「まぁ、話は分かった。あんた達が、ザンスカールに尻尾を振ってない事も信じよう。だが、その女……民間人にしては妙だな。何故ノーマル・スーツを着ている?」
「フォルブリエさんよ……彼女がベスパのパイロットだって言いたいのか? だとしたら、格納庫にあったモビルスーツを1機拝借して使わせてるぜ。ただでさえ、戦力が少ないんだ。猫の手だって借りたい状況だぞ?」
モビルスーツを電子ネットに捕らえられたプロシュエール達は、両手首を合わせるようにテープで巻かれている。
その状況下でもプロシュエールは必死に説得を試みるが、フォルブリエもリースティーアも不信感を募らせながら、カネーシャ・タイプ……クレナの事を観察するような視線を向けた。
「疑う気持ちも分かるが、彼女はモビルスーツも武器も持って無い。裏切ったところで、何も出来やしないんだ!」
叫んだプロシュエールの肩に、クレナは縛られた手を優しく添える。
「プロシュエールさん……ありがとう。でも、本当の事を言うわ。私は、昔プロシュエールさんと宇宙海賊をしていました。海賊としての作戦行動中に、カガチの乗る宇宙船を襲った事があって……その時に、私はガチ党に拉致されてしまったのです。それからザンスカールの為に働かされて、クローンまで作られてしまって……それで、サナリィ接収作戦のクローン部隊の指揮をとらされていたのです……」
「ちっ、やっぱりザンスカールの飼い猫かよ! 悪いが、不確定要素を持ち込んでやれる程の余裕は無いんでな……だが、楽に死なせてやる!」
フォルブリエは銃口をクレナの頭部に合わせて、引き金に手を持っていく。
「フォルブリエ……銃を下ろしてくれ。成る程……それで合点がいった。格納庫を制圧していた女性と顔が一緒だったから、何かはあると思ったが……私も、彼女のおかげで命を救われた……と、言う事だな。私に向けられた銃口から銃弾が飛び出さなかったのは、彼女が私の前に飛び出してくれたからだ」
リファリアはクレナの後ろ姿しか見ていなかった為、その時は何が起きたか分からなかった。
クローン部隊の銃弾から逃れてモビルスーツに辿り着く事に必死だったリファリアは、クローン部隊に指示を出していたクレナが偶然にも自分の前に飛び出して来た為に助かったと思っていたのだ。
「フォルブリエにリースティーア……君達は私の事を知らないだろうが、私はテスト・パイロットを全て知っている。もちろん、プロシュエールの事もな。コイツは人助けするような奴では無いし、今日までザンスカールとの繋がりは無い筈だ。だが……彼女が昔の仲間なら、助けた事も納得がいく。どうせ、片想いしていた……とかって理由だろうがな」
「おいおい……これじゃ、俺が嘘を言っているみたいじゃないか。まぁ、嘘は言ったんだが……彼女は、リガ・ミリティアに保護を求めている。俺は今後の事を決めていないが、彼女と一緒にリガ・ミリティアに参加しても良いと思ってはいる」
リファリアとプロシュエールの言葉を聞いて、フォルブリエは頭を掻きながら銃を下ろす。
「だとよ……リースティーア、どうする?」
「あらあら、私は最初から何も言ってないわ。確かに、彼女から敵対心の様なモノは感じない。でも……何かがある気がするわ。ただの女の勘……だけどね」
普段通りのリースティーアの声を聞きながら、フォルブリエは空を仰ぐ。
「まぁ……ここで時間を使ってると、コッチが不利になってくだけか……だが、完全に信用する訳にもいかねぇ……その女は、縛った状態でリースティーアのコクピットに入ってもらう。普通に戦えば、あんたより生存率は高い。文句は無いな?」
「人質……と、言う訳か。賢明な判断だな。お互い信用出来なくても、背中を預けられる。どっちにしても、あのまま戦っていたら我々はここで墜とされていた。条件は全て飲むよ」
リファリアの発言に納得のいかない表情で声を荒げようとしたプロシュエールは、その行動をクレナに遮れた。
「分かりました。リースティーアさん、宜しくお願い致します」
「あら、聞き分けの良い娘ね。あなた、名前は?」
作った笑顔を向けるリースティーアに、クレナは満面の笑顔を向ける。
「クレナ……クレナ・カネーシャと申します」
「あら、そう。とても、海賊なんて出来る顔立ちじゃないね……ま、女は化けれるから、何とも言えないケド……」
作り笑いをしながら口元を緩ませたリースティーアは、フォルブリエの肩を軽く叩いた後にコクピットに足を向けた。
「で……他のテスト・パイロットはどうなった? 全員ザンスカールに付いて行った訳じゃないんだろ?」
「ああ……抵抗した奴らは、全員クローン部隊に殺されたよ。サナリィのモビルスーツは、全て敵だと思った方がいい」
やれやれ……と、フォルブリエは再び後頭部を掻く。
「アナハイムから技術提供の為に借り受けてるリゼル改と、F90が3機はここにある。ザンスカールに持ってかれたのは、GキャノンとF89が2機か……」
「Gキャノンが何機残ってるかは分からんが、89は2機とも奪われている可能性が高い。出来る事なら宇宙で戦いたいモノだが……」
ザンスカールの……ベスパのイエロー・ジャケットは、非戦闘員の研究者達も殺しているとエステルから聞いている。
ザンスカールに忠誠を誓わなければ、殺される可能性は高いのだろう。
そして、この場にいる者はザンスカールに矢を引こうとしている者ばかりだ。
「結局、2つしか選択肢が無いんだな。仲間を撃つか、ザンスカールの軍門に降るか……」
「ザンスカールは、野蛮過ぎる。女性のクローンやギロチンを使い、民間人ですら躊躇わずに殺してくる。とても同じ釜の飯を食べる気にはなれんな」
フォルブリエが呟いた言葉に、リファリアは首を横に振って答えた。
「あらあら……男同士仲良くなるのは良いんだけど、モビルスーツをセンサーが捉えたわ。こちらがやる気無くても、あちらはやる気みたいよ」
リースティーアの言葉に、3人はコクピットに滑り込む。
「3人とも、回線を開いておいてくれ。ヘキサ・システムで、通信のバックアップをする。4機とも欠ける事無く、逃げ切るぞ!」
リファリアのF90は通信機能に特化しており、ガンダムの角は無く、耳がエルフのように幅広く尖んがっている。
その耳……ヘキサ・システムで、指揮を円滑にとる事が可能だ。
「じゃあ、やるか。逃げる……といっても、どこまで逃げるか知らんがな……」
F90とリゼル改は、戦闘モードへと移行していった……