イタリアから帰ってきてすぐに、今まで通っていた道場に別れを告げた。師範は、自分の中で大きく変わった何かを感じたのか惜しみながらも別れを了解してくれた。長年通い続けただけに愛着もあったので、最後に道場内の掃除に気合をいれ道場を去った。
当たり前である。
もう、護堂の体は戦いに対して最高のできになっているのである。凡そスポーツなどで使う反射神経や、集中力が軒並み高くなっているのだ。
そのことを踏まえて、なんかずるしている気持ちになりスポーツから足を洗う決意をしたのだが、隣を歩く妹はそんな内心を知らないのでかなり心配してくれてる。
「だから気にするなって、ちょっと内心の変化があっただけで、問題が起きたわけじゃないんだから」
そう言いつつ、静花の頭をぽんぽんと軽く手をおき落ち着かせるように笑顔を向けるが、まだ不機嫌な顔をしているのを見れば、分かってはいるが納得していないのが丸分かりだ。
(悪いな妹よ。これもけじめってやつなんだよ)
そんなことを思いつつ、今後どのように動こうか、頭を悩ますのであった。
・ ・ ・
放課後、グランドで汗を流しながら走り込みをしている部活動を視界に入れつつ、護堂は未だ教室で考えにふけっていた。
それと言うのも、今後の動きである。
はっきり言おう、何故、前世の記憶が残っていると思った。と言うか、その他多くの転生物の主人公は、あんなに原作を覚えているのか?記憶媒体である紙など書けるようになるのに、早くて一年から二年としても、文字として残せるか・・・これは、『否』である。
実際、護堂自身、文字として記憶を思い返しながら書き出すと、ある程度、特に『カンピオーネ』になる切っ掛けは、はっきり覚えていたものの、登場人物の名前、特に海外勢の名前事態思い出せないことに気づく、結果、記憶と記録として残っているのは、穴だらけの原作知識だけとなってしまった。
そして、覚えている範囲で問題は、同学年に在籍している万理谷祐理の存在が一番の悩みの種として大きい、彼女の媛巫女としての能力も必要な場面が多々あるだろうと、考えられる。
ただ、彼女は、幼い時にカンピオーネであるヴォバン公爵の儀式に強制参加させられ、『カンピオーネ』に恐怖を抱いている。
いくら悩んでも、一向に決まらず。しょうがなく今日は帰宅しようと廊下に出ると、誰かとぶつかる。
「きゃっ」
「悪い、大丈夫・・か?」
何の因果か目の前で荷物を撒き散らし、尻餅をついているのは今まで悩ませていた万理谷祐理本人であった。
とりあえず、手を貸し辺りに散らばった荷物を拾い集める。
「ありがとうございます」
「いや、前方を確認しなかった俺も悪いんだからきにしなくていいよ。それより、こんなに荷物、どこまで運ぶんだ。結構な量じゃないか」
「いえ、茶道部の部室までですが」
そう言うが、ダンボールに入った茶器や備品は、どう見ても彼女のが持つにはいささか大きすぎる。
「しょうがないな、万理谷さん。ぶつかったお詫びだ。この荷物を茶道部まで運ぼう」
有無を聞かずに、ダンボールを奪い歩き出す。
「そんな、悪いです。ぶつかってしまったのは私も同じなのに」
「いいのいいの、どうせ茶道部には、ちょっと用事があったから」
「用事ですか?」
首を傾げる彼女を見て男子から人気があるその容姿に目を向ける。
なるほど、確かに周囲が騒ぐだけのことはあると護堂は思った。
気品というものが感じられる女の子というのは、そうそうお目にかかることができない。それで成績優秀、公家出身となれば、俗世に生きる凡俗な男衆にとっては高嶺の花に間違いない。
実のところ魔術業界でも媛巫女なる特殊な階級にあり、その能力は世界最高峰という超人だ。
だが、今目の前にいるのは、申し訳なさそうに隣を歩く普通の女の子だと認識する。
そして、関わってしまったことへの諦めである。
後は、会話の無いまま茶道部の部室までの移動だった。
「妹よいるか?」
「護堂君、何でこんなところまで来ているの」
いきなり入ってきた護堂を見て、茶道部員の静花は声を上げた。
「何、ただの荷物持ちだよ。そんなことより、今日少し帰りが遅くなると思うからって言おうと思ってな、ついでだよついで」
そんな護堂を冷めた眼で見ていたが、後から入ってきた万理谷の姿を見ると、ぎょっと驚きを顔に表した。
「静花さんのお兄さんでしたか、荷物を持ってもらったのに名前も聞かずに、すみません」
「いや、だからついでだよついで、気にしないでいいよ」
そう言って、お礼にお茶をいれます。とか始まった万理谷に、あまり、妹の視線も怖いから帰らせてもらいますと言って茶道部を後にした。後ろから妹の声が聞こえた気がしたが気のせいにしよう。