カルデアのいとま   作:手漕ぎ船頭

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 まずは実験的に一話目として投稿。
 仕事もあるのでゆっくり書いていきます。




かつて王妃であった少女

 フランスはパリ、シャンゼリゼ通り。観光名所としても名高く、遠くにはシャルル・ド・ゴール広場に聳える凱旋門が見える。

 そのただ中に、つばの広い帽子をかぶり、景色ではなく、街往く人々を眺めて微笑む少女がいた。

 彼女はともに歩く男性に小さく、だがはっきりとした声で礼を言う。

 

「ごめんなさいね、マスター。無理強いしてしまって」

 

 いや。ご満足頂けたなら、なによりだよ。

 

 現在のパリを見てみたい。そんな彼女の願いを聞き、わざわざ飛行機まで手配してもらえるよう掛け合った甲斐はあったようだ。

 

 少女につられるように笑みを浮かべるのは、人理継続保障機関フィニス・カルデアに所属する『元・人類最後の』マスター、藤丸立香。

 魔術王による人理焼却を覆した人類救済の傑物である彼は、現在、国連及び魔術に携わる各機関の沙汰を待つ身である。

 

 

 人理が完全に修復された直後の、世界規模の混乱はそう容易く収まるものではなかった。なにせある日ふと気が付けば一年以上の時間が経過していたのだ。さながら世界中の人間が昏睡状態であったかのように。

 その中にあって、雪山の地下深くにある巨大工房に設立されたいち機関のみが、不明瞭な「空白の時間」のなか活動を可能としていたことが知らされた。この世界では、どこぞの平行世界とは異なり、魔術についてはある程度表側にも情報が公開・流布してる。もちろん、神秘の維持に問題ない範囲に留めてはいるが。

 

 それゆえ、魔術の世界のみならず、国連認可である以上は当然各国の政府や研究機関には概ね事の次第が伝わり、いくらかの隠蔽と情報統制が敷かれひとまずの情勢の鎮静が図られた。なかには混乱に乗じた犯罪やテロ紛いの事態も少なくなかったが、1週間も経てば流石に「空白期」以前の状態に落ち着いた。かつての紛争地帯まできっちり戻って再開していたのは笑い話にもならなかったが。人の生きる活力、習慣を構築し常識を維持する能力は存外に高かったらしい。

 

 

 さて、各機関、各国行政に限っては、その時点で別の騒動・混乱が発生することとなった。

 一度に情報を開示しても混乱を助長するだけだという、性転換した万能の天才の判断によって、当初は要点のみを記載した報告書が送られ証人喚問なども行われたが、段階を踏んで開示された情報は次第に新たな驚愕を世界に広めることとなった。

 

 レフ・ライノールによる裏切りと爆発事故、以後の人理焼却とその解決についての報告書。とともにカルデアの一部ログが提出された。

 すなわち、元は一般人でしかなかった人類最後のマスターが、誰もが知る英雄豪傑や偉人たちとともに、神話がごとき暴虐極まる戦場を駆け抜けた記録が公開されたわけだ。

 

 その情報が齎した衝撃は、当初各界に暴走めいた行動さえ招いた。なにせ、歴史に名を遺した偉人たちが、ある側面のみとはいえそこに存在しているのだ。そしてバックアップ込みとはいえ彼らと契約し、通常ではあり得ない体験を経たマスターたる少年。

 彼らとの面会や調査の要請、取り込み、利権の奪い合い。互いに牽制しているため直接の乗り込みこそ結果的に無かったが、政治的な話であれば枚挙にいとまもなく、カルデア全スタッフの神経をゴリゴリ削っていた。

 中には看過できない事態もあり、武力占拠さえ考慮したフィニス・カルデアの強制徴収の計画、カルデアスタッフの家族を人質に取るような婉曲な脅迫などは、立香さえ憤って『あまり穏便でない手段』を行使して鎮圧するに至った。……その顛末についてはいずれ語られるかもしれない。かもしれない。多分。

 

 とにかく多くの騒動を挟み、密度の濃い日々を経て、当面はカルデアの権限を縮小したうえで査察団の派遣が検討されている。その査察についても席の奪い合いが発生してはいたが。

 

 また、爆発事故によって負傷しやむなく冷凍保存されていたマスター候補たちは早々に医療機関に搬送されており、死亡した者も遺体は故郷へ送られている。

 立香の扱いは未だ複雑らしく、とりあえず立場を与えて行動に制約を設けるつもりなのか『開位(コーズ)』の階位を送られ封ぜられていた。本人は階位についてよくわかっていないらしく、ロード・エルメロイⅡ世を苛立たせていた。

 

 そんな感じで、周囲の混乱はともかくカルデアにもひとまずの平穏が戻ってきた頃、幾人かのサーヴァントが外に出てみたいと立香に相談するようになった。

 外。カルデアの外。未だガワだけは残っている特異点ではなく、焼却を逃れ再び戻ってきた、この世界の外界。

 

 当初、カルデアスタッフを交えた会議で立香が提案した際、臨時責任者であるレオナルド・ダ・ヴィンチも含め、全員が難色を示した。国連からも魔術協会からも行動の制限は受けていない。だが、今は安易に行動すべきではないし、むしろその外の連中はそれを狙って窺っている可能性も高いのだ。そう簡単に頷けはしなかった。だが、彼らサーヴァントには恩がある。世界救済の大恩だ。できることならば報いてあげたいというのは、彼らも同意するところではあった。

 

 なので、カルデア職員およびサーヴァント総動員による壮大なお忍び観光計画が立ち上がった。

 当然だが契約しているマスターの同行は必須である。霊体化すればいいサーヴァントとは違い、彼は物理的な問題を多くクリアしなければ外界を出歩けないのが現状であった。

 悪知恵……もとい知略を駆使し魔術的、技術的サポートを万全にし、外部の監視を潜り抜け、魔術的にも物理的にも監視の目を欺きサーヴァントたちを出歩かせる手段を確立する。

 それは、例え世界を救った猛者たちであっても、世界中がカルデアに注視している現状では困難ではないかと思われるものであった。

 

 

 

 が、あっさり可能となった。

 

 よく考えたら、神代の魔術師とか神様とかいる時点で現代の監視網なんてどうとでもなるんでしたね。あと、物理面ではダ・ヴィンチちゃんとか直流交流コンビとか。

 そんなこんなで、本日は『ライダー』マリー・アントワネットの要望でフランスの首都パリの北西部、かの有名なシャンゼリゼ通りに来ていた。

 魔術的に感知されることのないように、術式を組み込んだ礼装を所持し、監視カメラの類も掌握済み。キャスター勢曰く、人除けの結界の応用で『視界に入っても計器が感知しても関心を抱かない』『認識したとしても認識した事実に留意しない』ようになっているらしい。マスターとして必要な能力以外は未だ素人よりはマシ程度の見識しか持たない立香には、説明されてもチンプンカンプンであった。なので、『こちらが派手な行動をしたり魔術を使用しない限りは大丈夫』なのでそこの注意だけは言い含められていた。

 

 

 彼女は、先ほどから道行く人々を眺めている。街並みにはほとんど無関心だ。

 近年には部分的に条例が緩和されたとはいえ、文化遺産や景観保護がなされ、かつての古めかしい風景を残してはいても、やはり彼女が人間として生きていた時代とは異なりすぎて懐古の念も抱かないのだろうか。

 そう疑問を口にすると、

 

「?いいえ、そんなこともないわよ。ほら、店先や名所らしき場所だけ小綺麗にして、そこら中が薄汚れているところなんか、あの頃と全然変わってないわ」

 

 いえ、まだ体裁を整えようとしているから、やっぱりあの頃よりも良くなっているのかしら。

 などと、反応に困る返事をされた。

 やはり、かつて支配者層の頂点の一人として住んでいた街だけあり、あけすけに評するものである。

 

「生前はほとんど王宮や庭園で過ごしていたし、外出は公務や遊覧ばかりでしたもの。地位を失ってからは幽閉生活でしたし。私の知るパリは馬車の窓から見える景色だけ。くすんだ瞳で歩く人々の姿。そして、そんな彼らが鬱屈した激情の捌け口を求め熱狂する、処刑台に立った時の光景」

 

 だから、と笑みを浮かべて彼女は続ける。

 

「心地よい騒がしさよ。微笑ましい煩わしさ。誰もが顔を上げている。重たそうに足を引きずるように歩いてなんかいない」

 

 ほら、車椅子の少女さえ、羽が生えているかのように軽やかだ。

 

「ここにいる半分以上は異国からの観光客だそうだけど、街往く人々の顔に暗い色が少ないというのは、今この場になんの関係も無い私であっても喜ばしいことなのよ」

 

 目を細めて小さく口ずさむ。ヴィヴ・ラ・フランス。

 嬉しそうに。そして少しだけ、寂しそうに。

 だから、というわけでもないのだろうが、横に立つ立香はそんなマリーの右手を握った。少女は少し驚いたように肩が跳ね、首を傾げ、自らのマスターを見上げる。

 そこにあるのは、パリの人々と同じように、いやそれ以上に真っ直ぐな瞳。

 

 何の関係もない、なんてことはない。君が、守ったんだ。この街を、彼ら彼女らを。この光景を。

 君が背負っているもの、君が抱いているものを俺は受け止め切れているか全く自信なんて無いけど。王妃とか、英霊とか、馬鹿な俺にはわからないだけかもしれないけど。

 そんな俺でもこれだけは断言できるよ。

 マリー、君が守ったんだよ。

 

 少年の言葉に、少女は素で呆然とした。

 あまりに反応がないため、あれ、滑った?恰好つけ過ぎた?と静かに焦り始めた立香だったが、1分近く経っただろうか、マリーは繋いだ手を引き寄せ腕を絡めてきた。

 突然の行動に驚く立香に、かつて王妃であった少女は何も言わず、俯いたままぶら下がるように僅かに腕に体重を預ける。

 帽子を目深に被っているため、頭一つ以上背の高い立香からは表情はよく見えない。不機嫌になったとかではないようだが、少年には何が何やらわからない。

 そんな状態で立香一人であわあわと狼狽えていたが、しばらくするとマリーは再び少年を見上げた。

 

「ねえ、ムッシュ。しばらく歩きません?あら、エスコートしてなんて言いませんわ。ここにいるのは王妃でも王太子妃でもない14歳の小娘ですもの。未成年のお上りさんらしく手を繋いで気ままに辺りを冷やかしましょう?」

 

 その(かんばせ)に浮かぶのは、眩いばかりの笑顔であった。

 

 少年は口ずさむ。ヴィヴ・ラ・フランス。

 少女も口ずさむ。ヴィヴ・ラ・フランス。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 どこぞのお掃除アサシンは観光地と化したスロヴァキアのチェイテ城に。

 裁縫趣味のバーサーカーはルーマニアのトゥルゴヴィシュテに。

 それぞれ乗り込んでいた。

 

 







 ドラキュラ城=ブラン城は祖父の居城でドスケベ公本人は一時期滞在していたのみってwikiにありました。



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