「鈴の音? 頭の中に直接響くような、この感覚は……なんだ? けど、分かるぞ! 敵の位置が……ダブルバードを通して感じる、お前の次の行動が! エボリューション・ファンネル!」
モビル・アーマー形態のダブルバード・ガンダムに羽のように装備されているエボリューション・ファンネルが舞うように機体から離れ、光の輪を作り出す。
暗い宇宙に、プラズマの花が咲く。
その花の後方で、ダブルバードはガンダムの姿を露にする。
その両手に握られているビーム・ライフル……
ダブルバード・ガンダム用に急遽開発したバスターライフル。
簡易式のヴェスバーと言うべき兵器は、ミノフスキー・トライブ・コンデンサから直接エネルギー供給が可能となっており、更にバスターライフルに取り付けられているエネルギー・パックに余剰エネルギーを蓄える事が出来る。
これにより、手持ちの可変速ビームライフルとして機能出来る……それが二つ……
トリガーを横に持ち、その二つのバスターライフルの背を合わせる。
タブル・バスターライフル……火力不足が懸念されていたダブルバード・ガンダムに与えられた遠距離兵装……
「レジアはやらせない! そして、鈴の音を通して伝わってくる負の感情……お前だけは、ここで墜とす!」
プラズマ・ブースターと化したエボリューション・ファンネルから発生する粒子の描く中心に、最速の射出速度で放たれたビームの電子が触れ合う。
その瞬間、光が伸びていく。
ピンポイントで、アネモ・ボレアスが放ったボレアス・キャノンのビームの先端に……
アネモ・ボレアスのビームがトライバード・アサルトを捉える前に、ビーム同士の干渉が起きる。
戦場が……宇宙が、一瞬だけ太陽の光が降り注いでいる晴天の日のように明るくなった。
「なんだ……光?」
光の帯が、トライバード・アサルトとアネモ・ボレアスを鮮明に写し出す。
「ちっ、これがニュータイプの力とでも言うのか! ふざけてんじゃなぁい!」
ファラの額に付けられた鈴が鳴る。
ファラはサイコミュでダブルバード・ガンダムの存在を感じとった。
だが……
「くそっ! 速い! 敵の姿を感じても、これじゃあ……」
息を飲むファラ……サイコミュの増幅によって敵の姿が頭に浮かんだ時には、既に間合いに入られていた。
たった今、長距離ビームを放った筈なのに……
アネモ・ボレアスの頭部側からミノフスキー・ドライブ・ユニットを展開し、最大戦速で迫って来るダブルバード・ガンダムのスピードは常軌を逸していた。
振り下ろされたビームサーベルは、全速で回避運動に入ったアネモ・ボレアスのボレアス・キャノンの先端を斬り裂く。
「ニコル……遅いぞ……ガンスナイパーを使っていた頃は、もう少し余裕を持って加勢に来てくれてただろ?」
「これでも、全速で来てんの! あの頃より仕事量がメチャ増えてんだから、間に合っただけでも褒めて欲しいモンだよ……」
後方に弾け飛んだアネモ・ボレアスを深追いせず、ニコルの乗るダブルバード・ガンダムはボロボロのトライバード・アサルトに触れていた。
「に、しても……トライバード・アサルトがボロボロだ……あいつ、そこまでの強敵なのか?」
「ああ……強い。だが、それ以上に非道な奴だ。よく分からないが、クレナが奴に操られているみたいなんだ……だが、正直対策が見つからん」
レジアもニコルも、マヘリアとクレナが戦っている事は知っている。
二人の視線が向けられた先では、エボリューション・ファンネルに守られたマヘリア機に、クレナ機が攻撃を仕掛けようとする姿だった。
「あれは……完全に我を忘れてるね。さっき感じた負の感情は、クレナを操る為のモノだったのかな? だとすれば、奴を倒せば全て終わる!」
「待てニコル! クレナを操れるのが奴だけなら、それで終わりかもしれない。だが、アーシィ・ベースのクローンが量産されていたら……サイコミュが使える奴なら、誰でもクレナを操れるなら、解決にはならない!」
動き出そうとするダブルバード・ガンダムの右腕を、残った右手で掴んだトライバード・アサルト……
「ニコル、それではクレナを苦しみから解放する事は出来ない……クレナを救うには、今しかないんだ……」
「分かったよ……何とかする。どっちにしても、奴を動けなくする事は必要だ! レジアは、ペギーさんが持って来るトライバード・バスターに乗り換えておいてくれ! アサルトは、もう無理だ!」
ダブルバード・ガンダムは、トライバード・アサルトの手を振りほどくと、アネモ・ボレアスに向かって加速する。
タブルバードと入れ替わるように、ペギーのトライバード・バスターがレジアのトライバード・アサルトに取り付く。
「リガ・ミリティアのエースが、随分とボロボロじゃないか。早くコッチに移動しな! その機体は、長く持ちそうにない」
「ダブルバードにバスターか……親父、見ているか? あの時は、夢物語だと思っていた。リガ・ミリティアにニュータイプが現れて、ダブルバードが宇宙を駆ける姿を見れるなんて、思っていなかった。だが、実現してくれた。皆に感謝しないとな……」
朦朧とした声で、呟くように聞こえて来るレジアの声に、ペギーは焦った。
「おい、しっかりしろ! 今、そっちに行く。気をしっかり持て!」
「ペギーさん……だったな。そんな事より、マヘリアさんのフォローに回ってやってくれ。マヘリアさんは、仲間を撃てない。ニコルが状況を打開してくれるまで……助けてやってくれ」
トライバード・バスターのコクピットから飛び出したペギーは、ボロボロのトライバード・アサルトに飛び移る。
機体表面がスパークしている部分もあり、爆発までそれほど長く持ちそうにはないが、脱出する時間は充分にありそうだ。
「何を言っているんだ! リガ・ミリティアのエースを見捨てられるか! まだ時間はある……ハッチを強制で開くよ!」
「やめてくれ……足の上にコンソールが落ちている。動きそうにない……」
「そんなの無重力なんだから、どうにだって動くだろ!」
トライバード・アサルトのハッチを開けたペギーの瞳に、衝撃の映像が映る。
血の球による出血量の多さもそうだが、その状況が……
捻じ曲がったコンソール・ボックスを支える土台は残っており、更に床から飛び出した部品がコンソール・ボックスに横から突き刺さり、足に押し付けるように力を加えている。
どちらかを破壊しないと、コンソール・ボックスを動かす事は出来なそうであった。
「分かっただろ? 早くマヘリアさんの援護に行ってくれ。ここは戦場だ。迷った奴から死んでいくぞ!」
「分かった……だが、あのトライバード・バスターはあんたの機体だ。そして、あんたが死ねばリガ・ミリティア全体の士気に関わる。私の仕事は、この機体をレジア・アグナールに渡す事なんだ。何がなんでも……」
「分かっているよ……早く行くんだ。バスターを頼むぞ!」
レジアの瞳を見たペギーは何かを感じ取り、拳を握り締めた後に頷く。
トライバード・バスターのコクピットに戻ると、ペギーはビームライフルをトライバード・アサルトの右手に握らせた。
そしてモニターの中心にトライバード・アサルトを入れ、ペギーは敬礼をする。
こんな状況でも、レジアの瞳は諦めていない。
自分の命ではなく、仲間を救う事を……
ペギーの瞳から、何故か涙が零れた。
レジアと話をしていなかったら、マヘリア機を攻撃するガンイージを破壊していたかもしれない。
自分の身を犠牲にしてでも仲間を信じる、その心にペギーは感じるモノがあった。
「マヘリアさんは仲間を撃てない……マヘリアさんを援護しろ……か。マヘリアに準じて戦えって事だろ? 分かったよ。マヘリアと一緒に、あの暴走しているガンイージを正気に戻す。やってやるさ……」
ペギーは涙を拭いて、トライバード・バスターのバーニアを全開にする。
操られた仲間を助ける為に……