「ピピニーデン中尉、こんな所で何をしている。リガ・ミリティアが攻撃
を仕掛けて来ているんだぞ」
「中佐、申し訳ありません。しかし、アーシィ大尉に例の部屋を見られたので、その対応をしておりました」
モビルスーツ・デッキに急いでいたタシロは、通路でピピニーデンと出くわした。
そのピピニーデンからの報告に、タシロは驚きの顔を見せる。
「あの部屋はロックを掛けておけと…………見られたのは、大尉1人なんだな??」
「そうです。リガ・ミリティアからの攻撃のショックで開いてしまったのでしょう。母親の件で、釘を刺しておきましたが…………」
ピピニーデンが会話の途中で振り向くと、自分が通って来た通路からアーシィが向かって来ていた。
「大尉、気分が悪くなるようなものを見せてしまって、すまない。彼らを弔ってやる余裕も無くてな…………この計画は、アーシィ大尉の遺伝子情報を使っている。無関係………と割り切れないだろうから、少し説明をさせてくれ。中尉は、私が戻るまで艦橋で指揮を頼む」
タシロに向かって敬礼をしたピピニーデンは、艦橋へ向かって動き出す。
「さてと、私に聞きたい事は何となく分かる。まず、あの部屋で亡くなっているのは、私の実験に付き合ってくれたサイキッカー達だ」
「そうだと思いました。普通の実験部屋とは、明らかに違いましたからね。サイキッカーの命を軽んじる事は、マリア様が禁止していた筈ですが??」
アーシィの鋭い視線を気にしている様子もなく、タシロは話しを続ける。
「我々の進めるクローン計画は、ニュータイプである大尉を失わないようにする為、脳を移植するだけで復活出来るように、クローンの身体を作り出す事が目的だった。大尉も、お母上の薬をザンスカール帝国が存在する限り支給するという約束で、納得している話だな」
「私は、そう聞いています。クローンを作るだけならば、こんな…………サイキッカーを犠牲にするような実験をする必要は無い筈です」
アーシィの言葉に頷いたタシロは、再び口を開く。
「その通り…………しかし、アーシィ大尉は貴重な存在だ。勿論、クローンの身体を準備させてはいるが、移植する度に脳は劣化していく。そこで、もう1人のアーシィ大尉を生み出せないか、その実験をしているのだよ」
「そんな話は聞いてません!!それに、クローンで身体は造れても、脳は自我を持った瞬間に情報が更新されていく…………結果、オリジナルと同じにはならなくなると聞きました」
タシロは通路の壁に背中を預けると、目を閉じる。
「アーシィ大尉、我々は大尉を本気で失いたくないのだよ。ザンスカールの誇る2人のニュータイプ、女王の連れて来た謎の男と、帝国の本拠地アメリア出身の女性…………どちらを優先するか、考える間でもない」
タシロは大きく深呼吸すると、目を開けてアーシィを見た。
「大尉のクローンでも、自我を持たせた瞬間にニュータイプ能力が減退していく事が分かっている。そして、強化人間では精神面で不安が残る。そこで我々が考えたのは、クローンで強化人間を造る事……………そして、サイキッカーを使って感情や過去の情報を植付けていく。そうする事で、安定した強化人間が出来る筈なんだ」
「それで、大勢のサイキッカーを犠牲にしたんですか??私の事は大丈夫です。脳が劣化したって構わない。だから、こんな実験は中止して下さい!!」
アーシィの強めの言葉に、タシロは少し悲しそうな顔をする。
「大尉、もし脳が劣化してしまったら、お母上はどうする??お父上も亡くなったと聞いている。薬は支給されたとしても、お母上を1人残していい訳が無いだろ??先程も言ったが、大尉は我々にとって最も大切なニュータイプだ。それに、犠牲になったサイキッカーの為にも実験は成功させなければならない。まぁ、もう完成は目前なんだが…………」
そう言うタシロの視線の先に、1人の女性の姿が映った。
「では大尉、紹介しよう。まだ名前は無いが、我々はグリフォン・タイプと読んでいる。伝説の動物グリフォンは、鷹の翼と上半身にライオンの下半身で構成されている。大尉の遺伝子情報を持つクローンで、強化人間の力を持つ……………2つの力を合わせている者として、良いコードネームだと思わんか??」
タシロの横に立った女性は、アーシィに敬礼をする。
その姿はアーシィに瓜二つ…………いや、強化人間の施術の為か、顔立ちが険しい感じがした。
「まだまだ、情緒不安定な所があってな…………新たな試みを行い、かなり改善はしたんだが…………今回の戦闘で、実戦投入する予定だ」
「そんな…………こんな実験、女王が許す筈ありません!!今すぐ中止して下さい!!」
アーシィは混乱しながらも、ザンスカール帝国がマリア主義と掛け離れている行動をしている事に危機感を覚える。
「もはや、女王は関係ないのだよ。ギロチン執行人の家系出身というバックボーンを彼女に植付けてある。これがどういう意味か…………分からん訳ではあるまい??」
「まさか…………党首公認の実験…………と言う事ですか??」
狼狽えるアーシィの姿を見て、タシロの口元が緩む。
「そう、フォンセ・カガチは承認済みだ。この実験を邪魔するなら、ザンスカールを裏切ったと見做される。つまり、お母上への薬の支給はストップしてしまう事になる。賢い判断を期待するぞ、大尉」
そう言うと、タシロは強化人間であるグリフォン・タイプを連れてその場を離れた。
母親の事を言われると何も言えなくなる自分が腹立たしくて、アーシィは唇を噛み締める。
冷静に判断する時間さえあれば…………しかし今のアーシイに、母親の命と自分の信念を天秤にかける余裕は無かった。
ただ、自分が女王に伝えなくても、第三者が伝えてくれればいい。
アーシィは既に忍び込んでいるであろうニコルを、無意識に探し始めていた…………