サナリィの格納庫でモビルスーツの整備をしていたリースティーアとフォルブリエは、上の階から聞こえる銃声に手を止めた。
「あらあら……一体、何があったのかしら? なにか、騒がしくなってきたんだけど……」
「1年前と同じだ。イエロージャケットってガチ党の私設軍、ベスパってヤツがモビルスーツを造れって強要しに来たんだろ?」
フォルブリエは油塗れの顔を袖で拭いながら、あまり気にもしない様子で視線を上に向ける。
「あら、それにしては銃声の音が聞こえ過ぎない? 強要しに来ただけなら、脅す為の発砲だけで良い気もするケド……」
ギギギギギっ!
リースティーアが呟いたのと同時に、格納庫の分厚い扉が開いていく。
フォルブリエは、素早く取り出した拳銃の銃口を扉に向ける。
「おい、ちょっと待て! 私だよ!」
「なんだ、エステルの婆さんかよ。黄色いジャケットを着てなくて良かったな。撃ち殺してたトコだぜ」
薄い茶色の軍服もどきを着た白髪の初老の女性を確認し、フォルブリエは銃を下ろす。
「まったく……あんたらテスト・パイロット共は、野蛮で嫌だねぇ……上じゃベスパってのが銃を撃ちまくってるし、サナリィの研究員達も応戦している……圧倒的に圧されているけどね」
「あらあら……大変な事になってそうね。私達は、格納庫にいたから詳しくは知らないけど……研究員と軍との銃撃戦って、何を考えてるのかしら?」
命辛々逃げて来たエステルとは違い、リースティーアとフォルブリエは落ち着いている。
テスト・パイロットとしては、サナリィがザンスカールの管轄になろうが、給料さえ変わらなければ問題ない。
仮に襲ってきても、愛機のF90が格納庫にはあるので、逃げる事だって出来る。
腕に自信のある2人は逃げるだけなら問題ないと考えていた為、危機感も緊張感もない。
「ところで、なんで銃撃戦なんかしてるんだ? リースティーアの言うとおり、研究員とプロじゃ相手にならんだろ?」
「だから、圧されてるって言ってんだろうが! ベスパって奴らの目的は、どうやらミノフスキー・ドライブらしい。その研究資料と、携わっていた研究員に用があるらしいが……」
ミノフスキー・ドライブ……テスト・パイロットであれば一度は聞いた事があるし、使ってみたい代物ではある。
「成るほどね……しかし、ミノフスキー・ドライブ付けると、機体バランスがメチャクチャ悪くなるんだろ? そんな物を奪いに来るって、物好きだな」
「あんた、頭にウジでも湧いてるんじゃないか? まだ完成してない技術だから、新興国が独占したいんだろうが! 兵器としてな」
エステルは呆れた顔でフォルブリエを見て、話が終わった後に大きく溜息を吐いた。
「あら、フォルブリエの頭の悪さは置いといて、私達の身の振り方も考えておいた方が良さそうね。そのベスパってのに協力するか、ここから逃げるか……」
「そうだが、俺達がベスパに協力するって言って、連中は信用するかね? 問答無用で撃ってくるだろ」
フォルブリエは1人で逃げるかのような勢いで、防御に特化した装甲の厚いF90のコクピットに乗り込む。
「あらあら……ですってよ? エステルさんは、どうします?」
「どうって……あんた達は、研究員達を見捨てて逃げるのか?」
リースティーアは長い髪を束ねながら、エステルを不思議そうに見る。
「あらあら、エステルさんも頭悪そうですよ。研究員さん達を助けに行っても、ここで待っても、状況は悪くなるだけ……生身の身体で戦っても、自分が死んで終わりです。まして、相手は白兵戦の訓練を受けてるプロなんですから……」
「いや、まぁ……そうなんだけど……格納庫まで逃げ切れる研究員もいるかもしれないだろ? その時に、助ける奴がいないと報われない……」
エステルの真剣な言葉を聞いて、リースティーアは苦笑いを浮かべた。
「あら……そうね。エステルさん、壁にマシンガンがあるのと、技術者の中にはモビルスーツが動かせる人も何人かいる。格納庫にあるジェムズガンは、直ぐに起動できるようにしておくわ。それで、なんとか生き延びて下さいね」
リースティーアは壁に付いている装置を操作した後、自らの愛機である射撃特化型のF90に乗り込む。
「あのババァ、連れてかなくていいのか? ここも、もう少ししたら制圧されるぞ」
「あら……頭にウジが湧いてる割には、優しいのね。無理矢理連れて行っても、あのタイプは面倒臭いからね……仕方ないわ……」
リースティーアとフォルブリエは、エステルを置いて格納庫を離れる。
「おいおい……早速、連邦のジェムズガンが1機喰われてるぜ! 大した損傷は無さそうだが……って奴ら、パイロットを外に出して殴ってやがる!」
「あらあら……ギロチンを使うだけあって、野蛮な国民性なのかしら? けど、戦場でモビルスーツを下りるなんて、平和ボケしすぎね!」
パイロットのいないラングに、リースティーアの乗るF90の放つビームが次々に突き刺さっていく。
異変に気付いたベスパのパイロット達は逃げようとするが、フォルブリエのF90にアッサリ捕捉される。
「野蛮な奴らには、野蛮な方法で消えてもらう!」
F90の振るビームサーベルが、ベスパのパイロット達を焼き消していく。
「連邦のパイロット……こっちも急いでいるんでね……悪いが置いていくぞ」
「あら……フォルブリエ、こっちに向かってる友軍機があるケド……これって、どう思う?」
リースティーアの言葉でモニターを確認したフォルブリエは、背筋が凍る気がした。
「こりゃ……俺達以外のテスト・パイロットだろうな……ザンスカールに尻尾を振った奴らってコトだろ?」
「あら、やっぱり……今の見る前なら、ベスパでも別にいいかと思ってたけど……」
フォルブリエも、リースティーアの言葉に同意であった。
だとすれば……
「やれるだけ、やるか……」
意を決したフォルブリエは、向かって来る同僚達に刃を向けた……