「囲まれている? リファリアとニコルは何をやってるんだ!」
「ミリティアン・ヴァヴを守りながら戦っているのです。それに、数が多過ぎます。流石に2人だけでは……」
全天周囲モニターの上で、マデアの乗るシートに両手を添えて立つクレナの姿は、まるで宇宙に漂っている様に見える。
エアベルトで身体を守られているマデアは、何にも支えられていないクレナが心配であった。
ミノフスキー・ドライブであれば一瞬で戦場に辿り着く事が出来るだろうが、そんな事をしたらクレナの血が逆流し沸騰する可能性もある。
戦場に着かない苛立ちが、マデアの口から溢れ出ていた。
「マデアさん、私の事は気にせずにミノフスキー・ドライブを……ミリティアン・ヴァヴを墜とされたら、何にもなりませんよ」
「そうだが……だが、君も貴重なパイロットなんだ。簡単に死なせる訳にはいかない。ニコルとリファリアなら、何とかしてくれるさ……」
唇を噛みながらも、戦況を見守る事しか出来ないマデア。
「オーティスさん、まだか……トライバード・バスターが来るまでは、俺たちは動けないんだ。早くしてくれ……」
マデアは祈る様に、ミリティアン・ヴァヴに目を向けた。
オーティスは、ブルー3コロニーの外装を点検する為の宇宙艇に乗っている。
ブルー3離脱時に点検中だった宇宙艇を見つけ、強奪した物だ。
オーティスは、宇宙艇の通信機器からミリティアン・ヴァヴへの連絡を試みてはいるが、ミノフスキー濃度が濃く繋がらない。
ザンスバインの待機する場所の座標さえ送れれば、トライバード・バスターを射出してもらえるかもしれないが……
「バスターも貴重な戦力だ。破壊される可能性が高いのに、無人で射出してくれるかどうか……どちらにせよ、通信が繋がらん事には……」
オーティスの乗る宇宙艇は、戦闘宙域のギリギリまで足を踏み入れていた。
これ以上進んだら、敵の索敵に引っ掛かる可能性が高くなる。
「まぁ……老いぼれ1人の命で、世界を変えられる可能性が残せるならば……安いモノか?」
呟いたオーティスの宇宙艇の脇を、巨大な何かが猛スピードで駆け抜けていく……
「クスィー・ガンダム? ファクトリーの地下で眠らせていた機体が何故? 操っているのは、ケネスさんか?」
巨大なモビルスーツは直ぐに姿を消し、オーティスはインカムのスイッチを入れるのと同時に宇宙艇のバーニアを全開にする。
「クスィー・ガンダム? そのモビルスーツが、戦場に向けて飛んでったのか? マフティー動乱で消失したモビルスーツ……そんな旧式で何をするつもりだ? 自殺行為だぞ!」
「おそらくケネスさんだ。地球連邦が接収した機体だが、裏ルートで手に入れていたらしい。友人が乗っていたモビルスーツと言っていたが……あれを動かす為に、ファクトリーに残ったのか……とにかく、クスィー・ガンダムの開けてくれた道を進んで通信を試みる。もう少し待っていてくれ」
マデアとの通信を切ると、クスィー・ガンダムのバーニアが残す僅かな光点を頼りに、オーティスは宇宙艇を進めていく。
「電子ジャマー……ファンネル・ミサイルを全て外して、そこに付けたパーツが役に立つ時が来るとは……しかし少佐の言う通り、旧式の大型機体だ。喰いつかれたら、的にされるぞ」
そんなオーティスの心配を余所に、クスィー・ガンダムは前進を止めた。
そして宇宙艇の動きを敵に気付かれない様に、その巨大な身体で隠す。
宇宙艇がクスィー・ガンダムの背後を通り過ぎた瞬間、ケネスは電子ジャマーのスイッチを切った。
その瞬間、ザンスカール帝国の……木星のモビルスーツ達のモニターにクスィー・ガンダムと宇宙艇の姿が晒される。
しかし、それと同時に通信も回復した。
「こちら、オーティス・アーキンズ! ミリティアン・ヴァヴ応答してくれ!」
叫んだオーティスの乗る宇宙艇の横をビームが走る。
そのビームは、ミリティアン・ヴァヴに張り付いていたクァバーゼを撃ち抜いていく。
「連邦を退役した後、暇さえあればコイツのシュミレーターをしていたんだ。サイコミュ兵器が使えなくとも、やってみせるさ」
突然現れたクスィー・ガンダムに、バラタ・タイプのモビルスーツがビームの雨を降らせる。
「そんな攻撃が、通用すると思っているのか? お前も、あんな最後じゃ嫌だろう? 前のパイロットより腕は落ちるが、最後の花道を飾らせてやる! オレの命を喰らって、最後の奇跡を見せてみろ! クスィー・G!」
降ってくるビームの雨が、まるで傘でも差しているかの様にクスィー・ガンダムの頭上で弾かれていく。
ケネスの思いを乗せたクスィー・ガンダムは、ミリティアン・ヴァヴの前に出た……