機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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宇宙の十字架4

「あそこに、レジアがいるんだね。トライバード……本当にボロボロになっちゃってる……」

 

「マイさん……ごめんなさい。私のせいで、レジアが……」

 

 マイはクレナのガンイージのコクピットの中で、トライバード・アサルトに……レジアの元へ向かっている。

 

 戦闘が終わってからも、クレナはレジアの……トライバード・アサルトの側を離れようとはしなかった。

 

 そしてレジアがマイを呼んでいる事を知ると、護送の役を申し出た……少しでもレジアの役に立ちたい……そんな思いが、クレナを駆り立てる。

 

「うん……でも私、何も感じないんです。最近は、本当にレジアの事が好きだったのかどうかさえも分からなくなってきて……だから、私に気を使う事はないですよ」

 

「マイさん……」

 

 クレナは涙が出そうになる瞳をグッと閉じて、操縦桿を強く握り締めた。

 

 自分が操られていた時……暗闇の中に捕われていた時の自分は、今のマイのような感じだったのだろうか……

 

 表面に出ている自分と、内面でもだえ苦しむ自分……

 

 今のマイを見ていると、苛立ちを覚える。

 

 レジアがマイを想い続けていた事を知っているクレナにとって、無表情のマイに手を挙げたくなる程の怒りを感じた。

 

 でも……マイもきっと、内面では自分と同じように苦しんでいる……同じような経験をしているクレナは、その気持ちが痛い程分かる。

 

 そして、そんな自分を救ってくれたレジアやマヘリア……無表情で味方機を攻撃する自分を、正に命を懸けて救ってくれた。

 

 そんな自分に、今出来る事……

 

 レジアが生きている間に、ザンスカールの実験で失われた感情を……人を愛する気持ちを取り戻す……

 

 マイの内面の感情を、レジアに伝える……

 

 それが出来るなら、トライバード・アサルトの爆発に巻き込まれて死んだっていい……

 

「マイさん……私はレジアに……仲間達に救われました。私は、自分を取り戻す事を諦めていたんです。でも、心の中……暗闇の中で、私は仲間達の声を聞いて……私が何度も諦めても、その声は諦める事なく、何度も何度も心に語りかけてくれて……何度も何度も手を伸ばしてくれて……そして私は、その暗闇から抜け出したいって……助けてって、強く願いました。そして……自分を取り戻した私は、ここにいる。この場所に戻してもらえたんです。ごめんなさい……何を言ってるか分からないかもしれないけど、内なる自分の声に耳を傾けて……きっとレジアは、そこにいるから……」

 

「クレナさん……私、たまに心臓が押し潰されるみたいに、キューってなる時があるんです。暗闇の中に閉じ込められてる感情が出ようとしているのか、ただの感覚なのか分からないけど……でもクレナさんの話、少し分かる気がします。私も元に戻りたい……その気持ちは持ってますから……」

 

 そう言うマイに笑顔を向けて、クレナは軽く頷いた。

 

「マイさん、トライバード・アサルトに近付くわ。少しの衝撃でも爆発するかもれない……でも、何があっても私が守るから!」

 

「はい……私、信じてます。クレナさんの事も、ニコルの事も、そして……レジアの事も……」

 

 マイの言葉を聞いたクレナは、静かにガンイージのハッチを開ける。

 

 開いたハッチの先……ガンイージとトライバード・アサルトの間に、2本のエボリューション・ファンネルが橋のように繋がっていた。

 

 漆黒の宇宙に、エボリューション・ファンネルから発するサイコフレームの赤い光が暖かく輝いている。

 

 無重力なのだから、浮いて向かってもいい……しかし、マイはエボリューション・ファンネルの上を無意識に歩いていた。

 

 エボリューション・ファンネルが、まるで大地のように足に吸い付き、浮遊する事なく自然と歩いていける。

 

「マイ……何があっても、オレとダブルバードが守ってみせる。心配しないで、レジアの言葉を聞いてやってくれ」

 

 ヘルメットの内側から、ニコルの声が聞こえた。

 

 エボリューション・ファンネルを通してニコルと繋がっている……その安心感を感じ、マイは頷く。

 

 トライバード・アサルトに近付くにつれ、その損傷状態がはっきりと伝わってくる。

 

 そして、コクピットの周囲には赤い球体が散らばっていた。

 

 その数は、コクピットの中から流れてくる分だけ増えていく。

 

 歪んだハッチ、垂れ下がるコード、浮遊するパーツ……

 

 そんな危険な個室……コクピットの中に座っている男の姿に、マイは息をのんだ。

 

 かつてエースとして輝いていた男の面影はなく、死神に囚われて生気を失った浮浪者のようにも見えた。

 

「レジア……さん?」

 

「流石に、さん付けは無いだろ? 心と一緒に、記憶も失っちまったのか?」

 

 ヘルメット越しに、レジアが少し笑ったのが分かる。

 

「ごめんなさい……記憶はあるんです。でも……大切な人がいなくなる恐怖も、悲しみも、何も感じないんです。だから、どう接していいのかも……」

 

「大丈夫……それはマイのせいじゃない。全て、ザンスカールの……タシロの実験が悪いんだ。だが、取り戻してみせる……マイの心を。マイ、サナリィで渡したペンダント……まだ持ってるか?」

 

 マイは頷くと、首にかかっているペンダントを外しレジアの目の前に差し出した。

 

「良かった……それが鍵になる……ニコル、マイにサイコ・ウェーブを……マイ、ペンダントを握って目を閉じてくれ……」

 

 レジアの声に反応するように、エボリューション・ファンネルの赤い輝きが増す。

 

 そして、ダイヤモンドのラウンド・ブリリアントカットのような形状をしたペンダント・トップも赤く輝きだした。

 

「そのペンダント・トップはサイコフレームで出来ている。ダブルバードの開発中に、親父が造った物……そして、心の操作は強力なサイコ・ウェーブによるもの……だとしたら、サイコ・ウェーブを受けとる受け皿となるアイテムがあれば、そのアイテムが心に影響を及ぼす筈だ……」

 

 レジアの視線の先で、柔らかな光に包まれるマイの姿があった……

 

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