心の中に、光があった。
心を失った時と同じ、赤い光……
私は……私の心は、反射的に光を拒む。
赤い光に晒された時、自分の感情が吸い取られた。
大切な人を思い浮かべても何の感情も湧かなくなった……あの瞬間に、目の前にあった光……
拒まずには、いられない。
でも……ザンスカールの戦艦の中で浴びた光とは、何かが違う。
機械的で無機質な感じがした光……人を愛する感情を奪っていった光は、そんな感じだった。
でも……今、目の前にある光は……
感情的で温かさを感じる光……
同じ赤い光なのに、こんなに違う感じがするものなのだろうか……
その赤い光が、少しずつ心の中に流れ込んでくる。
その瞬間、突然視野が広がった。
視野が広がった……という表現が正しいか分からないが、心で感じるエリアが広がった……そんな感覚。
心が感じるエリアが広がった事で、見えて来たモノがある。
心の奥底で、暗闇に囚われる白い光……
あれが、分離してしまった私の心の欠片なのだろうか?
そして、私の心は落ちて行く。
次に意識が戻った時、私は暗闇の中にいた。
何も見えない暗闇の中……だけど、今までと違う……
今までは、心の一部が欠損していたから自由だったのだろう。
私が落ちた先は、きっとさっき見た白い光……
暗闇に囚われている……でも、恐怖は無い。
それは、心が満たされているから……
けど……今までとは違い、焦り始める。
早くこの暗闇を抜け出して、大切な人に会いたい……
とにかく上に……浮上を試みるも、暗闇が方向感覚を狂わせる。
慌てないで……心を落ち着けて……
何故だろう……クレナさんの言葉が心に入ってくる。
そして、クレナさんの言葉を思い出す。
暗闇の中で仲間の声を聞いて、そして手を伸ばしてくれた……
私は焦る気持ちを抑えて、耳を澄ます。
聞こえてくる……今までは聞こえなかった仲間達の声……
ニコル……クレナさん……トライバード・アサルトを修復しようとするメカニックさん達の声……
ドクン……ドクン……
心が、脈を打ち始める。
レジア……レジアは……
どんなに目を凝らしても、見えるのは闇……
それでも私は、必死に手を伸ばした。
私は何をしていたのだろう……大切な人が……命より大切な人の命が消えそうなのに……
振り回す腕に、何かドス黒いモノが触れる。
私の心を奪った時に、私の心に入ってきたザンスカールの情報の一部……
エンジェル・リングから放たれる赤い光……私の心を奪った赤い光……
その光が地球に降り注ぐ映像が、心の中で再生される。
争う心を無くさせて、平和な世の中にする?
違う……強制的に造られる平和なんて、誰も望んでない……
人は、心を操られる事を望んでいない……
心の欠片に触れるまでは、何も考えられなかった……何も感じないようにされていた。
でも、心の欠片に触れた今なら分かる……心を取り戻した時、大切な事に気付く……
心を失っていた時の自分の行動に対する嫌悪感……それが全て。
助けて……助けて!
心の中で、叫ばずにいられなかった。
「マイ! オレの声が聞こえる方に向かって、手を伸ばせ!」
懐かしい……世界で一番大切な人の力強い声に、涙が出そうになる。
私は躊躇わず、その声に向かって手を伸ばす。
「マイさん……自分の心に逆らわないで……心の動きに身を任せて……仲間達の声に耳を傾けて……大丈夫、私達が必ず引き上げるから」
静かだけど、私の事を本当に心配してくれているのが分かる。
クレナさんも、こんな感覚だったのかな……違うね、もっと辛かった筈……無理矢理、大切な仲間達と戦わされていたんだから……
でも、とても優しい……元のクレナさんだ。
クレナさんの声を聞いていると、自分も心を取り戻せる……そんな勇気が湧いてくる。
「マイ、レジアが待ってる! チンタラしてんじゃねぇ! とっとと戻って来い!」
ニコルの声と共に、赤い光が道標のように天から伸びて来る。
そして、その光を浴びた時に仲間の……大切な人達の心を感じた。
「レジア、クレナさん、ニコル!」
「マイ、もう大丈夫だ! オレ達はここにいる! そして、マイの心も!」
力強いレジアの声……クレナさんも、ニコルも感じる事が出来る。
「マイさん……よく頑張って……」
「マイ、このまま引き上げる! しっかり掴まってろ!」
皆の声に身を委ねると、身体が浮上していくのが分かる。
赤い光が濃くなっていく……そして、光に飲み込まれていった……