真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第六話

 

 

 

うぅ……体が痛い……

昨日のかめはめ波を撃ってから体が超痛い。顔不さんの話だと気が枯渇して全身筋肉痛状態なのだという。界王拳を使った悟空の苦しみってこんな感じなのだろうか。

3日もすれば治るらしいが、それまでは安静にした方が良いとの事。

3日……か。荀彧が仕官しに行くのは2日後。見送りも無理かな……

荀彧は俺が見送りに行っても嫌がるんだろうけど。

 

今日は一日、布団の中で過ごす事になった。真っ先に荀緄さんや顔不さんは見舞いに来てくれた。

顔不さんからはしっかり休むように言い渡されて、荀緄さんはニコニコとしながら本を読んでくれた。あ、この状況でも授業はするのね。

顔不さんの気の講義は気の扱い方による物だった。

気の扱いには大まかに二種類。『強化系』と『放出系』らしい。念能力ですかと思わず聞きそうになったが実は関係はとてつもなく近い。

『強化系』は身体能力の向上等が主で此方は無意識に気を使ってる武将が多いとか。そう言えばこの間、噂で鉄球を振り回して野盗を退治してる子供が居るとか聞いたけど、それもその部類の人間なのだろう。

そして『放出系』は俺が放った『かめはめ波』等の気功を体外に放つ技が主になり、こちらは才能の部分が多いらしい。他にも医療気功と言って傷を癒す気功も存在するらしいがこれも放出系に属するとか。噂じゃ五道……なんとかと言う医者がそれの使い手と聞いた。いつかは会ってみたいものだ。

 

授業や講義が俺の気を紛らわしてくれた。なんせ他にやる事がないのだ。

テレビも無ければラジオも無い。新聞すらないから暇潰しも出来ない。やれる事があるとすれば昼寝か文字の練習くらいだ。

 

荀緄さんの授業が終わるといよいよ暇となる。風邪とかなら体が疲れて眠れるもんだが、俺のは筋肉痛(気肉痛か?)なので、眠くもならない。

等と暇な時間を過ごしていると荀緄さんが授業後も俺の部屋に来て話をしてくれた。退屈なのと寂しさに潰されそうだったので助かります。

 

 

「明日……桂花ちゃんが曹操様の所へ行ってしまいますね」

「そうですね……でも、それが荀彧の望みですから」

 

 

こんな話題をしてくるのは荀緄さんが寂しいからなんだろう。いや、俺も荀彧が居なくなるのは寂しいけどさ。

 

 

「純一さん、ありがとうございます」

「ん……俺、なんかしましたか?」

 

 

突然、お礼を言う荀緄さん。いやいや、礼を言うのは居候の立場の俺ですから。

 

 

「桂花ちゃん……今まで男の方と話す事なんて無かったんですよ。今ではすっかり純一さんと仲良くなって……」

 

荀緄さんには俺と荀彧は仲良く見えるらしい。俺、荀彧に会う度に会話の8割ほどが罵倒で埋め尽くされてますが。

 

 

「俺……嫌われてるんじゃないですかね?罵倒されてますが」

「まさか、桂花ちゃんは素直じゃないだけですよ。今まであの子は話し掛けられた男性と話もせずに無視してましたから。あの子と会話が成立する。それだけでも凄いんですから」

 

 

荀緄さんは本当に嬉しそうに目を細めて俺を見ていた。過大評価ですよ、荀緄さん。

 

 

「荀緄さん、お礼を言いたいのは俺もなんですよ。この国に来てから、最初に話をしたのは荀彧なんです。荀彧が居なかったら俺は荒野で野垂れ死んでいた」

 

 

そう、偶然だったとは言ってもあの時、襲われている荀彧と会わなかったら少なくとも俺は此処に居ない。

 

 

「その後で荀家に居候させて貰ったのも……全部、荀彧と会ったから……それにアイツの容赦無しの罵倒も……俺の悩みを……忘れ……」

 

 

話の最中なのに眠くなってきた。荀緄さんは「あらあら」といいながら俺の頭を撫でてくれる。本当に……此処に来てから色んな人に世話になり……っぱな……し……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆side荀彧◆◇

 

 

 

ここ数日、私は不機嫌だった。それと言うのも数日前に出会った『秋月純一』こいつが原因だ。

野盗から助けられたその日に母様の指示で奴を泊まらせる事になってしまった。

ここまではまだ仕方ないとしても、問題はその後。

なんと母様は朝食の席で秋月を居候させると言い出したのだ。男なんかを屋敷に住まわせるなんて反対よ!

私は母様に猛抗議したけど、家長の権限で決められてしまう。男なんか無能で、臭くて、短絡思考だから嫌いなのよ汚らわしい!

 

私は秋月を睨むと予定より早く曹操様の所へ仕官すると決めた。そうすれば男なんかと一緒にいなくても済むと思ったから。

その日の夜、私は仕官の準備をしていて夜遅くまで起きていた。母様や顔不の笑い声が聞こえたから酒盛りしてるのね。顔不は先々代から荀家に尽くしてくれてる一家だから無下には出来ないけど声が聞こえない所で飲んでくれないかしら。

 

そんな事を思っていたら中庭に動く影が……まさか賊!?と思ったけど杞憂だった。

中庭で秋月が煙草を吸っていた。故郷から持ってきていた煙草らしいのだが煙草は臭くて嫌い。そうでなくても男嫌いだってのに。一言、文句を言ってやろうと思ったが私の足は止まってしまう。

秋月は煙草を吸いながら憂いのある顔で空を見ていた。空に浮かぶ月に何かを重ねて見る様に。

秋月の話を信じるなら秋月は気がつけば突然異国に足を踏み入れた事になる。故郷の事を考えてるのかしら。私はその場を後にする事にした。何を言って良いのか解らなくなってしまったわね。

 

秋月が居候して更に数日、私は偶々、開いていた秋月の部屋の中を見てしまう。そこには幼児向けの絵本を片手に勉強をする秋月の姿が。私はそれを見た瞬間、声を上げて大爆笑してしまった。この国の文字がわからないからって大人が幼児向けの絵本を片手に真面目に勉強している様は笑い話にしか見えない。その後、笑われた事を怒りに来た秋月だけど、悔しかったらこの本くらいは読めるようになりなさいと言ってやった。悔しそうにしている秋月を見るのは良い気味だ。

 

次の日、秋月が私に「真名ってなんだ?」と聞いてきた。私は転けて持っていた書類に墨を溢してしまう。ああ、もうやり直しじゃない!じゃなくて……

 

 

「真名を尋ねるな馬鹿!」

「あだっ!?」

 

 

私は近くにあった竹筒をおもいっきり奴の顔面に投げ付けた。痛がっている、当然の報いよ!

その後、秋月の話では母様や侍女達から私から真名を聞いたか訪ねられたらしい。母様は兎も角、侍女達まで私と秋月の関係を疑ってる。私は男なんて嫌いなんだから止めて欲しい。侍女と言えば秋月は侍女の話題にもよく上がる。先日などは一人の侍女が秋月に贈り物をしようとしたらしい。秋月に贈り物は断られたが買い物は楽しかったって言ってたわね。確か、煙管を見てたとか言ってたけど私には関係ない。

とりあえず私は目下の馬鹿に『真名』の重要性を説かねばならない。覚悟しなさいよ秋月!

 

 

 

その2日後、秋月が倒れた。

私が屋敷に帰ると塀の一部が破壊されていた。何事かと問い合わせれば秋月が気を使った技で勢い余って塀を破壊したらしい。ほんの数日前まで素人同然だった奴がなんて進歩の早さだ。その反面、読み書きの習得が遅い気もするが。

一応、様子を見に行ってみると部屋には母様が居た。戸が開いていたので中の会話を思わず聞いてしまった。

 

 

「桂花ちゃん……今まで男の方と話す事なんて無かったんですよ。今ではすっかり純一さんと仲良くなって……」

 

 

母様には私と秋月は仲良く見えるらしい。秋月なんて大っ嫌いですから!

 

 

「俺……嫌われてるんじゃないですかね?罵倒されてますが」

「まさか、桂花ちゃんは素直じゃないだけですよ。今まであの子は話し掛けられた男性と話もせずに無視してましたから。あの子と会話が成立する。それだけでも凄いんですから」

 

 

秋月の言葉を母様は否定する。素直云々は兎も角……確かにまともに話した男は秋月くらいね……

 

 

「荀緄さん、お礼を言いたいのは俺もなんですよ。この国に来てから、最初に話をしたのは荀彧なんです。荀彧が居なかったら俺は荒野で野垂れ死んでいた」

 

 

私はあの日の事を思い出す。突然現れて私を助けた……そっか……あの日の出会いが今に繋がっているのね。

 

 

「その後で荀家に居候させて貰ったのも……全部、荀彧と会ったから……それにアイツの容赦無しの罵倒も……俺の悩みを……忘れ……」

 

 

会話の最中で秋月は眠ってしまったのか声が途絶えた。悩み?いつもヘラヘラ笑ってる奴に悩みなんてあるのかしら?

 

 

「あらあら、純一さん……やっぱりお疲れなのね」

 

 

続いて聞こえてきたのは母様の言葉。疲れてる……確かに気を使い果たしてるとは聞いてるけど……

 

 

「知らない異国の地に一人きり……強がって笑っていても、誤魔化せませんよ」

 

 

強がって笑う?確かに秋月はいつも笑って……まさかいつも笑ってるのは異国の地に一人きりだから寂しさを紛らわせる為に?それに私に罵倒されてる時は悩みが……あ、そうか。私は秋月と最初に話した人だから信用されてるのね。じゃなくて男に信用されたって気持ち悪いだけよ!

 




『界王拳』
『ドラゴンボール』に登場する技の一つ。気を限界まで高めて一時的に戦闘能力を底上げする、いわゆるパワーアップ技。戦闘力の増強に引き換え、体力を大幅に消費するというハイリスクを伴う、ある意味で博打に近い技となっている。

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