カリーン基地……
ニコルがレジスタンスとして……リガ・ミリティアの一員として、始めて配属された場所である。
懐かしの場所に足を踏み入れたニコルだったが、その表情は曇っていた。
「ニコル……バルセロナでの出来事を聞いたわ……大変だったわね……」
カリーン基地に着いたニコル達を出迎えてくれたのは、ダブルバード・ガンダムの開発の為に地球へ下りて来ていたミューラだった。
「ああ……オレは、誰も助けられなかった……守ってくれた人も、津波に飲まれていった人達も、母さんも、マイの両親も……誰一人救えなかった……ニュータイプだって煽てられてても、モビルスーツが無けりゃ何も出来なかった……」
懐かしい人の姿を見て、我慢していたニコルの感情が爆発する。
ずっと我慢していた……アシリアとマイの前で、涙は見せれないと思って我慢していた。
しかし母のような香りがするミューラの前で、ニコルの瞳から涙が零れる。
「泣いていいのよ、ニコル……助けに行けなくて、ゴメンね……もっと早く気付いて、モビルスーツを送ってあげれば、あなたを苦しめなくて済んだかもしれないのに……」
優しく抱きしめてくれたミューラの胸の中で、ニコルは声を出して泣いた。
頭の中でフラッシュバックするシャクティの戦い、母の笑顔、優しい言葉をかけてくれたマイの両親……
失ったモノの大きさに、ニコルは身体の震えを止める事が出来ない。
「レジアも……今のニコルと同じように、大切な人達を失ってきたわ。そして、戦う事を選んだ。今のニコルなら、レジアの気持ち……分かるんじゃないかしら? 託された者の心の強さが……」
ミューラの言葉に、ニコルは気付く。
レジアはニュータイプでも無いのに、何で強いのか……
きっと、元から強かったんじゃないのだろう。
「そうだね……オレも沢山のモノを託された……もう二度と撃たせない! あんな大量虐殺兵器は、オレが破壊する!」
涙を拭ったニコルの瞳は、強い決意を宿していた。
「そうね……そして、その為のダブルバードよ。フフっ、ニコルを見てると、本当にレジアそっくり……」
ミューラは、サナリィでの出来事を思い出す。
レジアの操縦するジェムズガンが、ヴィクトリー計画を進めるキッカケとなった。
そして、ニコルがヴィクトリー計画のキモであるダブルバード・ガンダムで戦う決意を見せてくれた。
それぞれ悲しい出来事を乗り越えて、それでも戦う気持ちを見せてくれる……
「私達は幸せだわ……こんなに優秀なパイロット達に恵まれて……」
「全くだ! 連邦は人材不足だってのに、なんでレジスタンスに優秀な奴らが流れるかね? まぁ、そんだけ連邦が腐ってるって事か……」
ミューラの独り言に答えた体格の良い男が、全身を黒く汚した姿で格納庫から現れた。
「ガルドさん、久しぶり! 連邦も、ダブルバードの開発に協力してくれてたんですか?」
「まぁな……だが、連邦と言っても全てじゃない。レジスタンスに協力しようって奴らが集まった、バグレ隊ってトコだ」
バグレ隊……地球連邦軍の中でも、レジスタンスであるリガ・ミリティアに協力しようと言う少数派の者達で組織された部隊である。
連邦の碧の閃光……エルネスティ・アーサーが隊長として組織された部隊であり、ミノフスキー・ドライブの技術提供を条件に、アナハイム・エレクトロニクスの協力を得ていた。
その為、バグレ隊の隊長であるエルネスティには、緑に塗装されたアナハイム社製の新型モビルスーツ、ジェイブスが与えられる。
地球連邦軍としては、エルネスティの動きは厄介だったが、それ以上にアナハイムとの関係を悪化させたくなかった。
サナリィがザンスカール帝国に接収されてしまった今、地球連邦軍はモビルスーツの供給をアナハイムに頼るしかない。
その為、エルネスティの動きは連邦内で黙認されていた。
「タブルバードは、サナリィの技術に、アナハイムのモビルスーツ・フレーム……本当に夢のような機体になったわ。ニコル……宇宙では、ビッグ・キャノンを再び攻撃する為の準備をしているの。調整にかけてる時間は、あまり残されてないから、疲れていると思うケド……」
「分かってるよ、ミューラさん。戦うと決めた以上、泣き言は言ってらんないよ。それに、ダブルバードを早く使いこなせるようになりたいしね!」
ガルドと話をしていたニコルは、ミューラの声に反応してから、格納庫に収まったダブルバード・ガンダムに視線を移す。
「エボリューション・ファンネルは、ミリティアン・ヴァヴに置いてあるから、それ以外の武装のチェックと、ミノフスキー・ドライブの最終調整……やる事は沢山あるわ……ガルドさん、お願いします」
「分かった! ニコル、操縦方法をレクチャーしてやるから、付いて来い! それが終わったら、エルのジェイブスと模擬戦だっ!」
ガルドに引きづられ行くニコルを見て少し笑ったマイは、激戦が始まろうとしている空を……宇宙を仰ぎ見る。
マイの心は、不安が渦巻いていた……