「町の人達の避難を優先して! マイさんも! 早くコッチに!」
ウーイッグ郊外で始まった戦闘は、徐々に市街地に迫っている。
地球降下部隊は思ったより少なく、ウーイッグのリガ・ミリティアは辛うじて戦線を維持していた。
それでもザンスカール帝国主力モビルスーツ、ゾロの投入で、苦しい戦いを強いられている。
地球連邦政府は政治的判断から、ウーイッグ防衛戦に最低限のモビルスーツを送り出すに留めていた。
地球連邦軍の旧式モビルスーツ、ジェムズガンではゾロに太刀打ちできず、リガ・ミリティアのガンイージが主に戦っている。
ガンイージの機体数は多くない……地球にある工場の半数以上でVガンダムのパーツ開発と生産をしていたのだから、無理もない。
マイの手を引っ張りながら、マーベットは唇を噛みしめる。
「マーベットさん、私病院に寄って赤ちゃんを連れて来ます!」
「そうだったわね……とにかく、基地のシェルターに急いで! 今のところは抑えられそうだけど……敵に増援が来たら、直ぐにここも戦場になるわ!」
マイは頷くと、病院に向かって走り出す。
検査のために病院に連れて行き、忘れ物を取りに帰った一瞬……その時、警報が鳴り空から敵が降ってきた。
こんな事なら、忘れ物なんて取りに帰らなければよかった……でも……
帰った事で、レジアとの思い出の品を持ち出す事が出来た。
これさえあれば、強くなれる。
自分の力で……何としても、カルルを守る勇気を……
マイは、走る足に力を込めた……
「ズガン艦隊、捕捉しました! こちらの予測位置と変わりありません!」
「だろうな。第1艦隊の本隊が、修復中のカイラスギリーを離れるとは考えられない。構えてはいるだろうが……」
レーダーでギリギリ捕捉した……光点にしか見えない艦隊を見ながら、リファリアは静かに言う。
「余裕があって当然でしょうね。レジアが倒れて、リガ・ミリティアの影響力は弱くなった。たった1人だけど、英雄が……希望が失われた。リガ・ミリティアに協力しようって人達も減ってしまった。正直、もう敵はいないって思ってるでしょうね」
「申し訳ないな。連邦軍がもっとしっかりしていれば……」
スフィアの言葉に、頭を垂れるエルネスティ……
地球連邦軍は情けない……だが、それは組織が腐っているだけだ。
個人では腐ってない人もいる筈……必ず、間違っていると叫んでくれる人がいる。
「エルネスティ、何回も聞いたぞ。今回の戦いで、救われる人は少ないかもしれない。人を操る装置も、人を大量に殺す兵器も、今回は破壊出来ないかもしれない。だが、必要なのは次だ。それで足りなければ、その次だ。受け継いで欲しい事を、背中で見せつけるんだ。そうすれば我々の意思を継いだ誰かが、きっと成し遂げてくれる。人の心は、何度腐っても何度でも輝きを取り戻せる。そうだろ?」
「そうですね……その為に、最後の輝きを……ガンダムと共に……」
後ろ向きに倒れる事は許されない……倒れるなら前に……エルネスティは、その心に灯をつけた……
「ダブルバード、及びザンスバインはビッグ・キャノンに先制攻撃! その攻撃に合わせて、全機攻撃を開始します。ガルドさん、回線は問題無いですか?」
「ああ、しっかり映像は地球連邦に届けてやるぜ! ブラックボックスへのデータ記録も問題ねぇ!」
スフィアは頷くと、モビルスーツ射出デッキに視線を移し……そして立ち上がる。
「今回の戦い、これで最後になるかもしれない! 1人も生き残れないかもしれない! でも、私達は他の人達の心の中で生き続ける! 他の人達の心に刻み込む! 忘れたくても忘れられないぐらい強く! 刻み込みましょう! 私達の最後の光を! 私達は人として間違ってない! 自分達の意思で戦い、自分達の意思で平和を掴み取る! 操られて……心を押し潰されて得られる平和なんていらない! 独裁者1人を崇めるような平和はいらない! 見せつけてやりましょう! 私達が!」
艦長スフィアの声が、ミリティアン・ヴァヴの艦内に響き渡った。
「艦長、機械の心にも響いたぞ。F90ウォーバード、リファリア・アースバリ、出るぞ」
F90ウォーバードのバーニアの光を見ながら、エルネスティは操縦桿に手を添える。
「エル、怖いか?」
「そんな訳ないだろ? 地球連邦軍の自分が怖がってられる筈がない。ガルド、バスターとマグナ・マーレイは補給が必要になる。戦いが男の仕事だと言うつもりはない。だが……」
「分かってるよ。出来る限り、生存率を上げてみるさ。お前も……必ず死ななきゃいけねぇって事はないんだからな!」
エルネスティはガルドに見えてないと分かりつつも、コクピットでサムズアップした。
「フェニックス・ガンダムは、エルネスティ・アーサーで出る!」
フェニックス・ガンダムは碧の閃光となり、漆黒の宇宙に飛び出した……