機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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ラゲーン侵攻27

 

「形勢逆転……とでも言いだしそうじゃねぇか! だがよ……切り札は、まだコッチにあるんだよ!」

 

 中央にカプセルの様な物が括り付けられているショットランサーを、リグ・ラングは見せ付けるように掲げる。

 

「宇宙細菌か……ランサーでミリティアン・ヴァヴの装甲を破壊して、死の艦にでもするつもりか……」

 

 エバンスが搭乗するリグ・ラングは、宇宙細菌入りのカプセルが括り付けられたショットランサーをミリティアン・ヴァヴのブリッジに向けると、F90ウォーバードとの距離を詰めていく。

 

「リファリアさん、あれ……撃たれたら、ミリティアン・ヴァヴが!」

 

「クレナ、仮にアレがミリティアン・ヴァヴのブリッジに直撃して艦内に宇宙細菌が充満したら、奴らは完全に足を失う事になる。そんな暴挙に出るとは思えない。だが、油断は禁物だ。奴がランサーを撃ったら、撃ち落とてくれ」

 

 クレナを落ち着かせる為に冷静な口調で言葉を発したリファリアだったが、同時に嫌な予感もしていた。

 

 エバンスは凄腕の傭兵であり、優れた戦術家でもある。

 

 こんな場所で足を失えば致命的な事ぐらい分かっている……そして、死なば諸共……そんな考えは持ち合わせていないだろう。

 

 少なくとも、自分が助かる為の策の一つや二つは用意している筈……

 

「だが……マグナ・マーレイ・ツヴァイの装甲で補強したウォーバードなら、ミノフスキー・ドライブの加減速にも対応出来る。奴が策を弄する前に墜としてみせれば……」

 

 F90ウォーバードのバーニアに火が入り、ミノフスキー・ドライブの翼が開く……開こうとした、その瞬間……

 

 鋭く尖ったビームが、F90ウォーバードを強襲した。

 

 爆発が起こり、F90ウォーバードは弾き飛ばされる。

 

「リファリアさん! ごめんなさい、私が気付けなかったから……一体、どこから撃ってきたの?」

 

「エネルギーを絞って撃ってきている……射撃が完璧ならば、墜とされていたかもしれん……だが、初手で墜とせなかったのは残念だったな」

 

 リファリアはビームを受けて爆発したフレキシブルパーツをパージして、索敵モードに入った。

 

 リファリアの被る仮面の外側から無数のコードが伸びており、リファリアの脳波をバイオ・コンピュータが直接受信する。

 

 そしてバイオ・コンピュータが弾き出したデータが、今度はリファリアの脳に流れ込む。

 

「クレナ、3時方向から2機……いや、3機だ。動きを遅らせてくれ。マデア、ニコル……援護頼むぞ」

 

 バイオ・コンピュータによって増幅されたリファリアの思念が、高度なサイコミュ・システムを持つザンスバインとダブルバードに送られる。

 

「リファリア、了解した。ニコル、ミノフスキー・ドライブを使って突っ込むぞ! 敵さんが攻撃陣形を組む前に叩く!」

 

「了解! ダブルバード、ミノフスキー・ドライブ展開! 閃光になれ、ガンダム!」

 

 2つの翼が光となり、宇宙を構築する闇に閃光を描き出す。

 

 閃光……そう呼ぶに相応しい。

 

 F90ウォーバードを強襲したモビルスーツの目の前まで一瞬で移動したザンスバインとダブルバードは、ピエロの様な風貌の2機に喰いついた。

 

 ザンスバインは無駄のない動きでMDU(ミノフスキー・ドライブ・ユニット)を取り外すと、扇状にビームを伸ばす。

 

 そのビームは、スラッと伸びたピエロの足を切断した。

 

 ダブルバードの構えたダブル・バスターライフルから放たれたビームは、ピエロの乗っかっていたボールを貫く。

 

 その一連の流れは、スムーズ過ぎた。

 

 そして無駄の無い動きによって繰り出された攻撃は、同じタイミングでの攻撃になり、一瞬の静寂の後に同時に爆発音が響く事になる。

 

「下がれ! ミノフスキー・ドライブ……完成品にお目にかかれるとはな……これでは、相手にならん!」

 

 緑色のガンダム……3機の真ん中にいた機体は、損傷した2機のピエロの様な機体の手を取った。

 

「コッチのは未完成どころか、システムの殆どを切らねぇと動かす事も出来ねぇってのに! エバンスの持ってきたサブOSで辛うじて動いている機体で、コイツらとやり合うのは不可能だ! 一旦、宇宙細菌はお預けだ!」

 

 緑のガンダムは、炎に包まれた……いや、光の炎を纏ったかの様に見える。

 

「離脱するだけだ! 持ってくれよ、ファントム!」

 

 炎を纏ったまま高速で後退するモビルスーツを、マデアとニコルは相手にしなかった。

 

「マデアさん、あの炎みたいなヤツは……」

 

「未完成ミノフスキー・ドライブってとこか? ダブルバードのMDUより、更に未完成のようだ。現時点であの程度の技術力しか無いのならば、脅威にはならんだろう。一応、データはリファリアに見せた方が良さそうだが……」

 

 保存された映像データを確認したマデアは、リファリアが戦っているであろう戦場の方角へ目を向ける。

 

「しかし……今の敵は何だったんだ? 大して戦う訳でもなく、エバンスって奴を助ける訳でもない。金で繋がっていただけ……って事なのか?」

 

 マデアは大きく息を吐き……ザンスバインをミリティアン・ヴァヴに向けて動かし始めた。

 

 

「サーカス! ヴェスバーを一発だけ撃って逃げるって、どういうつもりだ! コイツらを倒せば、バイオ・コンピュータもミノフスキー・ドライブの完成品も手に入るってのに!」

 

「傭兵如きが、マデアとニコルを……帝国とレジスタンスのニュータイプを相手に出来るとでも思っていたのか? サナリィの時とは違う……今お前が相手にしているのは、希望のバトンを受け継ぎ、引き継ぐ者達だ。強さの根本が違う」

 

 リグ・ラングのビームを躱し確実に間合いを詰めて来るF90ウォーバードに、エバンスは戸惑いながらも状況を分析していた。

 

 ミノフスキー・ドライブを搭載しているとはいえ、対峙している機体……ベースのF90は旧式の機体……慌てる事はない。

 

 プロトタイプの3機は、援護に来るにしても距離がある。

 

 目の前の敵を破壊し、敵の戦艦を人質にする……それで詰みだ。

 

「直線加速だけ上回れても、細かな機動力はコチラが上だ! ビームに焼かれて、大人しく死にな!」

 

 細かく動き回り、雨の如く放たれるビームに晒されるF90は装甲を焼かれていく。

 

 エバンスの言う通り、F90とラングとでは機体性能に圧倒的な差がある。

 

 だが……

 

 リグ・ラングの下半身が、トライバード・バスターから放たれた長距離高出力ビームによって消失した。

 

「なんだ? 何が起こった?」

 

「機体性能で優位に立てたのなら、いたぶらずに一気に決めた方が良かったな。何かあると怖がり、遠距離から攻撃していた貴様の弱い心を恥じながら旅立て。ナイトハルト・エバンス……」

 

 ミノフスキー・ドライブの翼が羽ばたき……ビームサーベルの光が、リグ・ラングのコクピットを貫き……最後の咆哮が如く、ショットランサーが宇宙の闇に放たれた……

 


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