「ニコル、ダブルバード・ガンダムをカタパルトに移動させて。いよいよ、最終決戦だね……」
「最初はさ……戦争なんて、遠い世界で起きている事って思ってた。平和な地球から宇宙を見上げて、何の為に戦っているかも分からずに、ただ漠然と傍観してた。自分が戦争で死ぬかもしれないなんて考えもしなかったし、自分の大切な人達が死んでいくなんて思ってもいなかった。自分の手で人を殺すなんて、想像すらしてなかった。自分は特別だって……他の人とは違うって……変な勘違いまでしてた。でも違った……どんな人にだって、その人が主人公の物語を紡いでいるんだって……簡単に消していい命なんてない。だから……戦争なんて、絶対にダメなんだ。命は消すモノじゃない……紡ぐモノなんだって……だから、行ってくる! この戦いの未来に、平和が待っている事を信じて!」
ニーナに移動を促された瞬間、ニコルは自分の思いを吐き出していた。
ニーナに対してじゃなく、誰に対してでもない。
ただ、何故だか口から言葉が溢れていた。
「ニコル、大人になったね。そうだよ……全ての人に平等の時間が流れて、その中で楽しい事、辛い事……大切にしたい思い出が紡がれていく。地球に住んでいる人を羨ましいって、自由にお金を使える人が羨ましいって……それはそうだよ。でもさ、宇宙で暮らしていたって楽しい事はある。お金がなくたって、かけがえのない人達に出会えるかもしれない。殺して得られる幸せなんて……多くの人の物語を終わらせて掴む幸せなんて……」
ニーナはそう言うと、自分の言葉に思わず吹き出してしまった。
「ねぇ……私達、兵器を扱って戦争してるんだよ? 何の会話してるんだろうね?」
「だね! けどさ……今は兵器として使っているモノも、いずれは平和の為の道具になるかもしれない。サイコミュだって、今のニーナの思いを伝える道具になるかもしれない。ニュータイプだって、ニューじゃなくなる日がきっとくる。その時に、多くの人の温かい思いが伝達されていくといいね。強制的に従わせるんじゃなくて、自然と……」
ニコルはモニター越しに、漆黒の宇宙に目を向けた。
色々な綺麗事を言っても結局は自分も戦争をし、人を殺せる兵器に乗っている。
「結局は、自分が信じた事をやっていくしかないんだ……その先で、必ず争いは起きる。だからこそ、コミュニケーションが必要なんだ。その時は力になってくれよ! ファンネルを使う事だけが、お前の仕事じゃないぞ!」
サイコフレームが内蔵されたフレームを軽く叩き、その手でニコルは自分の頰を2度叩いた。
「矛盾してたって何だって、今は戦うしない! けど、無駄な戦いには絶対にしない! 人は必ず進化する! 信じて……今は前に!」
ニコルはカタパルトに、ダブルバード・ガンダムの両足を乗せる。
「ニコル・オレスケス! ダブルバード・ガンダム! 行きます!」
カタパルトから飛び出したダブルバード・ガンダムは、バーニアに光を宿す。
「ニコル、いよいよだな。失敗は許されない戦いだ。それでも、不殺を貫き通すつもりか?」
先行して出撃していたザンスバインが減速してダブルバード・ガンダムの横に並び、そのマニピュレーターがニコル機の肩を掴む。
「マデアさん……やっぱりオレは、人を殺したくない。何度も言ってるけど、分かり合えたかもしれない……友達や大切な人になっていたかもしれない人達を殺す事なんて、できやしない。今までの戦いで、多くの人の考えや思いを聞いて、自分自身で出した答えなんだ。だから、申し訳ないけど……」
ニコルの返事を聞いたマデアは、大きな溜息と同時に髪の毛をグシャグシャと掻きむしった。
「そう言うとは思ってた……その考えを否定する気も無い。だがな……人の中には、本当の悪意を持っている奴がいる。意味も無く人を傷つけ、自分の幸福感を得るだけの奴がな。戦争を裏で操ってる奴……モビルスーツで人を踏み潰すような奴……そんな奴が目の前に現れたなら、その時は躊躇うな。そういう悪意こそが、次の戦争を呼び込む。人を争わせて金儲けを企む連中、戦争だからと人を楽しんで殺す連中……その考えこそ淘汰すべきだと、オレは思う。それは、争う心を消す事じゃない。人を苦しめる事で幸福を得ようとする……その腐った心を見つけろ」
「サイコミュで悪意を感じ取って、倒すべき相手を選別しろって事? そんな神様みたいな真似、出来る訳がない!」
「出来るさ……オレ達は何て呼ばれてる? ニュータイプだぞ……ニュータイプが、本当の悪を見つけられなくてどうする? そもそもニュータイプ同士が分かり合えなくて、どうして人類の革新が起きる? ニコル、オレはな……サイコミュを通して流れる力が、人にも自分にも伝わると思っている。自分の考えと相手の考えを共有出来る……正の感情も、負の感情も、全てな」
マデアの言っている事……ニコルには分かる気がした。
地球で、その感覚を知った。
シャクティさんの気持ちが自分の心に入ってきた時、時間が止まった感じがした。
モビルスーツの中と外……話せる筈もないのに、シャクティさんと話した……そう思えるぐらいの感覚があった。
それが全ての人と出来るのなら……いや、そこまで濃密じゃなくても、何かを感じ取れる事が出来るのなら……
何かを伝える事が出来るのなら……
「マデアさん、オレ……確かにニュータイプの力っていうか、この感覚を信じている。だから、明らかに心の無い人は撃つ……事になると思う。完璧な人間じゃないからさ……頭に血が昇ったら、結局は全力で戦っちゃうかもね!」
最後は少し戯けてみせたニコルに、マデアは口元を少し緩める。
この漆黒の……何もかも飲み込みそうな闇の中で、これから大量の血が流れるだろう。
その血の多くは、時代に流され、環境に流され、組織に流され……何らかの理由をつけて戦場に出て来た人のモノだ。
戦争を主導し、最後に甘い汁を吸う連中には届かないだろう。
ニコルが救いたいと願っている人達が死ぬ……ここで命を散らす人の殆どは、戦争が無ければ手を取り合えていた人が大半だと思う。
かつて、地球に落とされそうになったアクシズという隕石……それを阻止する為に、敵味方関係なく押し返そうとした歴史がある。
これから戦うのは、そういう人達だ。
きっかけさえあれば、仲間にもなれる人達なのだろう。
だからニコルは救いたいと言う……それは、分かる。
完璧な人間じゃない……ニコルのその言葉に、マデアは少し救われた気がした。
「うまく……いかないモンだな……だが、諦められない。オレは……オレ達はニュータイプなんだから……」
「そう……オレ達はニュータイプだ! やろう、マデアさん! 自分達が思い描いている……更に良い未来に手を伸ばす為に!」
エボリューション・ファンネルが、プラズマ・ブースターを展開する円を描いていく。
「そうだな……出来る事は限られていても、それが紡がれて大きな波になればいい。その為に、今は全力で信じた道を進むだけだ!」
ザンスバインが、MDUのパーツを手に構え……そして、放つ!
「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
「いけえええぇぇぇぇぇぇ!」
2人の叫びを乗せたビーム・ファンの一撃はプラズマ・ブースターの力を加え、カイラスギリーに向けて伸びていった……