戦闘後の一時
「いってぇ………マヂでぶん殴るなんて、ボイズンさんヒデェよ…………親父にも殴られた事ないのに………」
数日前にボイズンに殴られた左の頬を擦りながら、ニコルはホラズム基地の中を歩いていた。
未だに痛みが続いているのは、単に左の頬が腫れているからだけではなく、ニコルの心まで拳が届いたからかもしれない。
(飯を食うにしても、痛ぇんだよな………勘弁してほしいよ)
左の頬を気にしながら食堂に入ろうとするニコルの耳に、女性の声が届く。
「ねーねー、クレナ♪こっちに食堂があるっポイよ!!」
通路の先から響いてきた聞き覚えのある声に、ニコルは耳を疑った。
(なんか、今マイの声がした気がしたが…………気のせいか??)
声が聞こえた方に何気なく視線を向けると、確かにマイと女性のモビルスーツパイロット[クレナ・カネーシャ]の姿があった。
クレナは地球のカリーン基地で、マヘリアと一緒にガンイージのテスト・パイロットをしていた為、ニコルと面識はある。
しかし………それよりも、メカニックの卵のような事しか出来ないマイがいた事にニコルは驚いた。
「お……………おい、マイじゃん!!こんなトコで何してんだよ!!てか、ここ月だぞ………」
「おーっ!!ニコル♪後で声かけ行こうと思ってたんだけど、お腹空いちゃって…………テヘ♪」
マイは片目を閉じながら、舌を出して微笑む。
「テヘ……………ぢゃねーよ!!なんで、月にいるんだよ!!そんな、気軽に来れる場所じゃねーし!!」
「だってー、宇宙戦のデータとる前にイージ壊れちゃったんでしょ?クレナと一緒に2機運んで来たんだから♪」
「ねっ♪」とウインクするマイに、シャイなクレナは対応に困っている。
「おい、クレナはマイみたいにガサツじゃねーんだから、困らせるなよ」
(なるほどね………マイが来た理由は、オレと一緒で引越公社の目を欺く為か…………)
ニコルがマイに視線を戻すと………
「えー!!そんな事ないよねー、クレナぁ♪」
と言いながら、マシュマロみたいに柔らかそうな身体のクレナに、マイが横から抱きついているところだった。
「えっ…………あの…………はい…………スイマセン…………」
…………………
「…………………それみろ」
「ハハハ…………………」
ニコルの冷ややかな目に、マイが冷や汗を垂らしながら苦笑いをする。
「まぁそんな事より、その顔どーしたの??悪さしてボイズンさんに殴られた??」
ニコルのまだ少し腫れている左の頬を覗きこみながら、マイは「痛そー」と小声で言いながら、同情だか哀れみだかよく分からない表情を作った。
「なんだ?その全く心配してねー感じは!!殴られたのは正解!!けど、悪い事はしてねー!!」
「悪い事はしてねーよな!!ただ、自信過剰なのと、考え方がお子チャマなだけだ」
突然後ろからニコルの肩を抱いて、レジアが話に割り込んできた。
「レジアさん!!お子チャマは止めて下さいよ!!あれからオレだって、少し考えたんスから………」
焦った反応を見せるニコルに、マイがケラケラ笑いながらレジアを見る。
「レジアって、あのレジア・アグナール?リガ・ミリティアのエースの??」
「やっぱ、オレって凄いんだな!!リガ・ミリティアの救世主の名は伊達じゃないからねぇ」
うんうんと目を瞑りながら満足そうな表情を見せるレジアに、ニコルは冷ややかな視線を向ける。
「救世主様ってのは、素人に助けられなきゃピンチを切り抜けられない人の事を言うんだな。覚えておこう」
ニコルの言葉に、マイが「ん?」と考え込む。
「素人に助けられたって…………ニコルがレジアさんを助けた??って事??一体どういう…………」
と、そこまで言ったところで…………グーッと…………マイのお腹の虫が叫んだ。
「いやー…………ね、ご飯食べないと、お腹の虫さんが餓死するって言ってるので、何か食べよう!!ねっ!!」
質問をしたマイだったが、あまりにもお腹が空いたので食堂に移動する事を提案し、食事しながら先日の戦闘について話す事になった。