「くそっ! なんでベスパは、こんな港町にモビルスーツを大量投入してくるんだ! このままじゃ、シャクティさんもヤバイ!」
「それに津波から逃げるには、この高台に逃げるしかないのに……」
ニコルとマイの頭上を、ヘリコプター型のモビルスーツが通り過ぎていく。
シャクティのモビルスーツは、最初からいた2機に任せているのだろうか……後から来たモビルスーツ隊は、高台を……戦闘が行われている場所を回避して、高台と港町の間の空域でホバリングしている。
「まさか、こいつら……マイ、高台に向けて走れっ!」
「でもニコル、お父さん達を助けに行かないと……」
ニコルは高台に向けた足を一瞬止めて、マイの抱えている褐色の少女……アシリアに目を向けた。
「マイ、言う通りにしてくれっ! その娘も守らなきゃいけないんだ……頼むっ!」
「う……うん。分かった……」
ニコルの瞳に、うっすらと光る物を見た気がして、マイは後ろ髪を引かれる思いで高台に向けて踵を返す。
その時……津波から逃れようとして高台に走って来る人達に向けて、上空から機関銃が放たれた。
背中越しに、破裂音のような機関銃の音……そして人々の悲鳴が聞こえ、マイは足が竦む。
そんなマイの手をニコルは無理矢理引っ張って、高台の麓にある林に向けて走る。
「ちょっと! そんなに引っ張ったら、アシリアちゃんが落ちちゃうよ!」
男の人の中では細いであろう腕のどこから出ている力なのか、強い力で引っ張られ、マイは林の中に引きずり込まれた。
「ちょっと、何なの……アシリアちゃん、大丈夫だった?」
ドオオオオオォォォォォン!
アシリアに言葉をかけた瞬間、その言葉を遮るように爆発音が周囲に響き渡る。
「こいつら……異常だ……こんな事して、何になるんだよ! 何してんだよ!」
ニコルは唇を噛み締め、拳を握り締めて、叫んでいた。
ニコルが叫んだ方向……爆発音が響いた場所に目を向けたマイは、その光景に驚く。
ヘリコプター型のモビルスーツが、高台と港町を繋ぐ道に爆弾を投下していたのだ。
「ニコル……これって……」
「さっきの……海に伸びてきた光……あれはザンスカールの新兵器だ……多分だけど、静止衛星軌道から地球を狙えるビーム兵器……それを知られたくないから、港町の人達を口封じの目的で、町から人を出させないようにしてるんだ!」
ニコルの瞳が、怒りで赤くなっているのが分かる。
「でも……私達の事も認識してるよね? だったら、ここも爆撃されるんじゃ……」
「いや……奴らは、アシリアを狙っていた。理由は分かんねぇけど、アシリアが死ぬとマズイんだろうな……だから、オレ達が津波に飲み込まれないように、町側に行かせないようにもしてるんだ……」
ニコルの説明で、マイは状況が理解出来た。
愛する感情が無くなっている分、事態を冷静に考える事が出来る。
「アシリアちゃんって、確か女王マリアの娘さんって話してなかった? だから、ベスパが血眼で確保に動いているんじゃないかな?」
「そうか……マデアさんも、女王がベスパに利用されないように娘を地球に連れて行ったって言ってたな……なら、アシリアをベスパに渡す訳にはいかねぇ……けど、このままじゃ町の人もシャクティさんもヤバイ!」
ニコルは、戦場に出ないと決めた自分を恨んだ。
もし地球に着いて、直ぐにリガ・ミリティアに……ミューラと接触していれば、ゼータガンダム・リファイン以外のモビルスーツを預けてもらえていたかもしれない。
そうすれば、今の状況を打開出来たかもしれない……
「マイ……とりあえず、高台に避難しよう……アシリアの命は、オレ達が守らないと……シャクティさんとレジアさんが守ってる人だ。これ以上の悲劇を起こさない為にも、アシリアをベスパに渡しちゃいけない」
ニコルは、何故かベスパにアシリアを渡しちゃいけないと思った。
直感なのか、非道なベスパに子供を渡したら何をされるか分からない……目の前で起きている悲劇を見て、そう感じたのか……
それでも、ニコルは自分の肉親や幼なじみの両親を置き去りにする事に心が痛んだ。
そんな迷いを振り切るように、ニコルは走り出す。
「マデア……シャクティ……?」
もの静かで記憶障害のある少女アシリアが、ポツリと呟いた言葉はニコルには届かなかった。