「じゃあ、行ってくるぜ!!留守中にミリティアン・ヴァヴが墜ちている………なんて事は、無しにしてくれよな!!」
ミリティアン・ヴァヴ…………
リガ・ミリティアの新造戦艦、シークレット・ワンの正式名称である。
名前の由来は、インドにある階段井戸からとられた。
グジャラート語でヴァヴと言う階段井戸は、とても大きな造りで何層にも折り重なっており、祭礼や儀式で使われる為に美しい装飾が施されている。
もちろん井戸である為、乾燥地帯の生活に必要な水も提供しており、オアシス的な役割も果たしていた。
ミリティアン・ヴァヴもまた祭典用に建造された戦艦であり、そして将来的にはヴィクトリー計画の機体やダブルバード・ガンダムを搭載し、正にレジスタンスのオアシスの様な役割を持つ予定である。
そして、名付けの親でもあるインド出身のクレナ・カネーシャは、未だにインド地方に残る遺産、アダラジ・ヴァヴについて話をした。
とある国の王は、慢性的な乾燥に悩まされていた国民の為に、大規模な井戸の建築を始める。
しかし、その階段井戸を建造中に他国に攻め込まれ、国王は死んでしまう。
占領してきた国の国王は、元々の国の王妃の美しさに惹かれ、結婚を申し込む。
王妃は階段井戸が完成したら結婚すると約束し、占領者の王は階段井戸の建造を急ぎ進める。
そして、国民達が待ちに待った階段井戸が完成すると同時に、王妃は自らの命を絶つ。
国民の為に、自らの愛する王を殺した占領者の求婚を受け、そして完成と同時に命を絶った王妃の行動に、多くの国民の心を打った。
このアダラジ・ヴァヴは、占領される前後で建築様式が異なる。
そしてミリティアン・ヴァヴも、複雑な機構を持ち、ザンスカール軍の物として建造していたが、途中からリガ・ミリティア仕様へと変更された。
悲劇ではあるが、その不屈の信念と境遇がシークレット・ワンと重なり、クルー達は共感し、ミリティアン・ヴァヴの名が採用される。
そのミリティアン・ヴァヴの後部ハッチに取り付いている、連邦軍から借り受けたシノーペのコクピットにニコルとケイトは収まっていた。
ザンスカール軍のシノーペを連邦軍が押収した物であり、魚の骨のような構造は、モビルスーツが搭載されてない為に剥き出しになっている。
そのコクピット付近に、リガ・ミリティアのパイロット達が集まり、ニコルの出発を見送りに出ていた。
「お前は…………私達を誰だと思ってんだ!!この艦には、リガ・ミリティアのエース級パイロットが揃ってんだぞ!!」
その輪の中にいたヘレンが、ニコルのヘルメットを叩く。
「ケイト、ニコルを宜しくね。私達とそれほど歳は変わらないのに、この子は顔も精神年齢も低いからねー」
マヘリアの悪戯っ子っぽい笑顔は、周りを明るくする。
少し緊張気味のニコルとケイトも、その笑顔に癒された。
「マヘリアさんっ!!低いって何だよ!!若いって言ってくれませんかねー??」
「ほらニコル!!そろそろ出発するよ!!とりあえず、ベルトをしっかり締める!!」
マヘリアを追いかけようとするニコルの頭を抑え、ケイトは溜息をつく。
「しかし………アーシィとかって奴を本当に信用していいのか??未だに、ゲルダさんの娘とか、信じられないんだが…………」
「ゲルダの事は、私もよく知ってる。その娘さんで、ニコルの事を知っているなら、人探しくらい手伝ってくれるんじゃないかしら??ニコルの話だと、お母さんが病気で、止むなくザンスカールに協力してるって話だし………」
難しい表情をしているレジアに、ミューラが答える。
ゲルダは、ザンスカールがサナリィを接収した時もレジスタンスに協力していた。
その娘であり、ニュータイプ的な精神の共有を図ったニコルなら、アメリアに入る手引きぐらいはしてもらえるんではないか…………
「現実問題、成功確率は半々ってトコか??まぁ、考えても仕方ねぇさ。他にいい案もねぇし、マイは助けなきゃいけないんだろ??」
今度はレジアのヘルメットを、ヘレンは叩く。
「そうだな…………オレの恋人で、ニコルの幼なじみだ。絶対に助けないとな」
レジアの言葉に、ニコルは頷く。
本当はレジアも、シノーペに乗って行きたいのだろう…………しかし、立場がそれを許さない。
ニコルには、それが痛い程よく分かった。
「レジア!!任せてくれ!!マイを助けて、オレも一回り大きくなって帰って来てやる!!」
お互いに伸ばした、レジアとニコルの拳が重なる。
それで、お互いの意思が通じ合う。
レジアはミリティアン・ヴァヴを守る。
ニコルはマイを助ける。
「よし、行こうケイトさんっ!!マイを助けて、ついでにザンスカールの実状調査だ!!」
「はいよ。じゃあ皆、宜しく頼むよ!!」
コクピット・ハッチが閉まり、シノーペがミリティアン・ヴァヴから離れていく。
「マイさん…………無事に戻って来れるといいですね…………」
クレナの心配そうな瞳は、シノーペのバーニアを見つめていた。