「宇宙海賊の艦……いや、傭兵部隊の艦を捕捉しました! アステロイドの海に入っていやがる!」
「敵艦を捕捉しつつ、微速前進! センサー、レーダーの捕捉距離はこちらが上の筈だ! 気付かれないように! バスター、F90Wの出撃準備はどうか?」
スフィアは傭兵部隊の艦を映すモニターを見ながら、モビルスーツ・デッキへの確認をとらせる。
「はい、両機出撃オーケーです! F90も問題ありません!」
F90W……サナリィでの戦闘時、リファリアとミュラーの手で完成させたミノフスキー・ドライブの試作ミッションパックを装備したF90。
その機体に、マグナ・マーレイ・ツヴァイのパーツでフレーム補強を施した新たなるウォーバードである。
新規パーツによる補強で、飛行形態への変形が可能。
更に飛行形態時には、試作ミノフスキー・ドライブのパーツが翼として機能する。
そう……ミノフスキー・ドライブを展開したままの飛行が可能なのだ。
「リファリアさん、F90Wはシェイクダウンも兼ねています。あまり無理はしないで下さいね」
「無理をするな……か。それは無理な相談だな。私は感情を表には出せないが……だが、人としての心を失っていないつもりだ。私の事を死ぬ直前まで信じてくれた仲間を殺した男……無理をしてでも討つ。その為のウォーバードだ」
F90の調整を直前まで行っていたオーティスは、ニーナとリファリアの通信での話を聞き呆れ顔で口を開く。
「嬢ちゃん、この男に何を言ったって無駄さ。ミノフスキー・ドライブだって、シェイクダウンだって言ってるのに最大出力が出るようにしろと言って聞かないんだ。シェイクダウンなんぞ、している暇は無いそうだ」
「我々に残されている時間は、あまりにも短い。シェイクダウン・テストをやって安全性を確認してから、前に進む……そんな悠長な事はやっていられない。この機体が最高の遊撃機になる事を、この戦闘で証明する」
リファリアはコクピットからオーティスを追い出すと、ハッチを閉める。
「ニーナ、そういう事だ。今は皆が無理をしている……しなくてはいけない時だ。このF90Wとマグナ・マーレイのパーツを合わせる作業だって、多くのメカニック達が無理をしてくれた。そのおかげで、私は出撃出来る。その私が無理をしませんなんて、言える筈がない」
「分かりました。無理するなとは言いません。でも……これだけは言わせて下さい。無理をしたメカニックの為にも、リファリアさんの事を亡くなる直前まで信じた女性の為にも……あなたは死んではいけません。そして、F90Wを壊してもいけません。私達も、出来る限りのバックアップはしますから……」
ニーナの言葉に、フフっと軽く笑ってしまったリファリアは、了解した……静かにそう言った。
リファリアとの通信を切ったニーナは、次にクレナとの通信を繋げる。
「クレナさん、バスターの調子はどうですか?」
「ええ……大丈夫です。エバンスの機体が出てきたら教えて下さい。私とリファリアさんでエバンスを叩きます」
ニーナは上を向いて、大きく息を吹く。
目を閉じると、リースティーアの声が……姿が……自然と脳内で再生される。
でも……
「クレナさん、復讐だけに囚われないで下さいね。エバンスは憎いです。だからこそ、そんな奴にクレナさんまで奪われたくありません。大丈夫……自然体で戦ったって、エバンスなんかに遅れはとらないですよ。クレナさん、リファリアさん、マデアさん……それにニコル。このチームで、負ける訳がないですよ」
「そうね……ありがとうニーナさん。おかげで、変な力が抜けたわ。リースティーアさんの為にも、バスターでリファリアさんを守らなきゃって思っていたけど……戦うのは私だけじゃない。うん……大丈夫……」
そのやり取りを聞いていた艦長のスフィアは、大きく頷く。
「ニーナ、ありがとう。2人共、私達の真の戦場はここじゃない。ただ、私達が前に進むための戦いだ。4機での連携を確認しつつ、エバンス隊を圧倒する! 力んで、無様な戦いだけはしてくれるなよ!」
「艦長、了解だ。F90ウォーバード、リファリア・アースバリ、出るぞ」
ウォーバードのバーニアの光を見送り、クレナはトライバード・バスターをカタパルトに移す。
「クレナさん、バスターはクレナさんの為の機体です。少なくともミリティアン・ヴァヴのクルーは、メカニックも含めて全員がそう思っています。それに……きっとリースティーアさんが戦えない状態だったとしたら、やっぱりクレナさんにバスターを託したと思います。常に周りの事を考えて、全員が生存出来る可能性が高くなる動きをする。リースティーアさんも言っていました。シュラク隊の生存率が高いのは、クレナさんの動きのおかげだって……」
「そう……ですか……でも、きっと私の動きは罪悪感から……皆を裏切っている事を知っていた私の心が、無意識にそう動いていたに過ぎないわ……だから……」
クレナは、トライバード・バスターの操縦桿をギュッと握る。
「だから、今も罪悪感を感じながら戦っているのか? 死んでいった仲間も、自分の責任だと? だが、本当にそうか? 先の戦闘で、バスターを受け取った瞬間にクスィーに纏わり付いていた敵を真っ先に蹴散らしてくれたのも罪悪感からか? いや、違う筈だ。考えて動いているのなら、クスィーなんて旧式も、私のような老人も助ける必要はない。断言しよう……貴女は優しく、そして周りの状況をよく把握出来る人だ。罪悪感を感じていようがいまいが、貴女は私を助け……全てを守る為に全力で戦っていた筈だ!」
「そうですよ、クレナさん。確かに、感じる事は沢山あるかもしれない。罪悪感だってあるかもしれない。でも、クレナさんの本質を見誤る程、私も、リースティーアさんも、シュラク隊の皆も、そんなに瞳は濁っていないんです。自信を持って下さい……そして私達の事、守って下さいね」
ケネスとニーナの言葉は、クレナの迷いを消していた。
リースティーアの様にピンポイントの射撃で敵の部隊に風穴を開ける事も、レジアの様に敵陣深く切り込んで各個撃破する事も、自分には出来ない。
バスターの名を冠するモビルスーツなのだから、リースティーアの様に射撃をして……
トライバードの名を冠するのだから、レジアの様にリガ・ミリティアの希望となる様に戦わなくてはいけない……
そんなプレッシャーに押し潰されそうになっていたのも事実だ。
「私は私の戦いを……バスターと共に……」
クレナは、トライバード・バスターの操縦桿を再び強く握る。
「トライバード・バスターは、クレナ・カネーシャで行きます! フォロー、よろしくお願いします!」
クレナの声と共に、トライバード・バスターはアステロイドの海の中に飛び込んでいった……