真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月
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第四十七話

 

 

 

 

 

◆◇side賈駆◆◇

 

 

 

反董卓連合……それは僕達にとって忌まわしい連合だ。都で悪政をしていた文官を処罰したのだがそれが『董卓は都の権力を奪い暴政を敷いている』とされた。

都が既にボロボロなのは誰もが承知の上だし、僕達はそれを建て直そうと頑張った矢先にこれだ。

この反董卓連合を打ち立てたのは袁紹……名家として名高いが馬鹿の象徴とも言える存在。事実無根の僕達を大悪人にした張本人。そしてその馬鹿の口車に乗った他の諸侯。

なんで……なんで正しい事をした僕達がこんな目に遭ってんの!?

その後も散々だった。元々の勝ち目が薄かった上に董卓軍は華雄の指導が行き届いてしまってるのか大半が猪だった。策も無く、ただひたすらに突進を繰り返して汜水関と虎牢関の両方を陥落させられた。

 

その後は……もう何も考えなかった。ひたすらに月を連れて逃げた。途中で恋と音々音と合流をしたがまだ油断は出来ない。その矢先だった、都に連合の者達が入り込んできている。早くしないと逃げ場がなくなる!今現在、一度恋の家に行ってセキトと張々を連れていく話をしていたけど時間が無い。ねねの発案でねねだけ別行動を取ってセキトと張々を連れて脱出。その後に合流と決まったのだけど恋?……いない。あの子何処に?キョロキョロと辺りを見回していると恋は連合の武将と話をしていた。

 

 

「ちょ、ちょっと恋!見付かったらヤバイのよ!?」

「あ、ごめんなさい」

「え、詠ちゃん……」

 

 

僕が声を掛けると恋は素直に頭を下げたけどヤバい事には違いない。その直後、曹操の所の武将がゾロゾロと現れた。恋は即座に戦闘体制に入ったけど男の指示にしたがってそれをやめてしまう。その後の会話で僕の失敗で月が董卓である事がバレてしまう。

しかも華雄がこの場に来た為に関羽や他の武将も呼び込んでしまった。どうしよう、焦って考えが纏まらない。華雄も失敗の連続で責任を感じているみたいだけど華雄にこの場を切り抜ける知恵は期待できないし……

 

 

「ああ……華雄が此処に居たのは間違いじゃないが……居るのは董卓の所で働いていた子達だけだぞ」

「…………え?」

 

 

僕が悩んでいるとポンと男は僕の背を叩いた。華雄も呆気に取られていた。その後も男は口から出任せで僕達の正体を隠してくれた。なんで……なんで僕達を庇うの?

 

 

 

「待て貴様、何を勝手な事を……私は董卓様の……むぐっ!?」

「少し黙っていてくれ華雄。それで俺達は街の様子を探っている間に困っていたこの子達を見つけてな。華雄は俺達がこの子達に乱暴したと勘違いしてたみたいで気が立ってるんだ。それに俺や関羽は汜水関で華雄と戦っただろ尚更だ」

 

 

上手く騙せそうな所で余計な事を口走ろうとした華雄の口を男は背後に回り込んで右手で塞ぐ。なんかムグムグと不満を口にしている。うわっ……華雄、顔真っ赤になってる。思えば、あんな風に抱き締められて口まで塞がれたら無理矢理求められてるみたいだし。

なんて思っていたら関羽と共に来ていたという趙雲がニヤニヤとしながら此方を見ていた。まさか僕達の正体に気づいて!?

 

 

「おや……ではアナタが種馬兄……」

「すいません、その噂の出所を教えてください。即、殲滅しに行くので」

 

 

違ったみたい……気にしてるのは男の方ってコイツ等、今噂の『天の御遣い』『北郷一刀』と『御遣いと同郷の者』『秋月純一』しかも他の噂では『天の種馬兄弟』と言われてる存在。

 

 

「おや、違うとでも?今も華雄への情熱的な抱擁が見られますが?」

「情熱的って……そんなんじゃ……」

 

 

趙雲の言葉を否定したけど華雄は顔が真っ赤になっている。僕の知る限り華雄は武ばかりで他は大した興味を持っていなかった。だから男への耐性も無い筈。

 

 

「後ろから羽織る様に抱き締めて更に口を塞ぐ……更に耳元には常に貴殿の吐息が……」

「わかったから止めてくれ。華雄も離すから暴れたり、話の腰を折らないでくれる?」

「………ん、ぷぁ……」

 

 

焦った秋月は華雄から手を離したのだが華雄はペタンとその場に座り込んでしまった。僕と月は思わず華雄に駆け寄る。あ、なんか凄い乙女な顔になって……え……何、華雄のこんな状態始めて見るんだけど…….

 

「ごほん……兎に角、この子等は俺達が保護をする。関羽達も似たような子がいたら優しくしてやってくれ」

「そ、そうですね……では秋月殿も体をお大事に」

「バイバイなのだオジちゃん!」

「おやおや、夜がお楽しみですな」

 

 

秋月が無理矢理な話題転換をすると関羽達は少々の誤解と共に去ってくれた。でも関羽達が居なくなったからといって月への脅威が無くなった訳じゃない。

 

 

「えっと……少し話を……」

「アンタ等、あの種馬兄弟!?月に近寄らないで!」

「へ、へぅ……」

「先程の抱擁も凄かった……あれが種馬の実力か……」

 

 

秋月が話しかけに来るけど月に近寄るな種馬!華雄もノリ気になってんじゃないわよ!

 

 

「………はぁ。凪、董卓達と話をしてやって。俺や一刀じゃ話が進まないから」

「え、は、はい」

 

 

秋月の指示で凪と呼ばれた少女が前に出た。秋月は北郷と下がって話を聞くみたいだ。

秋月や北郷の話では霞は曹操の陣営に居て今後は曹操の武将になるとの事。ならば僕達も匿えるのでは?と言う話の流れになったのだが……

 

 

「それは……出来ません。私達の為に戦ってくれた皆さんを放って私だけ逃げるなんて……」

「でも賈駆さんも呂布さんも華雄さんも貴女が死ぬのを望んでる訳じゃ……」

 

 

当の月が拒んでいた。月は自身の責任を感じ、後悔の念に押し潰されそうになっているのが分かる。

華雄が秋月に知恵を借りようとしているが秋月も困った様子だ。月がここまで拒むとは思ってなかったのだろう。その後、秋月の説得でなんとかなりそうかと思ったけど月は首を縦には振らなかった。

 

 

「で、でも私は……私のせいで死なせてしまった人達を差し置いて逃げるなんて出来ません!私はやはり非道で冷血なんです!」

 

 

月、それは違う!私達は間違ってなかった。もしも間違っていたと言うなら僕達が都でした悪政を敷いていた文官を処罰した事も間違いになる。いつも頑張ってる月だから僕達は着いていくと決めたのよ!

 

 

「御使い様、秋月さん……」

「ゆ、月?」

 

 

そんな僕の思いは月には届かなかった。月は懐から隠していた小刀を取り出すと自分の喉元に突きつけた。待って何をする気なの月……

 

「私の首を差し出します……お願いですから詠ちゃん達は助けてください」

「月、駄目っ!」

 

 

月の願いに僕は叫んだ。僕達だけ生き残っても月が居ないんじゃ嫌!でも間に合わない。僕は起こるだろう惨劇から目を背けた。それと同時にザシュッと刃物で肉を切る音だけが聞こえた。いや……嫌、見たくない!

 

 

 

「い……痛ぅぅぅぅぅぅぅ…」

「あ……秋月さ……ん?」

 

 

 

聞こえてきたのは秋月の痛みに耐えるかの様な声と月の困惑したかの様な声。僕が視線を戻すと月が自身の喉に突き刺そうとした小刀の刃を素手で掴んで止めた秋月の姿。

刃を掴んだ右手から血が流れ、月の着ていた服に降り注ぐ。

 

 

「なぁに……してくれてんのかな?」

「あ、ああ……」

 

 

秋月は月から小刀を取り上げると手を広げた。秋月の右手はズタズタになっていた。突き刺そうとした刃を受け止めたのだから当然だが見た目が酷いことになっている。もしも秋月が止めなかったらその小刀が月の首に……と思うと僕は力無くその場に座り込んでしまった。

 

 

「なぁ董卓……」

「え……あ……」

 

 

秋月が月に話しかけるけど月は呆然としていた。

 

 

「助かる可能性があるなら諦めないでくれよ。都に攻め入った俺達が言うのもなんだけど……無駄な死を……痛たたっ」

「あ……て、手当てを……」

 

 

秋月が月を説得しようとしていたが正気に戻った月が秋月の手に触れた。

 

 

「おいおい、董卓……俺は今……」

「だ、駄目です!手当てをしてください!」

 

 

秋月の意見を押し退けて月は秋月の手を手当てしようとしていた。月は自分の着ていた服の一部を破ると包帯みたいに秋月の手を巻き始める。

 

 

「………董卓はさ……さっき自分を非道で冷血なんて言ってたけど、やっぱ違うな。本当に非道で冷血なら自分の自害を止めた人間の手当てなんかしないさ」

「そ、それは……へぅ……」

 

 

秋月は手当てを続ける月の頭に左手を置いて撫で始める。少し手慣れた様な仕草で。

 

 

「なぁ董卓。今、董卓が死んだら皆はどう思うかな?親友が目の前で自害した。守るべき主君の自害を見届けた。大切な友と……優しい子と言ってくれた子達に……それを見せつけるのか?」

「あ……私は……私は……」

 

 

秋月の言葉に月は泣きそうになっている。華雄はどうして良いのかオロオロしてるし、恋はいつもの様に月をジッと見ていた。秋月が僕の方を見て微笑んだ……あ、そういう事。

 

 

「ねぇ……月。僕は生き残ったとしても月が居ないんじゃ嫌よ」

「月……一緒……」

「董卓様……私にこの戦の敗けを償わせる時間を頂けませんか?」

 

 

僕も恋も華雄も月が生き残る事を望んだ。そして月が秋月の手の応急処置を終えると秋月が口を開いた。

 

 

「皆、董卓と一緒が良いってさ……うちの大将に話を持っていってみるから……最後まで諦めずに生きてみてくれないか?」

「………グスッ……はい」

 

 

月は泣いていた。ズッと我慢していたけど気持ちが溢れ出て泣いてる。悔しいけど月の心を動かしたのは秋月純一……コイツなのよね。

 

 

「よし、早速行動だな。俺は大将の説得を……って痛だだだだだだだだっ!?」

「へ、へぅ!?」

「しっかりしろ秋月!」

「副長、手ぇ怪我してんのに握り拳をすりゃ当然や!」

「ふくちょー、右手に巻いた布がドンドン赤くなってるのー!」

「衛生兵ー!」

 

 

秋月が気合いと共に立ち上がると右手の状態を忘れた訳じゃないだろうに握り拳でそれを悪化させて地面にのたうち回っていた。その行動に月や華雄。秋月と一緒に来ていた他の武将も慌て始める。さっきまでの真面目な顔付きはまるでなく、ただの馬鹿にしか見えなくなっていた。

 

 

「純一さん、華琳の説得は俺がやりますから早く陣営に戻って治療を!」

「な、なんの……シャア専用になっただけだ大丈夫……イタタ……」

「あ、秋月さん……」

 

北郷の言葉に右手の親指を立てた秋月だがその手は既に赤く染まっており、それを見た月が心配で泣きそうになっている。本当にコイツ等に任せて大丈夫なのかしら……でも先程まで、僕達の心にあった焦燥感はいつの間にか無くなっていた。








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