「ちっ! コッチを狙ってくるとは……頭のキレる奴だ! だが、一歩間に合わなかったな!」
アマネセルにビームを放ったリグ・ラングの右腕が切り裂かれ、腰のパーツにビームシールドが突き刺さる。
友軍機を守ってくると思っていたエバンスは、マグナ・マーレイ・ツヴァイの動きを注視しておらず、もう一つのフレキシブル・バインダーに残された有線式ビームシールドの直撃を受けていた。
攻撃する隙をつき、味方機に当たらないようにコントロールしやすい有線式の兵装を使う……冷静に判断しなければ出来ない芸当だ。
しかしコントロールを重視した結果その攻撃は遅くなり、リグ・ラングのビームは放たれる事になる。
アマネセルに向けて……
それでもビームライフルを持つ右腕を破壊された事で、狙いはズレた。
コクピットだけを貫こうとして絞ったビームは、アマネセルのコクピット・ブロックの下……胸部と腹部の装甲を貫く。
アマネセルを捕獲しようというエバンスの目論みは崩れたが、アマネセルを破壊するという最低限のミッションは達成出来た。
「だが……このまま戦場に留まっては、オレもやられる……機体に負荷を与えずに逃げるには……これしかないな」
エバンスはボロボロになったジュンコのガンイージをマグナ・マーレイ・ツヴァイに向かって蹴ると、突き刺さっているビームシールドのパーツを振りほどいてバーニアを噴かす。
と……同時に、ジュンコ機に向けてランチャーを撃った。
振りほどかれたビームシールドが、そのままランチャーを破壊するが、その爆発が収まる頃にはエバンス機は戦闘宙域から離脱していく。
「傭兵か……無駄な戦闘はしないし、動きにも無駄がない。機体損傷が悪化する前に、逃げる為の最低限の負荷を与えて、その後の行動に負荷を与えないように逃げるとは……厄介な敵だな」
飛んできたジュンコのガンイージを受け止めたマグナ・マーレイ・ツヴァイは、そのまま損傷したアマネセルの元へ移動した。
マグナ・マーレイ・ツヴァイの手が、アマネセルの装甲に触れる。
「リースティーア、早くハッチを開け。この機体は、長く持たない」
「あら……いずれ敵になるかもしれない私を、心配してくれるのね……リファリアの偽物さん……」
そう言いながらも、アマネセルの左手はマグナ・マーレイ・ツヴァイの装甲を求め動く。
「リファリア……偽物でもいい……今は、貴方を信じて……いいかしら?」
「勿論だ。早くマグナ・マーレイのコクピットに移れ。もう数分もすれば、その機体は爆発する。私達にとっては忌まわしい機体だが……それでも、私はお前を救いたい」
リファリアの言葉は、リースティーアの心を熱くした。
サナリィで、リースティーアを庇って戦死したフォルブリエを伐った機体……
その同型機に乗っているパイロットをリファリアだと思いたくなかった……でも、今の言葉だけで充分だった。
私達にとって忌まわしい……
私達、と言った……
その言葉で……
その言葉だけで……
「あら、リファリア……私はリアリストと言ったでしょ? そんな事、関係ないわ。その機体に、まだ存在意義があると言うなら……アマネセルにも、まだ……」
「リースティーア、何をしようと言うんだ? その機体では、何も出来ない。早くハッチを開け」
アマネセルのコクピットでは、リースティーアの血が花びらのように舞う。
その数は、時間と共に増えていく。
破壊されたコクピットのパーツの一部が、リースティーアのノーマル・スーツを破り、脇腹を切り裂いていた。
そこから、血の球が次々と発生していく。
もう……助からない……
本当は、最後ぐらい大好きな人の胸に抱かれたい……
でも、その大好きな人は、忌まわしい機体と思いながらも……大切な戦友を伐った機体で戦場を駆け抜けている。
少数で大軍と戦う為に……
そして、その想いは、多くの人の命を救う事……
だからこそ、たったの2機でビッグ・キャノンを破壊しに来たのだろう。
私とアマネセルには、それを成す力がある。
使うのは、今……
「リファリア、ビーム・マグナムを……今なら、狙えるわ……」
「リースティーア、ビーム・マグナムの一撃では、ビッグ・キャノンは破壊出来ない。態勢を立て直す為に、一度後退するんだ」
「あら……リファリアらしくないわね……エネルギー供給ユニットをピンポイントで破壊出来れば、時間を稼げる。後退するのは、それからよ……」
リファリアは、操縦管を思わず……そして強く握り締める。
時間が大切な事は、先程のリグ・ラングの後退で身に染みていた。
このままではアマネセルが爆発して、リースティーアは無駄死にするだけだ……
宙に浮かぶビーム・マグナムを視認したリファリアは、マグナ・マーレイ・ツヴァイを移動させる。
そして、アマネセルの左手にビーム・マグナムを握らせた。
「ありがとう、リファリア……」
「何を……礼を言わなければいけないのは、私の方だ……サナリィでも、今も……助けてもらってばかりだ……」
「あら、違うわ……ベスパに入隊していたら、私は道を踏み外していた……道を踏み外した事さえも気付かないで……サナリィでリファリアに出会えて……リガ・ミリティアで大切な仲間達に出会えて……私は変われた。その私の心が言ってるの……あのビームを、二度と地球に向けて撃たせちゃいけないって……」
アマネセルの姿勢を支えるように、その背中に手を添えるマグナ・マーレイ・ツヴァイ……
アマネセルの左腕が上がり、照準を定め始める。
「その機体で、何をしようってんだい? 衝撃で、機体が爆発するよ!」
機体を蹴られた衝撃で意識を失っていたジュンコが目を覚まし……目の前の状況に驚いた。
今にも爆発しそうなアマネセルがビーム・マグナムを構え、マグナ・マーレイ・ツヴァイが支える異様な光景……
「あら、ジュンコさん……無事で良かったわ……」
「あんたが無事じゃないだろ! まだ助かる! 機体から出ろ!」
ジュンコの言葉に首を横に振ったリースティーアは、先程見たビジョンを思い出した。
「ジュンコさん……この先の未来……ニコルか……違う誰かが、ビッグ・キャノンを撃つかもしれない……その時が来たら……ジュンコさんが判断して……曖昧な言い方で、申し訳ないけど……」
「なっ……それは、リガ・ミリティアがビッグ・キャノンを奪うって事か? しかも、それを撃つって……」
リースティーアは少し悲しい瞳でガンイージを見て……そして、決意を込めた視線をビッグ・キャノンに向ける。
「リファリア、ジュンコさんをお願いね。アマネセル……あなたがリファリアを導いてくれたのかしらね……私の前のパイロットを……」
その言葉で、リファリアは気付く。
リファリアのF90にNのミッションパックを装備した機体が、アマネセルという事に……
「私達の願いは一つ……無駄に命が散る世界を終わらせる為に……」
ビーム・マグナムの銃口が光り……閃光が走り……そして、リースティーアの声が届かなくなった……