「ボイズンさん、例のモビルスーツ……組み立ては終わったかい?」
「大佐……もう少しかかりますな。ガルド整備長にも手伝ってもらってますが、他のモビルスーツの整備もありますので……」
ウーイッグ近郊にあるリガ・ミリティアの基地にて、数機のモビルスーツに混じって立つ組み立て中の青い機体をエルネスティとボイズンは見上げる。
寒色の青……いや、白みを帯びた色……白群と言うべきか……
まるで塗装前の様な装甲だが、エルネスティは満足気に頷いた。
「いいね。この機体なら、彼らの横で戦う事を許されるかな? 白い機体でなければ、意味がない」
「連邦軍基地の全てのチャンネルは押さえられたのですか? 放送出来ないのでは、今回の作戦が水の泡になる。それだけは、避けてもらわないと……」
ボイズンは油の付いた手袋を気にする様子も無く、その手袋を付けたまま髪の毛をグシャグシャと掻き回す。
「問題ない……今回の作戦は、全員命懸けだ。死ぬ覚悟で全員挑んでいる。だからこそ、リガ・ミリティアも乗ってくれたのだろう? 連邦軍の……一部の部隊だけの暴挙に……」
「そりゃ……まぁ。個人的には、ニコルの生存確率を少しでも上げたいってだけなんですがね……ニュータイプなんて呼ばれても、奴はまだガキだ。そして……オレは、そんなガキを戦争に巻き込んじまった。だから、出来る事はやっておきたい……それだけなんだよ……」
ウーイッグ基地の財源は、ウーイッグに家族や親族が住んでいる財団の役員達が出資している。
ウーイッグを守る為の資金を、リガ・ミリティアに提供していた。
その資金から、エルネスティ専用のモビルスーツをロールアウトしようとしている。
連邦の碧き閃光……エルネスティ・アーサーがウーイッグを守ってくれると信じ、積極的な出資が行われた。
連邦軍にて配備されている現状の軍備では、ザンスカール帝国のベスパに太刀打ち出来ない……
そう考えるのは、普通であろう。
「だから、ニコルの命を守った上で連邦軍が息を吹き返してくれさえすりゃ、万々歳だ。ウーイッグの基地とオレの命だけで済むんなら、安いモンだ……」
「そうだな……だが、それすら難しいかもしれない。我々の命を犠牲にしても、ウーイッグの町を犠牲にしても……それでも、何も変わらないかもしれない。だが、やらなければ滅ぼされるだけだ。我々の信念ごと、ザンスカールに喰い尽くされる」
エルネスティはボイズンの肩を軽く叩くと、白いモビルスーツに歩を進めた。
「エル! 何突っ立ってんだ! 暇なら手伝え!」
ガルドから発せられるの大きな声の方へ、エルネスティは視線を向ける。
リガ・ミリティアと連邦とアナハイムの人達が、必死にモビルスーツを組み立てている姿が瞳に飛び込んできた。
組織が違っても協力出来るのに、同じ組織でも向かう方向が違う。
自分達の安住の地を守りたい者……無理してまで争いごとに首を突っ込みたくない者……親しい人達を救いたい者……
地球連邦の中で、ただ仕事をこなしていれば全てが維持出来る。
得に不自由の無い生活が約束されるのだ。
その生活を捨ててでも、地球連邦軍として戦いたい人達……正しいと思う事に命を懸けようとしてくるている仲間達に、エルネスティは心の中で感謝をしていた。
地球連邦軍に入軍する時は、世界の治安を守りたいと思う人が殆どだ。
その気持ちが、安定した収入と安定した生活によって、地球連邦の考えに染まっていく……保守的になっていく……
だが……根本にある気持ちは、皆が同じ筈なのだ。
その心を揺さぶる事さえ出来たのなら……
「新しい組織が天下を取れば、それは歴史を1から繰り返してしまうだけになる。今まで過ちを繰り返して来た我々が変われたのなら、それが人々にとって一番良い筈なんだ。今ではなく、未来を変える為に……」
エルネスティは呟く。
ザンスカール帝国の軍隊は強い……その強さは、カイラスギリー艦隊とズガン艦隊に象徴される。
その内の一つでも無力化出来たなら、地球連邦軍が奮い立つキッカケぐらいにはなるかもしれない。
簡単な事ではない……それでも、進むしかない……
ウーイッグ基地の防衛の為ではなく、未来の為に資金を使ってくれたリガ・ミリティアの人達の気持ちに応える為にも……
エルネスティは強い瞳で、もう一度白群のモビルスーツを見上げた……