「トライバード・バスター、出撃シークエンス……クリア! いつでも行けます!」
「クレナ、バスターは中長距離の支援機よ。そして貴女は、バスターを使いこなせている。レジアでもリースティーアでもない、貴女の為の機体になったの。だから、自信を持って……バスターを信じて……」
スフィアの言葉に、クレナは目を閉じて静かに頷く。
レジアが乗っていたら……リースティーアが操っていたら……そんな事、考えるだけ無駄だ。
レジアの為に……リースティーアの為に……2人の為に造られたとしても、今は関係ない。
操縦するのは、結局私なのだから……
クレナは、コクピットの脇に吊り下げたレジアの腕時計に視線を移す。
主を失っても、今も尚……時を刻み続ける。
何か不思議にも感じたが、結局はそういう事なんだとも思う。
死とは、本人や周りの大切な人達には、とても苦しい事だ。
しかし、それ以外の人には何て事も無い事……
けれど……その何て無い事が、その人の事を伝える人達によって小さな波となり……やがて大きな波となって、世界を変える力になるかもしれない。
闇の中で差し出された手……その温もりを感じたのは、私だけだった。
でも、その光の価値を伝える事は出来る。
自分の時間が止まっても、伝わった意志は……光は……止まる事なく時を刻み続けるだろう。
伝える意志が続く限りは……
「だから、途絶えさせる訳にはいかない……大切な人達の思い……関係ないって思っている人達の心にも届けてみせる。その為に……力を借してね……トライバード……」
コンソールから指先に伝わる冷たい感覚が、トライバードに灯が入る事によって少し温かくなる。
レジアとリースティーアから手を握られている様な感覚に、クレナの心にも灯が点った。
「心……か……取り戻せて良かった……身体は造られた物でも、この心は自分で育くんだから……大切な人達に取り戻してもらった大切なモノだから……もう二度と操らせない……」
射出口に向かうトライバード・バスターの中で、クレナは静かに……しかし力強く、決意を口にした……
「マグナ・マーレイ・トリプルシックス……アステーラ、いけるか?」
「マスター、準備オーケーだよ! 私……マスターや皆の力になれるように、頑張るね!」
小型化をしたといっても6器の大型バインダーを装備したマグナ・マーレイ・トリプルシックスは、ミリティアン・ヴァヴのモビルスーツ・デッキに収納する事が難しかった。
マグナ・マーレイ・トリプルシックスの組み立ては出撃の直前に船外で行われ、その後はミリティアン・ヴァヴに引っ張られている。
そのコクピットで、アステーラは複雑な操作系システムの最終調整を行っていた。
豊富な武装も、局面を打開出来る力も、使いこなせなければ意味がない。
それでも、それが出来てしまう自分自身に、アステーラは自分が強化人間だと思い知らされてしまう。
自分は兵器なんだって……戦争の中じゃなきゃ生きられないんだって……
それでも……そうじゃないって……心があれば……考える事が出来れば、それならば人として生きる権利があると言ってくれる人が……人達がいる。
その人達の言葉は……行動は、いつも胸を温めてくれた。
だから、信じてみたいと思う。
自分の力で、大切な人達を助けられたら……救えたら、どんなに素敵だろう……
「私はマスターを……皆を助ける。私が目覚めた事に意味を持たせるなら、それしかない。もう逃げない……皆を置いて逃げない。全滅するかもって言ってたけど、そんな事は関係ない。私が……やるんだ!」
敵の大軍に、戦艦1隻とモビルスーツ6機で挑む……全員生き残るなんて不可能……それでも、アステーラは挑戦する事を決めた。
「アステーラ、気負うなよ! 高過ぎる目標は破綻する。一歩ずつでいいんだ。大丈夫……皆で戦うんだ。こんなに心強い事はない」
マデアはそう言うと、モニターを離れザンスバインのコクピットに戻る。
「アステーラ……すまんな。だが、誰かがやらなきゃならん仕事だ。オレ達は力を示す。お前は希望を繋げてくれ……」
呟き……そして……
「マリア、絶望しても操られるなよ。そしてアシリアを……頼むぞ、アーシィ。あの子の素養は、マリアを凌ぐ可能性がある。それをカガチに知られたら……いや、今はズガン艦隊から無敵の2文字を剥ぎ取る事だけに集中する。たとえ今まで連戦連勝だとしても、6機のモビルスーツに大敗すれば流れが変わる筈だ。タイタニアとレシェフの部隊は、確実に殲滅しなければな……」
マデアは、己の目標を口にし……そして笑う。
「高過ぎる目標……か。アステーラ程じゃないが、これもなかなか大層な目標だ……だが、譲れん。この最低目標だけは……」
ザンスバインの足をカタパルトに乗せながら、漆黒の宇宙を見る。
宇宙は、それぞれの思いを飲み込みながら、決戦の時を静かに待っていた……