「マデアさんっ! 見えた! 先端にビームが集中してる!」
「ああ……あまり時間は無さそうだな……ニコル、さっきの説明で理解出来たか?」
エボリューション・ファンネルの外装に粒子を走らせ擬似大気を作り出し、プラズマ発生させる事によるプラズマ・ブースターを利用して、ビーム・ファンのビームの威力を増大・加速させる。
ニコルがそんな説明を受けても、分かる筈もない。
「さぁ……でも、とりあえずエボリューション・ファンネルを円形に並べればいいんだろ? あのビームを止めれるなら、何でもやるよ!」
「そうだな……原理なんて、どうでもいい。何としても止める! その為に、皆が命を懸けて戦っているんだ!」
マデアの言葉にニコルは頷くと、全面の宙域に意識を集中させる。
「いけっ! エボリューション・ファンネル! 奇跡を見せてくれっ!」
ニコルの声……脳波に反応して、エボリューション・ファンネルが巨大な円を作り出す。
そしてファンネルの外装に、粒子が走る。
円形に形取られたエボリューション・ファンネルの先に、ビッグ・キャノンのビーム射出口が見えた。
ビッグ・キャノンから放たれるであろうビームの射線上……その凶悪なビームに晒されれば、モビルスーツなど一瞬で消し去られる。
自分の生きた証すら残せず、灰になる事も許されず、正に消滅させられるだろう……
そんな危険な場所にいるのに、不思議と恐怖は感じなかった。
リースティーア達の思いを背負っているからか……
マデアがいる安心感なのか……
惨劇を食い止めたい気持ちが強いからか……
死ぬかもしれない……そんな考えすら、ニコルの脳裏には過ぎらなかった。
エボリューション・ファンネルを間に入れ、ビッグ・キャノンの正面でザンスバインがビーム・ファンを構える。
「ミノフスキー・ドライブとエボリューション・ファンネル……最新技術を組み合わせた大技だっ! これで食い止められなければ、もはや打つ手なしだ! だが、やれる! この力なら……多くの人々の希望や、真の平和を願う者達の思いが詰まった力なら、止められない筈がない!」
マデアの視線の先……ビッグ・キャノンの巨大な銃口に光が集まり、そして閃光が弾けた。
「うおおぉぉぉぉぉ!」
ザンスバインの映し出すモニターの全てが、光に包まれていく。
その光の中心……光の前面に展開されるエボリューション・ファンネルの円の中心に狙いを定め、マデアはトリガーを引いた。
扇上に伸びていくビーム……
エボリューション・ファンネルの中央でプラズマと干渉した粒子は、更なる力と速さを得て、鎌鼬の如く……閃光の刃となって強大なビームに立ち向かう。
光が広がっていくようなビームに、刃のようなビーム……
とてつもないエネルギーが、宇宙で激突した。
舞い散る粒子……弾ける閃光……
眩い光の芸術は、遠目に見たら美しく見えただろう。
が……その正体は人の命を奪う悪魔のような光……
もし、通常のビームを放っていたら、光の芸術を見る事もなく……モビルスーツごと消滅していただろう。
だが……ビームの刃は、強大な光を斬り裂いた。
光の粒子を斬り裂きながら、ビッグ・キャノン……カイラスギリーに迫る。
真っ二つにされた光は地球の上と下を通り過ぎ、ビームの刃はビッグキャノンの銃口付近で力尽きた。
それでも、ビッグ・キャノンのビーム射出口を破壊するには充分である。
ビームの刃による干渉で、ビームの射出口に多大なる負荷がかかった。
その結果、ビッグ・キャノンの砲身は焼け落ち、小さな爆発を起こす。
75%というエネルギー量が、被害を小さくした……フルパワーで撃っていたら、どうなっていたか……マデアとニコルが消えていたかもしれないし、カイラスギリーが破壊されていたかもしれない。
「やりましたよ! マデアさんっ!」
「ああ……ビーム・ファンに、ザンスバインの全エネルギーを乗せたんだ。防げなきゃ困る……」
力無く宙を漂うザンスバインに、ダブルバード・ガンダムが肩を貸す。
「全く……無茶をするな。ザンスバインのパーツは、高価な物ばかりだ。またルース商会の連中に頭を下げなきゃならん……」
戦闘宙域から離れていたリファリアのマグナ・マーレイ・ツヴァイが近付いてきてワイヤーを放つ。
ミノフスキー粒子を放出しまくった宙域では、お肌の触れ合い回線以外で通信出来なかった。
「その声……リファリアさん……なのか? それに、そのボロボロのガンイージは?」
「ああ……ニコル、久しぶりだな。サナリィでマデアに助けられてな……今は、マデアの下で働いている。帝国が破壊していた開発中のデータを盗んだり、地球の資本家とパイプを作ったり……結構コキ使われてる。一応、病人なんだがな……」
深い溜息をついたリファリアは、ボロボロのガンイージをニコルのダブルバードに受け渡す。
「ジュンコというパイロットが乗っている。リースティーアが最後まで守り……守り抜いた。無事に母艦まで連れて行ってくれ……」
「くそっ! やっぱり、リースティーアさんは……あの時、オレも戦場に残っていたら……」
コンソールを叩き、ニコルは唇を噛む。
「そうしたら、ビッグキャノンの射撃を阻止出来なかったかもしれない。その場の選択なんて、間違いであり正しくもある。ニコル、気にするな。リースティーアは、正しい道を歩めたと言っていた。何が正しいか私には分からないが、リースティーアは自らの人生を誇りに思って死んでいった。それは、長く生きるより大切な事だとも思う。大切な人を失うのは辛いがな……」
穏やかなリファリアの言葉を聞き、リースティーアの事を思い浮かべ、ニコルは泣いた。
一度は我慢した感情が、堰を切ったように溢れ出す。
溢れ出した感情は、止める事が出来なかった。
リファリアの言う通りなのだろう……そして、リースティーアが必死で守りたかったもの……それを守れた安堵感と、リースティーアがいなくなってしまった悲しみ……色々な感情がニコルの心を支配する。
「ニコル……悲しんでばかりいられんぞ。レジアの戦っている戦場……得体の知れないモビルスーツが……パイロットが向かった。今、動けるのはダブルバードしかいない。ザンスバインは、この有様だしな……ガンイージを届けたら、レジアの救援に行ってくれ! リガ・ミリティアは、まだ彼を失う訳にはいかない筈だ!」
マデアの言葉に、涙を強く拭ったニコルは強く頷いた。