

「俺も大概だとは思うが龐統も大概だな。まあ、大河の方は俺も後でそれとなく指摘しておくよ」

 

 

大河と龐統は付き合ってはいるみたいだけど進展は驚く程ないみたいだ。本当なら周りの大人がフォローするんだろうけど俺と一刀の事で余裕が無かったんだろうな。俺と一刀が居なくなった影響が若い連中への皺寄せとして現れてる。

 

 

「そっち方面は俺も今後気にかけるとして……他に気になってる事はあるか?不満とかは今の内に聞いておくぞ」

「そう……ですね。では私に気の才はあるでしょうか?」

 

 

恋愛相談以外の事を聞いたら龐統は気の才能の事を聞いてきた。なんでまた急に気の事を聞いてきたんだか。

 

 

「気の才能か……顔不さんとか凪の方が詳しいと思うが……素質があるかどうかは調べてからになるな。俺が結構使ってるから簡単に出来るなんて勘違いしてる奴が多いけど気の素質を持つ奴ってのは稀なんだからな?」

「はい……将の皆さんの中でも使える方は稀だと聞いていましたから。戦いに使えなくても美羽ちゃんみたいに治療気功が使えればと思って」

 

 

成る程、美羽が気で俺の治療をしているのを見たから尚更、気の治療が自分でも出来るんじゃないかと思った訳ね。愛されてるねぇ、大河も。

 

 

「しかし、美羽の気功治療は才能の面が大きいんだ。華佗だって気功治療はしてるけど基本的に鍼を使ってるだろ?美羽みたいに手を添えて治せる奴は滅多にいないんだぞ?」

「そ、それでも……可能性があるなら調べたいんです!」

 

 

俺の発言にも龐統は折れなかった。愛する人の為にやれる事は全部やりたいってか?この純粋な気持ちを大将や桂花に僅かにでも……いや、あの二人も心根は割と純情な部分があったりするのだが。

 

 

「なら、やってみるか龐統。気の特訓は才能があるのもがやっても半年は掛かると言われている。それに関しても俺や大河や美羽は稀な例だからな。気の才能があっても半年以上掛かるぞ。いや……でも一応、一ヵ月で済む特訓もあるんだが……」

「私は大河さんの為に頑張りたいんです。それに一ヵ月で済むならそっちで!」

 

 

龐統の熱意は相当なものだ。大河め愛されてるじゃないの。なら教えてやろうじゃないか。

 

 

「……ただし気は尻から出る」

「みっちり半年でお願いします」

 

 

俺の一言に龐統は真顔で答えた。そりゃそうだ。一応、俺の体が治ってから気の才能があるか調べる事になった。






『ビスケット・オリバ』
刃牙シリーズに登場する人物。
一言で言えば筋肉の塊の様な人物で怪力を生かしたパワーファイターでありながら頭脳戦にも長けており結構博識。性格も『気の良い愉快なおじさん』ではあるが、恋人のマリアや自身の自由を奪う者にはガチ切れして容赦ない制裁を加える事もある。
アリゾナ州の刑務所(通称ブラックペンタゴン)に収監されている囚人ではあるが、犯罪者捕縛のスペシャリストである為、頻繁に外出をしては犯罪者を捕らえて刑務所に戻る生活を繰り返している。
かなりの大食いで一日に十万キロカロリーを摂取すると言われ、囚人でありながら豪華な食事や飲酒喫煙まで許可されている。

規格外の筋肉量で至近距離のショットガンの弾に耐えたり、ナイフで腹部を刺されても致命傷にならない等、恐るべき防御力を誇る。また着ているタキシードを筋肉のみで破り脱ぎ、瞬発的な力の込め方で破けたタキシードが人の形を残したまま立つ等、驚きの特技も持つ。
オリバ曰く「この体に筋肉を凝縮させて閉じ込めており、この筋肉を解放したら皮膚を突き破り、諸君等を飲み込み、刑務所を破壊し、天にまで届くだろう」「この体は十万キロカロリーを摂取したエネルギーを燃やし続け、一瞬の気を緩めず燃焼し巨大化しようとする内なるモノを抑え、封じ、圧し、締め付けて、閉じ込め続けている」と豪語した。勿論嘘であり即座に謝罪はしたが実際にそれくらいには鍛えていると言う意味であり刃牙も「貴方の口から語られると嘘に聞こえない」とコメントしている。



『ただし魔法は尻から出る』
魔法陣グルグルのヒロイン、ククリが魔法の修行を受けた際に言われた一言。
シュギの村で修行をする事になったククリ。その修行期間が半年も掛かる事にガッカリしたククリだったが実は一ヵ月コースがある事が判明。そっちにして欲しいと懇願するククリだったが「ただし、一ヵ月の場合、魔法は尻から出る」と言われ半年コースを即決で決めた。
余談だが、魔法陣グルグル2で伏線回収されて実際に尻から魔法を放つ魔法使いが現れた。

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