天から、純白の花びらが舞う。
コロニー内では、咲いていた桜が散り始めている。
そんな白い贈り物の中、マイは一人噴水の前に立っていた。
暖かな春の陽気が、心地好い風になって吹き抜けていく。
そんな心地好い陽気の中、マイは1時間近く立って、待ち人を待っている。
今日はレジアの誕生日…………マイの周囲は、穏やかな空気が流れていた。
そこに、争いの喧騒など微塵も感じない。
しかし、戦争は実際に行われている。
マイの待ち人……………レジアは、誕生日のお祝いをする約束をした直後、戦場に駆り出されていた。
約束といっても、メールで『OK』と入っていただけ…………穏やかな空間に身を置くマイの心は、逆に沈んでいく。
レジアが戻って来ないのに、この穏やかさ…………
もう戦いは終わって、レジアが墜とされたんじゃないか……………そんな不安が、マイの心を何度も過ぎる。
レジアは、リガ・ミリティアのエースパイロット。
絶対に大丈夫と自分に言い聞かせながら、しかし不安になっていく自分がいる。
ピピピッ
不意に握りしめていた端末から、メール着信の合図が贈られてきた。
『遅れてゴメン!!今から行くよ!!』
春の陽気の中、心は凍えていたマイだったが、そのメールだけで体全体が暖かくなっていくのを感じる。
マイの顔から、自然と笑みが溢れた。
それからの時間は、それまでと違い、桜が散る花びらの風情を楽しむ余裕がマイに生まれる。
「ゴメン、待たせたね!!」
離れていた時間は1日にも満たない…………それでも戦場に出てる時間は、永遠に続くんじゃないか…………そう思える程である。
だからこそ、再び会えた時のレジアの声は、マイには懐かしく、愛おしく感じられた。
「大丈夫!!レジアとデート出来るなら、少し待つくらいヘッチャラだよ!!」
「そうは言っても、結構ヒマそうに立ってたぞ!!遅くなった分、今日は沢山、楽しませるぞー」
普段とは違い、オフモードになって……………自然と手を繋ぎ引っ張ってくれる力強さに、マイの心は更に高まる。
レジアは、Tシャツにジャケットを羽織っただけのラフな格好であったが、帰還後直ぐに飛び出してくれた感じがして、マイは嬉しかった。
レストランに入り、早めのディナーを堪能した2人は、しばらくライトアップされた桜の散る風景を窓越しに無言で眺める。
その光景は、とても平和に見えた。
「ねぇレジア……………誕生日だし、プレゼントがあるの。喜んでもらえるか分からないけど………」
マイは、白と青でラッピングされた箱を取り出す。
「うわっ、凄い嬉しい!!女の子から、ちゃんとしたプレゼント貰うなんて始めてだな!!」
「うそっ!!リガ・ミリティアのエースパイロットが、モテない訳ないじゃん」
頬を膨らますマイに優しい微笑みを返したレジアは、その箱を受け取った。
「ホントだよ。学生時代は両親にしか祝ってもらった事は無いし、リガ・ミリティアに参加してからは、人同士で争ってるから、皆ピリピリしてて……………誕生日を祝う余裕なんて無かった。でも、こうゆうのって凄いイイなって思う。心に余裕も出来るし、リフレッシュ出来る。戦争なんて早く終わらせて、また平和な世界を作らなきゃって思わせてくれる………」
そんなレジアの言葉に、マイの顔にも笑顔が戻る。
「ねぇレジア、開けて見てよ。そんなに大した物じゃないけど………」
「でもマイは、オレの為にプレゼント選んでくれたんだろ。オレの事を考えて、プレゼント選んでくれてる時間も込められてるから、どんな物でもオレにとっては大切で貴重な物だよ」
レジアはそう言うと、包装紙を破れないように、丁寧に剥がしていく。
「おお!!腕時計だ!!欲しかったんだよ!!」
そう言いながら、早速レジアは腕時計を身につけた。
「マイ、ありがとうな。じゃあ、今度はオレから。プレゼント買いに行ってる余裕が無かったから、中古で悪いんだけど、オレにとっては大切な物だから………」
レジアはラッピングしていない箱を取り出すと、中からダイヤモンドのペンダントを取り出す。
「えっ?」
驚くマイ。
輝くダイヤモンドには、光で反射する彫刻が施されており、マイの瞳には神々しく映る。
「こんな綺麗なの、頂いていいの?」
思わず息を飲む美しさに、マイはダイヤモンドに吸い込まれて行くような感覚になった。
「それは、父と母の形見なんだけど、オレが持っていてもペンダントなんて付けないし、マイに身に付けてもらって毎日見せてくれる方が、オレも両親も嬉しいんだ」
「そんな……………大事な物、受け取れないよ!!」
思わず声が大きくなるマイをレジアは笑顔で制して、その細い首にペンダントをかけた。
「ありがとう……………大切に………大事にするね……………」
マイはペンダントに付いたダイヤモンドを握りしめる…………その時、マイの携帯端末の着信音が鳴り響く。
「はい?」
「ねぇマイ!!そこにレジアいる??」
ミューラの切羽詰まった声に、マイは驚いた。
「ミューラさん、どうしたの?そんな声出して。レジアと今、食事し終わったトコだよ。凄い綺麗なペンダント貰っちゃった♪今度ミューラさんにも見せてあげるね♪」
「ペンダントって…………レジアの身体は大丈夫なの?戻ったら直ぐ出てっちゃうし、トライバードは手足が吹き飛んで大変な状態だし、ニコルのガンスナイパーなんて、もうメチャクチャで…………」
ミューラの今にも泣き出しそうな声を聞いて、マイは一瞬にして血の気が引いていく。
「レジア、トライバードが損傷したって……………」
思わず通話を切ったマイは、嬉しさから心配な表情に変わった顔で…………不安な瞳をレジアに向ける。
「ああ、今度のザンスカールの新型は手強い。正直、勝てる気がしない。だけど………だからかもしれないけど、無性にマイの声が聞きたくなったんだ…………」
普通の状態であれば、レジアの言葉は嬉しかったかもしれない。
しかし、戦場では死と隣り合わせと実感した直後だっただけに、その言葉はマイには届かなかった。
「レジア、身体は大丈夫なの?今日はもう休もう!!早くメディカルチェック受けに帰ろう!!」
マイは本当にレジアの身体が心配で、いてもたってもいられない。
素早く会計を済ませると、レジアの手を引いて外に出る。
桜が舞い、白い絨毯のように花びらが重なる道を、マイはその雰囲気すら感じる余裕もなく、早足で歩き続けた。
ゴォーン!!ゴォーン!!
突然、真横から大きな鐘の音が鳴り響き、そこで始めて自分達が協会の前にいる事に気付く。
桜吹雪が、教会の前にいる2人を包み込んでいる。
歩みを止めたマイは、ようやく神秘的な世界に自分がいる事を理解した。
「マイ、身体の事を心配してくれるのは嬉しいけど、本当に大丈夫だから。ただ、今は少しだけこうさせてくれ………」
レジアは、マイの身体を優しく包み込んだ。
その温かさに、マイも自分の腕をレジアの背中に回す。
純白の桜の花びらが、2人を祝福する中で…………
2人だけの時間が流れている、その中で………
レジアの腕時計が、2人だけの時間を刻み始めていた………