「艦長、ウォーバード及びバスター、作戦目標宙域に到達! 敵戦艦に捕捉されている形跡もありません!」
「よし……ダブルバード、ザンスバイン出撃と同時に作戦開始! 目標は敵戦艦の破壊及びエバンス機の撃墜! マデアさん、ニコルを頼みます!」
スフィアの言葉をザンスバインのコクピットで聞いたマデアは、メカニックに合図をしてからハッチを閉じる。
「ニコル、パイロットの命を奪わない戦いを続けるのなら、この戦いで見極めろ! 先の戦闘で使ったプラズマ・ブースターによるビームの増大・加速させるような兵器は、どんな兵士だろうが問答無用で消し去ってしまう。だが……面と向かって戦った相手なら、分かる筈だ。そして、俺達は戦争をしている。手心を加えた相手に、自分や仲間が殺されるかもしれないって事を忘れるなよ!」
「分かってる! けど……敵だったとしても、話せば心を通わす事が出来るかもしれない! 今……マデアさんと話しているように!」
「だからこそ、通わせろ! オレもお前もニュータイプなんだ……なら、出来る筈だ!」
マデアは一呼吸置いてから、操縦桿を握る。
「艦長、ミノフスキー粒子を戦闘濃度で散布! 敵の意識をこちらに向けるぞ! ザンスバイン、マデア・スライト……出るぞ!」
カタパルトから射出されたザンスバインは、赤き翼を纏い加速を開始した。
「ダブルバード・ガンダム……ニコル・オレスケス、行きます!」
赤き翼をモニター越しに確認したニコルは、カタパルトにダブルバード・ガンダムを乗せ、出撃体勢をとる。
「ニコル、私達の事……守ってよ! リガ・ミリティアの希望の翼で、私達に勇気と自信をちょうだい!」
ニコルは親指を立てると、加速Gに身を委ねた。
「ザンスバイン、ダブルバード、両機とも問題なく出撃しました!」
「ミリティアン・ヴァヴ、ミノフスキー粒子を散布しつつ最大戦速! 次いで、主砲照準! 敵の艦に風穴を開けてやれ!」
ミリティアン・ヴァヴのメイン・エンジンに火が入り、バーニアが噴射する。
そして、ミリティアン・ヴァヴのメガ粒子砲が開戦の合図となった。
「来るぞ、ニコル!」
展開を開始したリグ・ラングが素早い動きで編隊を組み、行動を開始し始める。
「早いな……流石は傭兵部隊といったところか……だが、ミノフスキー・ドライブの加速にはついて来れまい!」
ザンスバインのミノフスキー・ドライブが、更に赤く輝く。
過剰粒子の放出が、正に翼に見える……そして、翼がはためいた瞬間……
赤い閃光が、傭兵部隊の小隊の中心を貫いた。
ドオオォォォォン!
閃光が通り過ぎた数秒後に、断続的な爆発音が響き出す。
「突っ込んだだけで、全機撃墜……あれじゃ、プラズマ・ブースターを使ったビームと変わらないじゃないか! 問答無用もいいトコだ!」
ニコルはエボリューション・ファンネルを展開させると、ミノフスキー・ドライブの翼を広げる。
そして……目の前に展開していたリグ・ラングの部隊がビームを放った瞬間……ダブルバード・ガンダムはエボリューション・ファンネルを残して姿を消す。
「なっ……」
驚いたリグ・ラングのパイロット達に襲いかかったのは、前方と下からのビームの雨……
エボリューション・ファンネルとダブルバード・ガンダムから放たれるビームは、リグ・ラングの頭を……腕を……足を……確実にもぎ取っていく。
「それで帰れる筈だ! 次っ!」
叫んだニコルの横を、リグ・ラングの一団が最大戦速で通り過ぎる。
「なんだ? うわぁ!」
ニコルが破壊したリグ・ラングの核融合炉に、容赦のない……無慈悲なビームが貫いた。
リグ・ラングの核爆発によって、モニターを埋め尽くす程の眩しい閃光が発生する。
突然の光に、ニコルの視界は完全に失われていた。
視界が開けたニコルは、ミリティアン・ヴァヴに向かってバーニア全開で進むリグ・ラングの背中を見る。
「させるかよ! ミノフスキー・ドライブなら、直ぐに追い付く!」
叫んだニコルの正面に、リグ・ラングが立ち塞がった。
その手に握られている鎖の様なモノ……その先端には、先程ニコルが動けなくしたリグ・ラングの胴体が突き刺さっている。
「何してるんだ!」
そんなニコルの言葉を無視して、リグ・ラングは胴体を振り回して攻撃してきた。
「何なんだ……何なんだよ、コイツ!」
「動揺を誘って、時間稼ぎしているだけだ! 落ち着け、ニコル!」
狂気的な動きをしているリグ・ラングのコクピットに、ビームが放たれる。
光がコクピットを貫通し、リグ・ラングは糸の切れた人形の様に動きを止めた。
「ニコル、奴らの狙いはミリティアン・ヴァヴだ! 始めから、自分達の艦は捨てるつもりだったようだな……」
ウォーバードとトライバード・バスターによって、簡単に破壊される傭兵部隊の艦……その爆発を見ようともせず、ミリティアン・ヴァヴに迫る傭兵部隊のリグ・ラング。
「流石……と、言うべきか。こちらの戦力は、モビルスーツ4機だと最初から予測していた。遊撃で2機、迎撃で2機……最初から自分達の艦は捨て、ミリティアン・ヴァヴを奪うつもりだったんだ!」
「なら……エバンスって野郎は、ミリティアン・ヴァヴに向かったって事だね。傭兵の戦い方……マデアさんの言っていた事、何となく分かったよ。感じてみせる……ダブルバードと、エボリューション・ファンネルで!」
ミノフスキー・ドライブの翼を展開したダブルバード・ガンダムが、その機体を赤く染めていく。
サイコフレームが輝き……そして、ミリティアン・ヴァヴの格納庫が開き始めた。
「エバンスとやら、相手が悪すぎたな……そして、怒らしてはいけない男を怒らした。かなりの切れ者らしいが、リファリア・アースバリの方が一枚上手だ。残念ながら……な」
マデアは、同じ宙域に漂っていた破損したリグ・ラングにビーム・ライフルを向ける。
「さて……せっかくニコルに助けられた命だ。ここで死ぬか、俺達と死への航海に旅立つか……選ばせてやるぞ」
リグ・ラングのパイロット達は、尽くマデアの軍門に下っていった……
「隊長、このまま敵の艦を奪えちまいそうですな! レジスタンスなんぞ、所詮は民間人の集まりにすぎねぇって事ですな!」
「馬鹿野郎! 油断すんじゃねぇ! 奴らのモビルスーツには、ミノフスキー・ドライブが搭載されていやがる。距離なんざ、一瞬で詰められるぞ! とにかく、迅速に作戦を遂行するんだ!」
部下を怒鳴ったエバンスの声色は、焦りの感情を帯びている。
それ程に、エバンスには余裕が無かった。
簡単に事が運び過ぎている……こういう時は、敵の策に嵌まっている事が多い……戦場で多くの経験を積んでいるエバンスは、本能的に感じてしまう。
「隊長! うわぁぁぁぁぁぁ!」
エバンスの横で、リグ・ラングが破壊された。
「ミノフスキー・ドライブたって、いくらなんでも早過ぎる! 何が起きた!」
闇に走る閃光を感じ、エバンスは咄嗟に回避行動をとる。
センサーに反応の無い場所……モビルスーツの全天周囲モニターに映し出されない……何も無い場所からビームの閃光が突然走り、襲い掛かってきた。
「ステルス系の兵器でもあるってのかよ! 熱源センサーしか反応しねぇ!」
次々と爆発していく味方機……そんな中、味方機を盾にしながら、エバンスはミリティアン・ヴァヴのブリッジに迫っていく。
宇宙細菌をブリッジに流し込むと脅し、敵戦力を無効化する……
そんな考えは、一筋の長距離ビームによって崩された。
「リファリアさん、捉えました! エバンス機!」
「ああ……ミノフスキー・ドライブの加速の中での、その射撃精度。充分に自慢してもいい程の腕だ。さぁ……ナイトハルト・エバンス。ここで決着をつける」
ミリティアン・ヴァヴとエバンス機の間に割って入ったメガ・ビーム・キャノンから放たれたビーム……
そしてエバンスのリグ・ラングの前に、リファリアのF90ウォーバードが立ち塞がった……