真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月
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第七十話

 

 

 

◇◆side詠◇◆

 

 

僕達が魏に来てから暫く経過した。最初は名前を捨てなきゃならなかったり、侍女の仕事とする事になった時は眩暈がしたわね。

でも天の国の侍女用の服は可愛いし……何よりも月が生き生きとしているのが嬉しい。

反董卓連合の時の月は凄く気落ちしてたけど、この国に来てから月は本当に遣り甲斐のある仕事にありつけたと言わんばかりの雰囲気。最近では月がメイド長、僕がメイド副長なんて呼ばれてる。

まあ、僕としても現状の仕事に不満はないわ。

 

 

「おっちゃーん、お酒おかわり」

「副長さん、今日は飲み過ぎなんじゃないかい?」

 

 

訂正。不満はあるわね。

僕と月は珍しく同じ日に休みを貰った。街中で買い物をしたり、お茶をして楽しんで。そして夕御飯を食べてから帰ろうかと話をしていた時に秋月と会ってしまった。

秋月は詳しい事情は話さなかったけど、城で夕食を食べる事が叶わなかったらしく、外に食べに来たのだと言う。

話の流れから秋月、月、僕で一緒に夕飯を食べに行ったのだが、秋月が妙にお酒に溺れていた。

秋月がお酒好きなのは知ってたけど、こんなやけ酒みたいな飲み方をしているのは初めて見た。

 

 

「じゅ、純一さん。飲みすぎですよ」

「んー……月は優しいねー」

 

 

月が秋月の心配をすると秋月は月の頭を撫で始めた。ちょっと、勝手に月の髪に触るな!

 

 

「へ、へぅ……純一さん……」

「ゆ~え~」

「調子に乗るな!」

 

 

月を抱き締め始めた秋月に僕の我慢は限界に達した。僕は秋月の手の甲を思いっきりツネ上げる。

 

 

「痛ったたたた!冗談だって、酔っぱらいの戯言と見逃してくれ」

「それで見過ごしたら警備隊は要らないでしょ!桂花や華雄が居ないからってハメを外しすぎよ!」

 

 

いつもの調子とは違う秋月を叱る僕。でも、その直後、怒りは四散した。

桂花と華雄の名を出した途端に秋月は酔いが急に覚めた様に静かになって月を離したのだ。え、ちょっと急にどうしたのよ……それにさっきの顔……

 

 

「ごめんな月。少し飲み過ぎちまったな」

「あ、いえ……そ、その……」

 

 

秋月の急な態度の変わり様に月も混乱してる。ちょっと……何があったの!?

 

 

「少し煙草、吸ってくるわ。おっちゃん、まだ飲むから酒だけは用意しといて」

「へい。でも次を最後にしてくださいよ。あんまり飲ませちまうと、そっちの嬢ちゃんに叱られそうだ」

 

 

店の店主に話し掛けて外へ出る秋月。店の店主は苦笑いに成りながらも、お酒の準備は進めていた。

 

 

「ね、ねぇ月。さっきの秋月、変じゃなかった?」

「うん……まるで寂しさを紛らわせるみたいに、お酒飲んで空元気を出してるみたいに思えたよ」

 

 

僕が月に問うと月も同じ違和感を感じていたのか不安そうな顔つきで僕に話しかけていた。

何があったんだろう……秋月はいつも笑っていて、悩みなんか微塵も感じさせない人。どれだけ仕事で失敗しようが、自らの技で自爆しようが周囲を心配させない様に笑ってる。

北郷や他の武将達も秋月が年上なのも含めて頼りにしてる。

だから、こんな秋月は初めて見た。

 

 

「あ、本当に月と詠なのです」

 

 

なんて僕が考え事をしていると店に、恋とねねが入ってきた。本当に、なんて言う辺り誰かから僕達が此処に居ることを聞いたのかしら?

 

 

「外で、とーさ……秋月が煙草を吸ってたのです。『月と詠も居るから一緒にどうだ?』なんて言ってたから来てやったのですぞ」

 

 

途中で言い直したけど、ねねは秋月の事を『とーさま』と呼ぶことがある。本人の前や兵士の前じゃ言わないように気を付けているみたいだけど、僕達の前だと時おり呼び方が、とーさまになっていた。

ねねは昔、生まれた村を追い出された過去があるって聞いたから尚更、秋月に父親を求めているのね。

 

 

「しかし……あの酔い方を見ると、やはり原因は桂花や華雄なのですぞ」

「………ん」

 

 

ねねは入口と言うよりも外に居るであろう秋月の方向を見て呟いた。恋もそれに同意する様にコクリと頷いている……って、ちょっと待って。秋月があんな状態の理由を知ってるの?

 

 

「桂花と華雄が秋月の取り合いをしたのです。勝負の仕方は飲み比べ。勝った方が今日の夜に秋月と共に過ごすとの事。そして秋月に知られると恥ずかしいからと桂花と華雄は秋月を除け者にして、今は城で勝負の真っ最中なのです。しかも秋月にその事を告げずに」

 

 

呆れた……桂花と華雄の勝負はわかったけど当人をほったらかしにすれば、却って印象悪くなるのに。秋月は除け者にされて落ち込んでたって所かしら。

まったく……爪弾きにされて落ち込むなんてコイツにしては……え、でも……ちょっと待って。そんな事で、空元気を振る舞わなくちゃならないなんてコイツらしくない。酷く脆い物を見ている様だ。まるで拠り所を失い、怖がっている迷子の様に。

 

 

「ふー……少し落ち着いた。恋、ねねも好きなもの食べていーぞ」

「………ん」

「言われなくても、そうするのです!」

 

 

煙草から戻ってきた秋月が席に戻ってきた。恋やねねも席に座らせると先程、店主に最後にしてくれよと言われた酒を飲み初めて、恋とねねには料理をご馳走して。

すっかり、いつもの秋月に戻ってる。僕はその事に胸がチクリと痛んだ。つまり、僕達は秋月の心の拠り所になれてない。気を使い、助け守らなきゃいけない存在。

秋月は否定するだろうけど………僕達は秋月の重石になってる。

そんな事もあってか僕は秋月を『頼りになるけど、頼っちゃいけない人』と感じていた。

 

 

「どうした詠?飲まないのか?」

 

 

僕が席にも着かずに立っていたのが気にかかったのか秋月が僕を呼ぶ。

どうするか……もう決めちゃった。

 

 

「座るわよ。それよりも、もうそれ以上は飲まないでよね」

「ああ、御無体な!?」

 

 

僕は秋月の持っていた徳利を奪う。既に半分も飲んでる……まったく……

 

 

「これ以上はダメよ。飲むなとは言わないけど量を考えなさいよね」

「って!」

 

 

 

僕は徳利を持つのとは逆の手で秋月のオデコにデコピンを当てる。

僕はまだ桂花や華雄みたいに、心を許されてないみたいだけど……だったら信頼されるまで世話焼きさせて貰うわよ。

僕は秋月のメイドなんだから。






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