機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

207 / 240
ラゲーン侵攻8

「この辺りでいいか……ここなら、そう人も入って来ないだろう……」

 

 ブルー3コロニーの深い森の中に、マデアはザンスバインを降下させた。

 

 ミノフスキー・ドライブの完成品……そう言うと、リファリアに怒られてしまうかもしれない。

 

 本来、ミノフスキー粒子の排出口は2つの方が安定するらしいが……

 

 ザンスバインには、3つの排出口がある。

 

 その内の一つは武器にもなるが、リファリアには未完成を隠す為の悪足掻きだと言われそうだ。

 

 それでも、ザンスバインがザンスカール帝国に押収されて、ミノフスキー・ドライブを奪われてしまったら……

 

 リガ・ミリティアより財力のあるザンスカール帝国は、ミノフスキー・ドライブの量産を始めるだろう。

 

 そうなってしまったら、リガ・ミリティアでも、地球連邦でも太刀打ち出来なくなる。

 

 カガチやタシロの動きが正確に読めない今、ザンスカール帝国にミノフスキー・ドライブの情報を与える訳にはいかない。

 

 マデアは森の中に屈ませたザンスバインに、緑のシートを被せる。

 

「こんなトコか……ブルー3の連中は、ベスパと関わりを持っている奴は少ない筈だ。これで大丈夫だとは思うが……」

 

 ザンスバインから離れようとしたマデアは、緑のシートにフラフラと近付く老人に気付いた。

 

「なんだ、あのジィさんは? 動きがノロくて気付かなかった! 御老人、それに近付かないで頂こう」

 

 銃を構えたマデアを見て、その老人の動きが止まる。

 

 そして、真っ直ぐにマデアを見てきた。

 

 顔は確かに老人だ……動きに俊敏さも感じない……

 

 しかし、その視線は精悍さを感じ、老後の生活に向かっていく人のソレではなく、身体もよく見ると筋肉質で肩幅も広く、ただの老人ではなさそうだ。

 

「マデア少佐……ですね? 少佐がいる……ならば、それは帝国のニュータイプ専用機……と、言ったところですか?」

 

「それ以上、喋らないで頂こう。このまま何も見ずに、ここで見た事を他言無用を通してくれれば、撃たなくてすむ。オレに無駄な人殺しをさせないで欲しい」

 

 老人は頷くが、その場を離れようとはしない。

 

 寧ろ、マデアに向かって一歩を踏み出す。

 

「御老人、話を聞いていたか? それ以上近付くなら、その命を奪わなければならなくなるぞ」

 

「老い先短い我が人生……ここで殺されるのも運命でしょう。だが、そんな老人の言葉を聞いて頂けるなら、少しだけお耳をお貸し下さいませんか?」

 

 敵意を感じない言葉の柔らかさ……しかし、その言葉に篭った重さ……

 

 マデアは思わず銃を下ろしていた。

 

「御老人、オレには時間が余り無い。手短に頼む」

 

「では……私の名前はケネス・スレッグ。元、地球連邦軍の軍人です。思えば、私が在籍していた時代から連邦の腐敗は強くなっていったのかもしれん……今では、連邦軍は組織として統制がとれなくなってしまった……いや、私がいた頃から、その風潮はあったが……」

 

 マデアは銃を下ろしてはいたが、疑惑の目でケネスを見る。

 

「それで……その連邦の元軍人さんが、オレに何の用だ。連邦軍へのスカウトなら、お断りさせてもらう」

 

「少佐程の人物を扱えるなら、連邦はここまで腐っていない。連邦は、身の保身や利益の為なら、非人道的な事も平気でやる。だが、士官以下の兵は志を強く持つ者もいる。だが、それはどこの組織も同じようなモノだ」

 

 ケネスの言葉に、マデアの身体が一瞬だけ緊張した。

 

「そう……少佐の所属するザンスカール帝国も同じ……いずれ上層部は腐っていき、下の者には志だけを抱かせる。組織というのは、上の者にとって都合の良い物を作り上げる……だが、そんな組織に私は嫌気がさした。少佐は……どうなのですか? 今の帝国のやり方……私は疑問を持っています。マリア主義とギロチンを使うやり方……癒しと恐怖……最初は間違っていなかったと思います。だが、気付かれないように歪みを作っているように感じます」

 

「そうか……御老人の目には、そう写るか……だが、それについては答えられない。オレは、マリア様の意向を具現化する存在……ただ、それだけだ。悪いが、話は終わりだ。ここで見た事だけは、誰にも話さないでくれ……」

 

 マデアはそう言うと、踵を返す。

 

「昔……マフティーという組織がありましてな……」

 

 ケネスの言葉を背中で聞き、マデアの動きが止まる。

 

「マフティー・ナビーユ・エリン……か。マフティー動乱と今の情勢を同じと見ているなら……全く違うぞ。マフティーは、人類を全て宇宙に出す……言わば、シャア・アズナブルの意思を汲んだモノだ。ザンスカール帝国は……いや、ベスパは……」

 

「そう……やり方は違えど、マリア・ピァ・アーモニアの考えと同じ……シャアもマフティーも、地球に平和を取り戻そうとした。その為に、地球をクリーンにしようとした。だが、帝国の行動は地球への侵攻……地球を制圧し、乗っ取るかのように見えます。それを止めるのは、今しかない」

 

 マデアが口篭った瞬間、ケネスは捲し立てた。

 

 ザンスカール帝国は、スペースノイドの自治権を獲得する為に、人類社会のシステムの再構築が目的だった筈……

 

 地球に攻め込む必要はあるかもしれないが、制圧する必要は無い。

 

「マフティー・ナビーユは、マランビジーとなった。だが、地球連邦の……地球に済む者の膿を取り除く事は出来なかった。今で言えば、マフティーは帝国なのでしょう。しかし膿を取り除いても、新たな膿が出る。私がしなければいけない事……マフティー動乱に関わった私は、次の一手まで考えなくてはいけないのだ。今、この状況を打破出来るのはマリア・カウンター以外には無い。マリア・ピァ・アーモニアが帝国の支配から逃れ、ベスパと連邦を淘汰出来れば……」

 

「革命をするならば、戦いに勝つだけでは意味が無い……それは、間違いない。だが、オレに……オレ達に、そこまでの力は無い。革命ゴッコがしたければ、他を当たるんだな」

 

「ならば、少佐は何の為に戦っているのです? ニュータイプとしての能力がありながら……革命のキーマンであるマリアに影響を与えられる身でありながら……そして、戦局を変えられる程のモビルスーツを保有しながら……その力を行使しないとおっしゃるのですか? そもそも、勝つ事が必要なのでしょうか?」

 

 ケネスの言葉に、マデアは振り返る。

 

 ケネスに対する疑惑と、自分自身への怒りで、ケネスを睨む視線は鋭くなっていた……

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。