機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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迫り来る悲劇4

「一体、何が起きているの? 町から、命の灯が……どんどん消えていく。ビームは海に落ちた……津波が来るまでは、時間があった筈なのに……」

 

 シャクティは目が見えなくなってから、感覚が一段と鋭くなっていた。

 

 元々のニュータイプ能力の高さに、ゼータガンダム・リファインに搭載された簡易サイコミュ装置であるバイオセンサーのおかげで、シャクティには周りの状況が手に取るように分かってしまう。

 

 その事が、かえってシャクティの動きを混乱させていた。

 

 港町の人々を助けに行くか、戦闘を継続するか……

 

 どちらにしても、目の前の2機のモビルスーツをどうにかしなくてはいけない。

 

 パイロットの腕は凡庸な感じがするが、モビルスーツの方は謎が多いように感じる。

 

 ミノフスキー・クラフトを搭載しているのか……先程までは空を飛んでいたが、ビームを回避したか防いだ後は地上に降りているようだ。

 

 しかし後発で来たモビルスーツは、浮いているのだろう。

 

 シャクティは、感覚で感じとる。

 

「後発で来たモビルスーツが、町の人の避難を妨げているの? あのビームを見た地球の人は、生かしておけないって事? けど、私が何とかする!」

 

 右腕が無いシャクティは、左手だけでコンソール・パネルを叩く。

 

 その動きに同調して、ゼータガンダム・リファインはビームライフルをプロペラが付いたモビルスーツ……ゾロを目掛けて撃ちこむ。

 

「ちっ、コイツの射撃は正確だっ! 2機同時で攻撃を仕掛けるぞ! 早くアシリアを捕獲して帰還しないと、上官にどやされるぞ!」

 

「新型を使ってるんだからな! あんな旧式に遅れをとっていられるかっ!」

 

 ゼータガンダム・リファインの放つビームをプロペラ……もとい、ビームローターで完璧に防いだゾロは、ビーム・サーベルを構えてバーニアを噴かす。

 

「これで、終わりだっ!」

 

 縦に並んだゾロの、前にいた1機のビームローターが回転する。

 

 ビームローターの回転に合わせて空中に飛んだゾロの後ろから、もう1機のゾロが姿を現す。

 

「いい連携ね……でも、見えているわっ!」

 

 目で見ず、感覚で反応するシャクティは、2機の動きが分かっていた。

 

 ロング・ビームサーベルを展開しながら跳んだゼータガンダム・リファインは、上下のゾロの間に入り込む。

 

「やあああぁぁぁ!」

 

 ロング・ビームサーベルから放たれるビームの光が、大地を裂きながら地面にいるゾロに迫る。

 

 そして、振り上げられたビームサーベルの光に、地面にいたゾロは為す術なく下から胴体を真っ二つにされた。

 

 その瞬間、無駄の動きもなくゼータガンダム・リファインは反転して上からの攻撃に備える。

 

「この反応速度……異常だっ!」

 

 ゾロは上からビームサーベルを振るが、体勢を整えたゼータガンダム・リファインはシールドその攻撃を受け止めた。

 

 シールドの表面は焼けるが、ビームサーベルが届く距離でロング・ビームサーベルが届かない訳が無い。

 

 振られたロング・ビームサーベルは、ゾロの真横から襲いかかった。

 

「ぐおっ!」

 

 その光の束をビームローターで辛うじて受け止めたゾロだったが、吹き飛ばされて地面に落とされる。

 

「もらった! これで終わりよっ!」

 

 ビームライフルの銃口が体勢の崩れたゾロに向けられ、正にビームを撃とうとした時、シャクティの頭に人々の悲鳴と命の灯が消える感覚が送られて来た。

 

「くっ……何? 凄い人数の命の灯が……消えていく?」

 

 恐怖と悲しみの感情が次々と頭に流れ込んで来て、思わずシャクティは頭を抱えてしまう。

 

 そう……津波がバルセロナの町を飲み込んだのだ。

 

 ゾロによって逃げ道を塞がれた住人達は、津波に飲まれるしかなかった。

 

 シャクティには、水に襲われる町が見えない。

 

 その分、バイオセンサーによって増幅された感情が頭に溢れていく。

 

「頭が……割れそう……」

 

 自然と涙が溢れ、シャクティの手は操縦桿から離れた。

 

「動きが止まった? 今がチャンスか?」

 

 無防備に止まったゼータガンダム・リファインを見て、ゾロはビームを放つ!

 

「しまった……」

 

 警告音で我に返ったシャクティは、ビームをシールドで受け止める。

 

「くううぅぅぅっ!」

 

 シールドを伝ってモビルスーツ本体に流れ込む衝撃に、シャクティは思わず声を漏らしてしまう。

 

「はぁ……はぁ……津波か……アシリア様は無事なの?」

 

 頭に流れ込む感覚によって忘れかけていた大切な事を思い出し、シャクティはバイオセンサーによる脳波の増幅でアシリアを探す。

 

「ニコルとマイと……アシリア様の命の鼓動が分かる。ニコル、アシリア様を守ってくれているのね……」

 

 シャクティは気を取り直すと、左手で操縦桿を握り締めた。

 

「1機墜としたからか、町が津波に襲われたからか……私に狙いを定めたみたいね……」

 

 シャクティは自分に迫って来るプレッシャーを感じて、操縦桿を握る手の平は汗で湿り始める。

 

 片手で……しかも旧式のモビルスーツでは、2機を相手するのが精一杯であった。

 

 自分に迫って来るモビルスーツは、5機はいるだろう……そして、正面には最初から戦っていた1機。

 

 死を覚悟したシャクティは、アシリア達がバルセロナの町を抜けて、身を隠せるまでは時間を稼ごうと心に決めた。

 

 ゼータガンダム・リファインの大きな盾で機体を隠し、致命傷を避けながら回避行動を取り続ける。

 

「シャクティさんっ! その戦い方じゃ駄目だっ! 反撃しないと、いつか被弾する!」

 

「でもニコル……あれって、シャクティさんが私達を逃がす為に……」

 

 険しい表情で戦闘を見つめるニコルの顔を見て、マイは言葉を飲んだ。

 

 マイの言っている事を、ニコルは理解している。

 

 それでも、その戦い方ではシャクティが……ゼータガンダム・リファインが持たない事をニコルは確信しているのだろう。

 

 そして、それを感じていたのはアシリアも同じだった。

 

「お母さん……ダメっ! お母さんがいなくなったら、私はどうすればいいの……」

 

 突然マイの腕を振りほどいて地面に下りたアシリアは、その瞳に涙を溜めている。

 

 今まで大人しかったアシリアの感情が、不意に溢れ出た。

 

 ニュータイプとしての能力なのだろうか……死を覚悟したシャクティの感情を感じたのかもしれない。

 

 それは、ニコルもマイも感じていた。

 

 絶望を感じた、その瞬間……

 

 1機の戦闘機が、戦場に姿を現した。

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