「これは女王様、急の視察お疲れ様です。しかし、何故このタイミングで…………さては、マデア少佐に唆かされましたかな??」
女王マリアの身体を舐めるように下から上まで見詰めてから、タシロはマデアを睨む。
「相変わらず、女性なら誰でもいいんだな…………どうでもいいが、中佐の奨めるクローン計画に、予定に無い実験も行っているというタレコミがあったんでな。そのタイミングという訳さ」
マデアの馬鹿にした口調を聞き、タシロは怒りに満ちた目でマデアを更に強く睨んだ。
「少佐、中佐に失礼ですよ。私達は敵では無いのですから…………それに、まだ確実な情報ではないのよ…………」
「流石は女王、お心が広い!!では、早速艦内を案内致しましょう。護衛は私の部下に交代させましょう」
タシロがマリアの肩に手を回し、スクイード1の艦内へ強引に連れ込もうとする。
「中佐、護衛はベスパとマリア・カウンターの両方に所属する我々が担当しております。お気遣いなく」
タシロとマリアの間に無理矢理身体を捩込んだアーシィは、その勢いでタシロの手をマリアの肩から外す。
「しかしな…………上官への口の利き方も知らん奴に、艦内をウロウロされたくはないな…………大尉だけなら、護衛に付いてもらって構わんよ」
「分かりました…………少佐、ここは私に任せて、モビルスーツ・デッキで待機していて下さい」
タシロに何かを言いた気なマデアを宥めて、アーシィはタシロとマリアの間のポジションを維持する。
「中佐に何かされたら、直ぐに連絡をくれ!!マグナ・マーレイの中で待機しているよ」
「何かって何かな??女王、あのような者を側に置いておくのは、どうかと思いますよ。女王はザンスカール帝国の象徴でもあるのですから、もう少し気品のある側近を付けられるべきです」
タシロは最後にマデアを睨むと、マリアとアーシィを従えて艦内に消えていく。
マデアはマグナ・マーレイのコクピットに戻ると、モニターだけを起動した。
「さて…………次はセンサーの解除だが…………上手くやってくれたみたいだな」
タシロが消えた事を確認したマデアは、作業服に身を包む男をマグナ・マーレイのモニターでフォーカスする。
その男は、OKサインを小さく出していた。
「これで、Zガンダム・リファインはモビルスーツとして認識されない筈だ。上手く侵入しろよ…………」
マデアの言葉が聞こえた訳では無いが、ニコルは決められた時間通りにスクイード1に取り付く。
「この時間に死角に入れば、戦艦に気付かれないって言ってたケド………まぢでスムーズに来れたな………ベスパって、大丈夫か??」
マデア達の苦労を知らないニコルは、何事も無くスクイード1に取付けた事が不思議で仕方なかった。
「まぁいいや…………ここのハッチから入れって言ってたな……………っと」
スクイード1の艦底にZガンダム・リファインをウェーブライダーの形態で固定すると、ニコルは後部ハッチを開けて中に入る。
「こっからは自力で捜索か…………つっても、そろそろかな??」
ニコルの独り言が終わると同じに……………
ブォー!!ブォー!!
けたたましくサイレンが、スクイード1の艦内を走り回る。
「ミリティアン・ヴァヴ、来てくれたみたいだな!!タイミングばっちりじゃん!!じゃ、艦内がワタワタしている所、お邪魔しまーす」
ニコルは、ざわつくスクイード1の艦内へと歩を進め始めた。
「スクイード1が前に出ている!!こんな好機は2度と無い!!ここで墜とすぞ!!」
ミリティアン・ヴァヴの艦長席で、スフィアが叫ぶ。
確かにスクイード1は、旗艦でありながら前に出過ぎている。
以前マデアに馬鹿にされた時、タシロはミリティアン・ヴァヴは自分で墜とすと決めていた。
敵艦は1艦であり、スクイード1だけで充分対応できると思っていたところでの奇襲である。
突出したスクイード1に、ミリティアン・ヴァヴの主砲が掠れた。
「うおぉぉぉっ!!こんなタイミングで!!女王、こちらに避難をっ!!」
艦内を案内していたタシロは、マリア達を安全な場所へ誘導しようとする。
「待って下さい…………この感覚は…………一体??」
「マリア様も感じましたか??私も…………この感じは…………何??」
マリアとアーシィは、揺れる艦内で立ち止まった。
「女王、ここにいては危ない!!早くこちらに!!」
タシロは女王マリアの腕を掴むと、強引に走らせる。
「ちょっと待って…………えっ??」
タシロとマリアを追って走ろうとしたアーシィは、突然開いたドアから倒れ込んだ2人の男女に行く手を遮られた。
「ちょっと……………あなた達、大丈夫??」
無防備で倒れて来た2人が心配で、アーシィは助けようと身体に触れる。
「冷たい…………そんな、亡くなってる…………」
その2人の体温は失われており、鼻から流れた血液は、既に固まっていた。
「今死んだ訳じゃなさそうね…………あなた達は一体…………」
アーシィは、2人が出てきたドアの中を覗き込んだ…………