機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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操られし者34

「なんだ? まだ戦うつもりかい? お仲間に裏切られて、機体もボロボロの状況で、アタシの相手をしようってのかい? 笑わせるよ!」

 

「勝手に笑ってろ! クレナの力を借りなければ、ボロボロの俺達の相手すら出来ないってんなら、貴様の底も知れたな!」

 

 クレナのガンイージの脇を擦り抜けて、トライバード・アサルトはアネモ・ボレアスにビームサーベルを突き立てる。

 

「ちっ、まだ動けるのか! おい、オリジナル! 貴様もボサッとしていないで、少しは動きな!」

 

 トライバード・アサルトから繰り出された鋭いビームサーベルの突きを、アネモ・ボレアスは後方に下がりながらビームバリアで粒子を四散させた。

 

「私は、こんな非道な作戦の片棒まで担がされるの? でも、もう後戻り出来ない。お母さんが死んでしまったら、何の為にザンスカールで……モビルスーツのパイロットとして、多くの命を奪ってきたか分からなくなる。マリア様……これで……これで、いいんですよね?」

 

 アーシィの決意と共に……ファラの声に促されて、アネモ・ノートスが動き出す。

 

 アネモ・ノートスの背部に戻っていたバックエンジン・ユニットが再び切り離される。

 

「くそっ、アーシィまで動き出すのか! ゲルダさんの娘さんだから、出来れば墜としたくはないが……そんな余裕もないか!」

 

 アネモ・ボレアスがトライバード・アサルトから距離をとった事を確認してから、レジアはヴェスバーの照準をバックエンジン・ユニットに向けた。

 

「とりあえず厄介なのは、巨大ファンネルとビッグキャノンもどきだ。そこさえ破壊出来れば、逃げるチャンスも出てくる筈だ!」

 

 バックエンジン・ユニットの動きは速い。

 

 無人兵器の利点を最大限まで活かしているバックエンジン・ユニットは、巨大ながら信じられないスピードで飛び回る。

 

 それでも、ヴェスバーの最速射撃なら対応出来る……

 

 正にヴェスバーを撃とうとした瞬間、トライバード・アサルトとバックエンジン・ユニットの間にクレナのガンイージが割り込んできた。

 

「くっ……先にクレナをどうにかしないと、迂闊に攻撃が出来ない!」

 

 射撃の姿勢を解除したトライバード・アサルトは、不規則に撃たれるマルチプル・ビームランチャーの回避行動に移る事を余儀なくされる。

 

「クレナっ! あんた、いい加減に目を覚ましなさい!」

 

 マヘリアのガンイージが、クレナのガンイージを後方から押さえ込んだ。

 

「マヘ……リア……さん……私を……殺して……このまま……じゃ……」

 

「って、クレナ! あなた、意識があるの? きゃあぁぁ!」

 

 クレナの言葉に驚いたマヘリアは、押さえ込んでいた腕を緩めてしまっていた。

 

 その隙をついて、クレナのガンイージはマヘリア機のコクピットの上部に肘を打ち付けて、機体を振り解く。

 

 そして放たれるビームを、マヘリアは間一髪でビームシールドを展開し直撃を免れる。

 

「騙された! こんな事までしてくるの?」

 

「マヘリアさん、止まるな! 撃ってくるぞっ!」

 

 レジアの攻撃で後方に下がったアネモ・ボレアスから、高出力ビームが放たれた。

 

 上下に分かれて回避したトライバード・アサルトとマヘリアのガンイージ……

 

「まずは1機! 確実に墜とせる方から墜とす!」

 

「舐めないでよ! 私だって、リガ・ミリティアの正規パイロットなんだ!」

 

 マヘリアはバックエンジン・ユニットに向けてマルチランチャーを放ち、そのバランスを崩そうとした。

 

「そんな遅いランチャーに当たる訳がない! 墜ちて!」

 

 が……

 

 バックエンジン・ユニットに搭載されている5門のマルチプル・ビームランチャーは、アーシィの意思に反して……いや、無意識に反応して、トライバード・アサルトに向けて放たれた。

 

 まだ距離があるが、残像を残しながら飛んでくるトライバード・アサルトに恐怖を感じたからか? 

 

 マヘリアの気迫に圧されたからか? 

 

 アーシィが感じた事……躊躇した事……それは、クレナの機体がビームランチャーの攻撃範囲に入っていたからだ。

 

 サイコミュで操れる人……それは、おそらくクローンだろうと、アーシィは予測出来ていた。

 

 クローンにだって意思がある……心がある。

 

 クローンを物のように扱うタシロが嫌だった……クローンを利用して戦う自分が嫌だった……

 

「レジア・アグナール! あなたが墜ちれば、戦争は終わる! ザンスカールが腐敗した地球連邦を駆逐し、マリア主義が地球を救う! 墜ちなさい! 全ての人の幸せの為に!」

 

 アーシィは叫んだ。

 

 叫ばずには、いられなかった。

 

 何が正しくて、何が正しくないのか……

 

 もはや、分からなかった。

 

 それでも、どちらかの組織が倒れなければ戦争は終わらない。

 

 ザンスカールが非道な事をするのも、戦争を終わらせる為……

 

 出来るだけ早く戦争を終わらせる為に、仕方ない事……

 

 アーシィは自分に、そう言い聞かせる。

 

「甘ちゃんだねぇ……でも、雑魚を殺す為に切り札まで墜としてたら、アタシがアンタを殺してたかもねぇ……」

 

 ファラは、口元を舌で濡らす。

 

「映画みたいにクローンが正気を取り戻すとか思ってんなら、好都合だ。諦めて殺しちまえば、勝機があるのにねぇ……」

 

 アネモ・ボレアスが構えるボレアス・キャノン。

 

 その射線軸に、クレナのガンイージとトライバード・アサルトを収める。

 

「死んじまいな! みんな死んじまえばいいのさっ!」

 

 笑いながら、ファラはトリガーを引いた……

 

 


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